みなさんは「みどりの食料システム戦略」という言葉を聞いたことがありますか?2021年に農林水産省が発表した、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現するという戦略です。その中には、「有機農業を25%に」「化学肥料や農薬の削減」など、大きな転換になるような計画も並んでいます。なぜこういった戦略が生まれたのか聞いてみたい!そしていろんな人とシェアして具体的なアクションを考えていこう!ということで、京都にある近畿農政局に飛び込んだ!

世界の気候問題と、日本の農業が抱える構造的な問題に。

鶴巻さん(兼業農家):いやー久しぶりに京都に来ましたねー。遠出はいいですねー。記念写真撮りましょ!岩本くん(カメラマン)撮って!

修学旅行ですか?

(その後、取材場所へ)

山内さん(イラストレーター):おおお、なんだかすごい部屋に呼んでいただけましたね。

大皿さん(有機農家):今日はよろしくお願いいたします。種はおよぐというプロジェクトの大皿です。僕はこのプロジェクトでは一応局長なんて呼ばれてまして。

???:京都までよく来ていただきましたね。せっかくなので今日は私がお話しましょうか。近畿農政局長の出倉です。

一同:げ!!きょ、局長!?

局長界のスーパーサイヤ人?種およの局長は…

出倉さん:なんでも聞いてくださいよ。いい機会ですから。

服部さん(クリエイティブディレクター):ほ、ほ、本日はよろしくお願いします。種はおよぐは探偵ナイトスクープをイメージしていまして、ネタをいろいろ拾いながら農水産業のことについて発信しようというプロジェクトです。

出倉さん:探偵ナイトスクープって関西ではすごい人気番組なんですよね。僕は今回関西が初めてなので、ようやく見れましたよ。東京では見れないんですよ(笑)

服部さん:種はおよぐの局長から近畿農政局長へインタビューをさせていただきます。国として、日本フードシフトや、みどりの食料システム戦略(以下みどり戦略)というものを打ち出されました。実際のところ、現場でどうあってほしいのか聞いてみたいということで、連絡させてもらった経緯になっています。

大皿さん:改めまして大皿です。私は神戸の方で12年ほど有機農業をしていまして、みどり戦略は有機農家の中でもザワザワ話題になっています。まずは、背景というか、なぜこういう戦略を立てたのかというところからお聞きしてもよいでしょうか?

出倉さん:はい、直接的要因は気候問題だと思うんですよね。日本の平均気温は、100年で1.28度上がっているのに対し、世界は0.8度しか上がってないんです。日本だけじゃなくて、北半球には大体先進国があって、経済活動が発展してる分だけ温度の上昇が高いんだと思います。農業の面では、温度が上昇するとお米の白濁の問題などが現れます。また、昔に比べたら果物の採れる場所がずいぶん変わり、果物にも影響がでていて、色がつかないといった問題もあります。もう一つは、いわゆる東南アジアみたいなスコールみたいなのが、日本中で発生するようになっています。雨が降らないのは困りますが、急に大量に降ることは農業への被害が出ます。台風もそうです。ここ4~5年でも、必ず日本のどこかでものすごい被害が出ている。そういう意味で、気候変動に対して日本の農業のあり方を大きく変えざるを得なくなってきているということがあります。

すごい人数や…

大皿さん:農業をしていると、強い台風はビニールハウスもやられますし怖いですね。

出倉さん:こうした気候問題や環境問題に、ヨーロッパなどは結構早くから取り組んでいます。農業は、自然と共にある産業だからこそ、自然への負荷も全くないわけじゃないんですよね。ここの表にありますように、農業だけで大体CO2排出量の1割、林業も含めると4分の1ですね。農業が与える気候への影響というのは結構あります。

(みどりの食料システム戦略参考資料より)

