研修生として西区のnaturalism farmで日々農業を学んでいる二人の男性を紹介します。

野菜、米、麦などの栽培管理や収穫、はては2頭のヤギの世話までせっせとはげむ姿はまさに堂に入ったもの。トラクターの操縦もりりしく日焼けした姿が絵になる二人の若者の話は初々しくありながら頼もしくもあり、そこには未来への希望が見えました。

(年齢、状況等は2022年1月時点)

まずは二人の自己紹介と農業に関わるきっかけを

「稲垣将幸(いながき まさゆき)愛称クリスと申します。28歳です。米農家さんの手伝いをしたことがきっかけです」

※稲垣は父親が日本人、母親がメキシコ人のハーフでミドルネームにChris(クリス)を使う

稲垣将幸(いながき まさゆき)愛称クリス

「切原卓(きりはら たく)です。24歳です。イベントに携わっていた時に農家さんと出会ったことがはじまりです」

切原卓(きりはら たく)

では、いきさつをくわしく、農業研修生となるまでは

クリスさん:野球選手として四国の独立リーグに所属していました。
ケガをして当時治療に通っていた先の理学療法士さんと話していて、実家が米農家だということで手伝いに行くことになり。そこではじめて農業というものを知りました。
いいな、と思ったけど農業って誰でもすぐにできるとは思えなくて、老後にするもの、というくらいのイメージでした。
でも野球を引退してからより深く考えるようになりました。
そして段々と気持ちが農業に向かっていきました。

切原さん:むかしから日本中を旅していました。
小さいころから町、村や街々の風景が好きで。過疎化している町を盛り上げたいな、という気持ちは自然に芽生えていきました。
大学生のころ、丹波市柏原町で夏にキャンドルライトアップしているイベント(かいばらいと)に2年ほど関わっていました。そこで農家さんと知り合い、意識するようになりました。

クリスさん:引退してから、次の道はレストランを開くこと、農業をすることの2つを考えるようになったのです。
野菜や米をつくり、レストランでお客さまに提供する。そんな二刀流もありえるはず。
それにやるなら生まれ育った神戸の街でしたかった。
それで思い立ち、西区の移住相談ブースに向かっていきました。そこで担当してくれたのがいまの研修先の親方です。

切原さん:ぼくの場合は、イベントで出会った農家さんの雰囲気が良かった。
なんというか、言葉や行動にあふれでるこころの余裕みたいなものを感じました。
すなおにかっこいいなと思いましたね。サラリーマンとしての生き方もいいけど、農家という生きる道を意識しました。

クリスさん:移住相談では、最初は門前払いみたいな感じでした。でも、けして不可能とはいわれなかった。むしろ覚悟を試されているような気がしました。
後日、農園にて面談したときに、レストランへつながる流れが見えてきた感覚がありました。厳しい事を言われたのですが、もどう考えても、自分にはメリットとしか思えませんでした。

切原さん:大学を出て、まずは就職しました。IT関連の事務だったのですけど、違和感を覚えるようになってきて。
AIやロボットで代替可能な作業を繰り返す日々が続き、キャリアを変えるなら今のうちかなと考え『神戸農村スタートアップ』に参加しました。
まだそのときは農業へ進むか五分五分の気持ち、あくまで選択肢のひとつだったのです。
そこでいまの親方の話を聞き、研修させてもらおうと決めました。ビジネスとして、やりたいこととしての農業にはっきりと魅力を感じたのです。

研修生としての日々は

クリスさん:2020年の12月1日から研修開始しました。野菜の播種から栽培計画をはじめ、各種機械の操縦などあらゆるすべてをしています。自由にさせてもらっているからこその農業生活の組み立てを学んでいます。

切原さん:ぼくは2021年の11月1日からです。クリスさん(稲垣さんの愛称)と同じく、農業に関わるすべてをさせてもらい、学びと実践を繰り返しています。クリスさんからもいろんなことを教わっています。

