〈種はおよぐ〉では、プロジェクトメンバーが里でスタートした活動に参加して、食と里をつなぐ方法を探していきます。リサーチプログラムでは、現地に直接お伺いして、活動の困りごとや課題を共有し、クリエイターの視点からアイデアを出して、私たちがどのように関われるかを考えます。

第2弾として訪れたのは西区櫨谷町松本です。ここで、梅やレモンを無農薬で栽培している「田の樹んフルーツ」の丸山さん、石野さん、加藤さんにお会いしてきました。

無農薬で果樹を育てる新規就農トリオ

「田の樹ん(たのきん)フルーツ」という名前は、田んぼの中で樹を育てること、楽しく「勤」めること、楽しくお「金」を得ることに因んでつけられました。みなさん普段はそれぞれ無農薬の野菜をつくっています。3人とも農業を始めて4年ほど。農家になったからには、いつかは果樹を育てたいと考えていたそう。

「他の果樹農家さんのところで勉強させてもらった時に、大量の農薬を使っていたのを見たんです。霧のように濃い農薬だから、体調を崩す人もいた。それを見て、無農薬で果樹を育てたくなったんです。ハンデは多いけど、僕たちはもともと無農薬で野菜を作っているから、農薬を使わないこと自体はそこまで壁ではなかったかな。」

それでも、果樹ってすぐに育つものではないし、植える場所も斜面が望ましく、野菜のようにひとりで始めるのは難しい。それなら、みんなで楽しみながら試行錯誤しようと結成されたのが、田の樹んフルーツです。

いま何か悩んでいることはないかを尋ねると、「今は特にないんですよね」と、楽しく活動していることを教えてくださいました。 「これから活動していくなかで、虫に襲われたり、つまづいたり、何かアクシデントはつきものだと思うんです。でも、3人だったらそれも笑える。そして、そんな様子をお客さんや同業者とも、「また失敗したで」って笑いあえたらいいなって思っています。」

自分たちの活動で、背中を押したい

実は田の樹んフルーツのみなさん全員、元サラリーマンです。農家になったきっかけや道のりも個性豊かで、プロジェクトメンバーも興味津々。

石野さん「もともとは乗馬のインストラクターをしていました。妻の影響で安全安心な食べ物に興味を持って、農家になりたいと思ったんです。会社を辞めて、農家になったと思ったら、農地を手に入れるためには学校や農家さんのところに修行に行く必要があると知って。本当に何も知らないところからのスタートでした。当時はトラクターの乗り方やビニールハウスの必要性もわからず、道具も鍬1本からはじめましたね。」

やっと農地を借りられても、集落に上手く馴染めず、孤独で農業を諦めてしまうケースもあるそう。だから3人で楽しく集まって、困ったら相談できる関係性があることが農業を続ける秘訣にもなっています。

加藤さん「もともと祖父が農家をしていて、小さい頃はお手伝いをしていました。祖父の楽しそうな姿を見て漠然と継ぐことを考えてはいましたね。大学卒業後は父が運営する青果市場で働きました。それから、農家になるための研修制度があることを知り、西区の有機農家さんに3年に通って農家になりました。もともと家が農家だったので、集落にはすんなり入ったほうだと思います」

丸山さん「農家になるのは念願だったんですよ。農地を借りるのも、道具を揃えるのもすごく大変だった。学校に行く時間を確保するために会社にも行けないから、就農資金も貯めないといけなくて。でも、僕たちって、それぞれ苦悩を経験してきたからこそ、田の樹んフルーツの活動が楽しいし、難しいことも苦じゃないんですよね。」

今年は育ったレモンや梅が収穫できるので、お客さんとの関係づくりや神戸ファーマーズマーケットでの活動に注力していくそうです。

また、田の樹んフルーツの活動を長い目で見たときに、「農業人口を増やしたい」という目標もあるそうです。農家の担い手不足や、ご高齢の農家さんが、維持できない農地がたくさんあるけど引き取り先がない問題を肌で感じています。

「農家になるってハードルが高いけど、自分たちのように、新規就農でも農業ができている姿を見せることで「こんなやり方もあるんだ!」と、一歩踏み出してくれる人がいたら嬉しいですね」

新規就農で、さらに無農薬栽培に挑戦している3人が与えるパワーは大きいはず。種はおよぐプロジェクトとしても、もっと多くの人に届けるために、ぜひ発信をサポートしたいと感じました。

「発信するためにSNSを活用するのはどうでしょう?田の樹んフルーツさんの成長や変化、楽しみながら試行錯誤している姿が見えると、興味を持ちやすいと思います。」

それに対し「SNSは使っているけど、すごく疎くて」とおっしゃっていました。

「みなさんの更新を種はおよぐのfacebookでシェアすることでより多くの方に見てもらえるように私たちもサポートします。」というプロジェクトチームから提案しました。他のメンバーから「SNSで果樹が育つ過程を見ていると、育ったフルーツが食べたくなって、お客さんの獲得にもつながりそう」との意見も。

さらに、普段から活動を発信することで、人手が足りなくなった時にお手伝いの募集をしやすくなるという意見も。SNSやウェブを通じて、田の樹んフルーツと、お客さんや農業に興味がある人が緩やかにつながることで、良い循環が生まれそうです。

一人でやると大変だけど、仲間が集まれば、苦労も一緒に楽しめる。それを発信することで、仲間やサポーターが増え、活動の可能性が広がっていく。そんなサイクルを作るためのお手伝いが、種はおよぐプロジェクトにできるかもしれません。田の樹んフルーツさんの活動を、Facebookにてシェアしていきますので、みなさまぜひご覧ください。

田の樹んさんのインスタグラムがお茶目で可愛いです。ぜひそちらもご覧ください。