トラクターを軽快に操っている若い女性農家がいる、という話は折に触れて耳にしていました。トラクターを操縦している若い女性、そう聞くだけでも興味を引きます。
会ったことはないけど、すごいなぁ~!と単純に思っていました。壮快さも勝手にイメージしていました。
若さとか性別とかで区分する必要はないのかも知れませんが、それでもやっぱり素直に、あっぱれ!と感じていたのは正直なわたしの気持ちです。
そして実際会ってみてお話を聞いて、その思いは間違っていなかったと感じました。歯切れとテンポ良い語り、心のこもった考えの強さと太さ。これを爽快といわずしてなんといいましょう。尾崎七海さんの軌跡。どうしてもみなさんにお伝えしたい航路です。


略歴(年齢、畑などの数字や状況は2022年1月現在)

尾崎七海(おざき ななみ)さん 28歳
大学にて生物学を専攻。
農業系の会社に就職。1年間働く。
小池農園(神戸市西区櫨谷町)で1年間研修生として入る。
同時に楽農生活センターにて1年間農業を学ぶ。
卒業後小池農園にて2年3か月正社員として働く。
退職後2022年4月より正式に就農予定。
農園面積:2反 ビニールハウス 7×50m2

高校生のころから「社長」になりたかった

高校生の時点でわたし社長になりたいなと思っていました。自分を分類すると理系です。
大学では生物学系を学んでいて、その中でも植物学はおもしろかった。
研究も卒論も「除草剤にまつわること」です。
4回生になったあたりから農業をやると決めていました。

しかし、ひとまず就職をします。モミガラくん炭をつくる機械を製造する会社です。
農家を巡って土壌分析、肥料設計をしていました。巡るうちにやはり思いは募り、会社のお客さまの紹介があって神戸市西区櫨谷町にある小池農園に研修生として行くことになりました。
小池農園の社長とは、やりたいことがよく似ているなと思いました。
つまり、地域を守る、風景を守る、農業を守る、というところです。

作業は基本的には米、麦、大豆にキャベツやホウレンソウなどの野菜づくりです。わたしは主に野菜担当でした。
トラクターに乗ることは別に怖くなかったですね。ただ、周囲からは目立っていただろうなと思います。女の子が運転していること自体人目を惹きますよね。
小池農園では退職後も手伝いをしています。今後も現金収入の確保する場としてアルバイトしていきます。

農業ってしんどいから、いかにみんなで力を合わせられるか

2022年4月には正式に就農しますが、いまは練習としてニラやホウレンソウなどをつくっています。スタイルとしては慣行農業ですが土づくりは有機的なので、いわばハイブリッド農家ですね。実際に農業してみて、肥料の設計等の数字以外にも多くの要素があるなと気づきました。

小池農園のやり方や、思いは引き継ぎながら新規就農者の窓口になれたらいいなと思います。とにかく、人を寄せたい。農業に関わる人口を増やしたいのです。
昔から人を使う、用いるというのが好きで、高校時代吹奏楽部の副部長としての日々は楽しかったです。
楽農生活センターで座学や栽培と農業を学んでいたころも、同時に八百屋的なことをしていました。同期の実習生たちと野菜を持ち寄ってマルシェなど開催していました。
農業ってやっぱりしんどいことが多いから、みんなで力を合わせることが大事だと思うのです。だからこそ私は、人や農地を増やしていきたい。

自分としてはとくにやりたい作物というのはないです。パプリカくらいかな。わたしの農園に来れば、その人がやりたいものを栽培してもらいたいです。
また、時代に求められる野菜を作っていきたいです。

農業はつらい、でも嫌いじゃない

自分自身はネガティブな要素も持っていると思います。「この野菜、売り先がなかったらどうするか」など常に頭をよぎります。でもそこから発展していくものだとも思っています。農業は、基本的にはつらいです。でも、嫌いじゃない。仕事だからできるということもあります。理解されないことがあるのがしんどいですね。
できることがひとつ、またひとつと増えることの喜びはあります。トラクターの操縦だったり作物のことだったり。野菜の味を評価されたり、ほめられたらやっぱり嬉しい。

人は大事

尾崎農園をどう発展していくか、についてはいくつか思いがあります。
まず会社にしたい。食育もしたいです。
それから、農業体験としてではなく仕事として、働き手として主婦層に来てもらいたい。
お母さん!家庭で料理をする人が働き手として野菜づくりを担ってくれたらいいなと思います。

ある程度、横のつながりを構築すると価格面や売り上げで助け合えるし、協力し合えると思います。わたしたちは価格を下げない、というグループがいれば心強いはず。そういうのを作れたらと思います。
農機具や、それこそ人材のシェアなどもできたらいいなと考えます。

ほんとうに、人は大事にしたい。色々な組織に属して来た今そう感じます。若い人が入ってきて、いつかリーダーになって地域周囲のことを担ってくれることが農村維持につながると思うのです。

農業の世界では、女性には味方しかいない

もし農業をやってみたいと思うのだったら、とにかくやってみたらいいです。頭の中でいろいろモヤモヤ、悶々と考えるよりもまずはやってみること。ぜったい、イメージとは違うから。就農でもいろんな形があります。わたしは社長にはなれないなと思ったとしても、様々なカタチで活躍している人はいます。パートでも農業はできますから。
信用を得るのは時間がかかると思いますが、コロナ禍という時代の中、農業も変わってきているはずです。

女性でもできる仕事ですよ。むしろ女性だからこそできる売り方はある。うまく「女性」をつかえばいい。農業の世界において、女性農家には味方しかいないよ、といってあげたいです。

おわりに

尾崎さんと対話していて、その最中に思ったこと(というよりも感じたこと)は、状況分析の明晰さと伝える迫力でした。擬音語で表現すると、ずんずん、とこちらの心に響いてくるものが絶えずありました。それはまた、けして不快なものでもなく、むしろその音響にこちらも委ねてしまうような、そんな心地よさがあったのです。なぜか? わかりやすい「利益」と「計画性」の話がまず前面にあること。それから根底には人に対する思いの強さの表れがあるからでしょう。自身もしんどい思いをされてきたからこそいえるであろう、人への興味と尊厳。時間を忘れて聞き入ってしまいました。一例をあげれば、小池農園の社長さんに関すること。「討論することもあります」とさらりといっておきながら(武勇伝っぽく自慢するでもないことはもとより)、話が農業人口について及んだときに
「もっといろんな農場に人が来ればなぁ」といった自然なつぶやき。理知的な面と人情味あふれる面とが交差した瞬間でした。その一瞬に、この人いいなぁとしみじみ思ったものです。また、第三者的に経営を見てもらっている、その存在は大きい、という夫への感謝の言葉。人を大事にしたいという尾崎さんの思いは表面的ではないことが伝わってきました。冒頭で「航路」という表現を使いましたが(畑だけど)、わたしには大海原を、まさに七つの大海を勇躍乗り出していく尾崎さんの姿がどうしてもどうしても浮かんでしまうからでした。