毎月オンラインで公開放送している「種はおよぐラジオ」の内容を、ダイジェストでお届け!進行中の取り組みの進捗や、新しいネタ、プロジェクトの未来の話など、どんな話で盛り上がったのでしょうか?今月のゲスト、神戸大学大学院農学研究科准教授 中塚雅也氏のコメントにも注目です。

続報 北区大沢町の山田錦について

日本酒の醸造に使用される酒米「山田錦」は、神戸の特産物のひとつ。高品質な酒米としてこれまで酒蔵へ出荷されてきました。しかし、国内の日本酒消費量減少等の影響もあり、平成30年以降は作付けは減少しています。

こういった山田錦にまつわる情報を入手して、種はおよぐメンバーは「何か協力できることはないか?」と生産者と酒蔵にヒアリングを実施。そこから見えてきた課題とアイデアを共有しました。

【課題1】 4月に減産要請が!食べても美味しくないし、どうする!?

生産者さんにお話を伺ったところ、コロナ禍の影響によりホテル・旅館での日本酒消費量がさらに落ち込み、ついには4月に減産要請があり先の見えない状況とのこと。日本酒醸造以外への転用も検討したこともあるが、酒米を使用する量もわずかで、酒米を食べても美味しくないという点がネックになっている。

【課題2】 日本酒消費量はピークの1/3!商機は海外にあり!?

酒蔵さんにお話を伺ったところ、国内の日本酒消費量のピークは1973年(昭和48年)で現在は当時の1/3程度まで減少しているとのこと。原因は、アルコール飲料の多様化によるワインやビールへの代替、日本酒のメイン消費層の高齢化などが挙げられるそう。一方で、海外では日本酒の消費量は増加しているため、海外の日本酒ファンづくりに商機を感じている。ただ、コロナ禍により急ブレーキ。海外へのアプローチの本格化には、あと2〜3年かかりそう。酒造りは、地元の水・米を使って持続可能な醸造を実現できる。しかし、国内では環境に配慮した酒蔵はまだまだ少ない。「持続可能性」はグローバルスタンダードな考え方なので、地産地消の酒造りは重要なポイントになる。

【アイデア】料理酒・甘酒・ノンアルで消費量アップ!?

山田錦の生産量を増やすためには、日本酒そのものの消費量をアップさせるか、日本酒以外への使い道を探す必要がある。生産者さん、酒蔵さんからお話を伺うなかで、「山田錦を使用した高品質な料理酒を開発する」「健康志向層に人気の甘酒を開発する」「好調なノンアル市場にあやかってノンアル日本酒を開発する」というアイデアが生まれた。

【次のステップ】引き続きリサーチしつつ、具体化を検討!

種はおよぐメンバーのWEBデザイナー 多々良直治が、引き続きリサーチを続行してチカラになれる「種」を探す。今回生まれてきたアイデアの具体化は、種はおよぐメンバーの料理家 對中剛大が中心となって取り組む予定。

メンバーのコメントをpick up!

鶴巻耕介(神戸市農村定住促進コーディネーター/農家) 醤油などの調味料を、農家の知り合いに教えてもらった「いいもの」に変えると料理がおいしくなった。だから、料理酒も「山田錦の料理酒」になると料理が美味しくなりそう。あと、自分はお酒飲めないので飲み会の乾杯でいつもちょっと困る。乾杯時にジュースもアレなので、ノンアルの日本酒があればうれしい。

山田隆大(神戸市経済観光局農水産課) 日本酒消費を下支えしてきた、手ごろな価格の日本酒(いわゆる「経済酒」)を日常的に消費する層が高齢化により減少している。一方で、近年は自ら酒蔵を調べて日本酒を購入する人も増えているし、個人経営の小さな酒蔵も増加傾向にある。日本酒全体の売り上げは減少しているが、ポジティブな要素もある。

岩本順平(カメラマン/プロデューサー) 「酒米として納品したほうが収益を確保できる」という、酒米の生産者の声も無視できない。神戸市には、どぶろく特区があるから、種はおよぐで、どぶろくを作ってみたい。

山内庸資(平面作家/イラストレーター) 短期的な収益と、長期的な収益のどちらを重視すべきか。目標と関係者の足並みを揃えて取り組みを加速させたい。

服部滋樹(アートディレクター/クリエイティブディレクター/デザイナー) 海外では、自家製ブレンド酒を作る際にホワイトリカーの代わりに日本酒を使うのが流行っている。そういった日本酒の活用方法を、既知・未知に関わらず発信することも大事。

大皿一寿(有機農家/神戸市農村定住促進コーディネーター) ビールの需要も減少していると聞いた。しかし、クラフトビールは好調だとか。そう考えると「クラフトsake」はどうか。ビール業界から学べることも多そう。

中塚雅也氏(神戸大学大学院農学研究科准教授) 日本酒は日本酒として消費するのが一番だと考えている。生産と消費がバラバラになっている点がポイント。消費者も生産に貢献する仕組みを作っていけないか? 例えば、大皿さんが取り組んでいる「CSA」の酒米版のように。