出倉さん:それから日本の農業全体を考えたときに、農業のあり方もどんどん変えていかないといけない。農業に従事している方の年齢も高くなってきていますよね。例えばイチゴとかは若い人が入っているらしいんですけど、稲作にはなかなか入らなくて、どんどん高齢化している。これは気候とは関係なく、構造的な問題でもありますが、日本の農業の持続性というものも危機的な状況になってきています。農業は工業製品とは違って、地域でその形態が違っています。欧米がいろいろな取り組みをするけれど、アジアはアジア、日本は日本の取り組みをしっかり作って発信していくことが必要だろうということで、このみどり戦略を去年(2021年)の5月に出したということなんですね。

大皿さん:世界の環境問題と、日本の農業に起こっている高齢化などによる構造的な問題に対応していくものということなんですね。

出倉さん:図らずも、みどり戦略を出した後に、今の肥料の高騰問題――飼料もそうですし、電気も、原油も、いろんなことが起きています。肥料の問題で言えば、農業に必要な3要素はほとんど100%輸入なんですね。これは日本が悪いわけじゃなくて、カリやカルシウムはみんな鉱石物ですから、どうしても地球の中で偏在しており、今まではどうしようもなかったのかもしれません。環境に配慮することと、科学的な肥料の使用の削減などがセットになっていると考えると、ある意味、肥料高騰対策の延長線上にもみどり戦略はあるということなのかなと思います。例えば畜産農家と一緒になって地域で堆肥化をして使っていこうとか、下水汚泥みたいなものから肥料成分を抽出するような、そうした新しい技術と一緒になって、国内にあるものを使っていこうということが必要です。

生産振興だけでなく、調達、流通、消費、すべてが揃って食料システム。

大皿さん:ありがとうございます。それでは次の質問です。今までは、農業人口が減っていくところを、法人化や大規模化をして、強い農業で日本の農業を保持していくと。それには化学肥料や農薬がセットになっていたかと思います。一方で、今回みどり戦略を出したことによって、化学肥料や農薬の削減といった、どちらかというと労力がかかるような方向に目標を立てていったように私は感じました。方向性を変えたのか、大規模化の上にこれが乗っかっているイメージなのか、そのあたりをお聞きしたいです。

出倉さん:変わってきたというよりは、大きな新しい取り組みであるのは間違いないと思います。今まで日本の農業って、内外価格差の問題や、日本の農産物は高いからもうちょっと国際競争力を持ってやってくれよっていう、そうした声が大きかったですよね。そのため、日本の競争力を高めようということを一つの命題として、いろいろ取り組んできました。ただ、競争力を高めていきましょうということと、今回の持続性ということは別に変わるものではなくて、日本の農業をしっかりやっていきましょうという意味では全く変わらない。

大皿さん:なるほどです。

出倉さん:それで、今起こっている食料価格のことを見ていても、国民に安定して食料を供給するということは、やっぱり日本の政府の役目なんです。私達の中では、国内生産と、輸入と備蓄と、その3つのバランスをうまくとりながらということなんですが、やっぱり国内生産をしっかりやりましょうということの一つの裏打ちなのではないでしょうか。環境に配慮した農業、つまり持続的というか、日本国内で自給的にというか、そういう意味の農業をしっかりやっていくことが重要なんじゃないかなと思いますね。

鶴巻さん:何が持続的なやり方なのかを考えるということですね。

出倉さん:とはいえ、やはり環境に配慮すると、今のままでは農家さんの労力は増えますし、おそらく収量も減るのではないかなと思ってはいます。今回のこのみどり戦略は、1年2年というものではなくて、2050年という30年後を見通した中長期の取り組みです。その中で、技術開発や農法の改良といったこととセットにしながら、そうした環境配慮型の農業のデメリットを少しでも減らしていこうということです。一方で、今まで農水省の政策は、こうした生産振興に強く取り組んできたのですが、今回は下表の右上に生産の取り組みがあり、同時に肥料や資材といった調達の部分も環境に配慮したものを使いましょう、取り組みを支援しましょうということになっています。それから、生産できたものを加工とか流通するときも、少しでもムリ・ムダのない取り組みを支援していきましょうと。

(みどりの食料システム戦略より)