それぞれの目指す農業と将来の展望は

クリスさん:このnaturalism farmのように、いつも人が集い、笑いがあふれているような環境をつくりたいです。また、高齢化している農家の方を助けたい、応援していきたいです。

切原さん:独立してまだなにをつくるかは決めていないけど、有機農業でいきたい。
その先は、これから決めていきます。農業するなら西区でやりたいですね。
親方やクリスさんなど地域に仲間がいるのは、強みになり得ると思います。
常に地域を巻き込んで、チームで何かできないか模索していきたい。
地域の高齢者や障害を持っている人、子どもたち、いろんな人たちが関われたらいいな。
みんな農業に関心をもってくれたらと思います。

クリスさん:出荷もしながら、自分のレストランでも使う、という農業ですね。農地は拡げていきたいです。若い人たちが来たら、有機農業をすすめたい!

切原さん:Bio CreatorsがおこなっているCSA※などの販路に乗せられるくらいのレベルに持っていけるよう精進します。
※CSA…Community Supported Agriculture の略。消費者が農家に前もって農産物の代金を支払うことで農家を支える取組み

お二人にとって農業とは

クリスさん:幸せ、のひとことです。いまは表情がやさしくなった、とよく言われます。

切原さん:自分と向き合えるもの。自然と触れ合えるから、こころに余裕が生まれる。そう思います。

好きな野菜、つくりたい野菜は

クリスさん:好きな野菜は、さつまいも。嫌いなものはありません。つくりたいのは、とうもろこし。トルティーヤをいつかつくってみたい※。
※クリスさんは、お父さんが日本人でお母さんがメキシコ人。それもあって、トルティーヤをつくってみたいとのこと。

切原さん:好きなのはオクラ。ねばねば系が好きです。長芋も。つくりたいのは長ネギ。煮ても焼いてもうまいです。

農業に関心を持つ人へのメッセージがあれば

クリスさん:他の産業からはいろいろ遅れていると感じます。でも、旧来の『しんどい、もうからない』はなくなってきているとも思います。
みんなの持つイメージとは違うということを伝えたい。だから、気軽においでよ!って、なんか偉そうか 笑。

切原さん:自分で気づいていないだけで農家に向いている人はいると思うのです。
知るきっかけがないだけで、そういうのを発信していきたい。
人手を欲しているところはたくさんあるだろうから、半日でも体験したら知るきっかけになると思います。


夢と希望と躍動感に満ちた時間となりました。

お二人の口からは後ろ向きの単語が出てきません。質問の中で「しんどかったことは」と尋ねましたが「ないっす」「ありません」と即答でした。

思いをきちんと胸の中であたためて、まっすぐに放つ。常日頃から真摯に、懸命に考えているからこその言葉の数々。

いいなあ。会話していてここちよかったです。自分以外の他者への思いやり、社会へのありかた、人と人との結びつきの大切さ。ごくごく自然に出てきていました。未来は捨てたものじゃない。応援しています。がんばれ!

〜農業者を目指す方へ〜

【農業者になるには】

自治体ごとに少し違いがあります。

ここでは神戸市で農業者になりたいと思ったらどんな方法があるかをお伝えします。

まず神戸市で農業者になるための要件は、10アール以上の農地の確保と一年以上かつ1200時間の農業経験が必要になります。その両方を整え神戸市の農業委員会に相談します。

1200時間の農業経験は、農業研修または、農業法人や個人の農家さんで働いていた経験になります。多くの方は農業研修を受けており、研修は兵庫県下の農業学校もしくは農家さんで受けることになります。

農地の確保と農業経験をクリアし、農業委員会での手続を経て、晴れて就農となります。

【まず農業を始めたいと思ったら】

ぼんやり農業って?みたいな状態のときは農家さんに話を聞きに行くや、農村定住コーディネーターに相談するというのをお勧めしますが、実際にやりたいという気持ちになったら神戸市農業委員会、兵庫県農業改良普及センターまたは、ひょうご就農支援センターに相談に行ってください。