ゲストトーク withコロナ時代の農村での仕事づくり

今月のゲスト 中塚雅也氏(神戸大学大学院農学研究科准教授)に「withコロナ時代の農村での仕事づくり」をテーマにお話していただきました。

今農村で起きていること

人が減り、サービスが減り、文化などの目に見えないものも減ってきていて、農村はいま悪循環の中にあります。この状況を改善するために、人が人を呼び、仕事が仕事を呼ぶような好循環を生み出せないか?という考えのもと、神戸市とともに『神戸農村スタートアッププログラム』に取り組んでいるところです。

プログラム内容を簡単に説明すると、農村でビジネスを始めたい人や、農村への移住を検討している人をはじめとした「農村に興味を持つ人」と実際に農村を訪れて、地域・人・仕事について知っていただき、先駆者から理論やノウハウを学び、具体的なモデル構築がゴールです。ノウハウをしっかり身に付けるというよりは、農村のことを知り、考えを具体化するきっかけを重視する内容で、私は参加者のぼんやりした夢をカタチ(モデル)にするお手伝いをしています。

2019年にスタートして今年で2年目です。受講料は5万円と決して安くはないのですが、昨年は20名が参加してくれました。そのうち5名が1年以内に、4名が2年以内に農村で起業したいというアンケート結果からも、このプログラムがぼんやりと農村に関心を抱いている人たちの入り口として機能していると言えます。

農村の未来を考えるうえで、近年は都市で暮らして農村に遊びにいく「交流人口」に注目が集まっていました。しかしこれからはもう一歩踏み込んで、都市で暮らして農村にも拠点を置く「関係人口」や、拠点に囚われない「風の人」との関係が重要になると感じています。

農村は、都市に比べ仕事と暮らしが密接に関わりあう場所です。そのため、起業・移住を考える人も受け入れる農村の人も「仕事と暮らし」を両輪で捉えることが、農村の未来を考えるうえで重要だと感じています。

また、こういった議論になると「ソフト(仕組み)が大事」だとよく言われますが、「ハード(場所や物)」も大事なのかなと最近は考えています。これは肌感覚ですが、人はやはりランドスケープのある場所に集まる気がします。

メンバーのコメントをpick up!

実は「種はおよぐ」のメンバーの中に、農村スタートアッププログラムの運営に関わっているメンバーが3人います(そのうち2人が今回のラジオに参加)。彼らのコメントにも注目です。

鶴巻耕介(神戸市農村定住促進コーディネーター/農家)農村スタートアッププログラムにも携わっています! プログラムに参加した後の「出口」が課題。いざ住もう!となっても、肝心の空き家が見つからなかったり、地域の許可が出ないことがある。都市部のスピード感ではモノゴトが運ばない。ただ、地域の許可を得ることは農村を守るうえで重要なプロセスでもあり、コーディネートする立場としてはジレンマを感じる。コーディネーターの仕事は6年ほどさせていただいていて、自分が住んでいる淡河町では事例が少しずつ増えてきた。それでも、その場所に住んでいないと難しい部分はある。コーディネーターは細かい地域単位で必要。
人手の足りない地域に人を紹介したり、取材を通して動画や記事で農村の暮らしをアーカイブするなどはできそう。農村とうまく手をつないでいけたら。

大皿一寿(有機農家/神戸市農村定住促進コーディネーター)農村スタートアッププログラムにも携わっています! 鶴巻さんと同じコーディネーターを、西区で2年ほどさせてもらっている。西区には淡河町の「淡河本陣跡」のような拠点がまだない。まだまだこれから、という感触。

岩本順平(カメラマン/プロデューサー) 実際に農村を訪れてキーマンを紹介してもらって、暮らしや仕事のリアルな話を聞ける。さらにセミナーでは、資金調達やビジネスモデルの手ほどきもある。これで参加費5万円は、正直お得。「種はおよぐ」で関われることないか?

多々良直治(WEBデザイナー) プログラム卒業生が起業する際にデザインの力が必要になるはず。卒業生を取材することも大事。今後、就農を考えている人が知りたい情報を取材・発信できる。

今回の振り返り

對中剛大(ランドスケープデザイナー/ピクニックコーディネイター/料理家) 農村地域に興味を持ってもらうためには「きっかけ」が大事。そして、同じくらい「続けること」も重要。種はおよぐとしては、「きっかけ」を作り続けていければ。

服部滋樹(アートディレクター/クリエイティブディレクター/デザイナー) 議論する時に、農村サイド・クリエイターサイドという風に立場を分けない方がいい。種はおよぐでは、農村の現場では生まれないアイデアを出していきたい。異業種のクリエイターが集まっているからこそできる、15〜30年後くらい先の農村の未来像を議論するのも面白い。そうすることで、より自分事として捉えられる気がするし、もしかしたらもっと危機感を持って考えないと!という意識になるかもしれない。中塚さんの分野のお知り合いで、未来を語っている人がいればぜひ紹介して欲しい。