出倉さん:そして最後に、一番私達の弱いところなんですが、実はこの体系を上手く回すには、やっぱり消費者のみなさんが理解をして、一緒になって取り組んでいっていただかないと難しい。消費者に対して、環境に配慮するということの必要性、重要性みたいなものを、周知というか一緒になって考えていくと。今までとの違いは、この4つの構成全体で食料システムと言っているところなんです。

鶴巻さん:生産側の話だけではないということですね。

服部さん:大皿さんは生産側ですけど、流通の話で、CSA(※消費者が生産者に代金を前払いして、定期的に作物を受け取る契約を結ぶ農業)の話とか、ちょっとPRしといてもいいんじゃないかと思うんですけど。

大皿さん:そうですね。消費者と直接やりとりするっていう、この形を広げていきたいんです。一つは消費者の啓蒙のところの役割が担えるのではないかと。自分の食べる食料がどのようにできているのか知りたい方は、昨今増えてきてるのは確実です。そこで、ちゃんと繋がっていけるような農業者の仕組みが必要なところで、そういう活動が大切かなと。

服部さん:ご説明いただいたことを聞いていると、この表のこと、CSAは既にやっている気がして。とはいえ、調達の部分ってお客さんがどこまで知っているのかなって。

出倉さん:そうですよね。日本の場合、スーパーに並んでいるものは、食べるにあたり問題のないものしか並んでいませんから。大きな問題意識はなく、誰もが美味しいものを買える。これは農薬を何%減らした作物ですっていうのは、目に見えませんからね。そうしたことの取り組みの苦労、そこまで理解して購買活動してもらうという関係において、CSAは一つの形なのかもしれません。一方で、すべてがそういう関係にはならないし、いろんな流通ルートは必要だと思います。ただ、2050年という長期の中で、少しずつ消費者の意識も変わっていくかもしれません。どうですか、お付き合いしていて、これは環境に優しいから買いますという人はいますか?

大皿さん:ここ数年、そういったニーズというか消費者の意識は上がっているのではないでしょうか。ある流通業者からは、首都圏の有機やオーガニックのマーケットは伸びていると聞きます。見える化という話ですと、一つは有機JASマークがあります。JASを広げていくというやり方もあるのではないでしょうか。

種およの局長も攻める

出倉さん:それも一つの手法ですが、有機JASを取っていただくまでに、農家さんのご苦労、取り組みがありますよね。ドリフト(※農薬散布時に散布対象の作物以外に農薬が飛散すること)の問題で周りの農家さんとの関係もありますし。今回私達がやろうとしてるのは、有機JASまでいかなくても、まずは少しずつ肥料の使い方を変えていく――肥料の内の一つでも二つでも、堆肥や自給肥料にしていくといった取り組みも応援していくということです。

鶴巻さん:私も少しだけ農業をしています。化成肥料や農薬って、戦後に人口が一気に増えていったときに、食料を安定供給するためにすごく大事なものという認識もあります。そうした時代の流れの中で、国として、とはいえ農薬とか化成肥料を減らしていった方がいいですよねという議論は、どこかに潮目があったのでしょうか。

出倉さん:やっぱり環境問題だと思いますよ。日本も世界の構成員の1人なので、世界と一緒になって環境問題に取り組んでいかなきゃいけない。僕らはここで生活しているわけだし、その土地っていうのは、作れない。そうすると、土地の再生産というものを常に頭に置きながら、農業生産をしていくことが重要なのではないでしょうか。

服部さん:すごくおもしろいと改めて見ていたんですが、消費者の興味どころって何だったかって言ったら、美味しいのは当たり前で、どういう人がどんな場所で作っているか、それがこの生産の部分に当たると思うんです。おそらく、次は例えばコープさんがやってるような、集団購入のような良きサイクルで手に取れるっていうことに興味を持ってますと。次に興味を持つのって、この調達の部分ではないかなと。もしかしたら生産の立場の人が、消費者が気づく前に、調達の部分で独自性を見出すかもしれません。

出倉さん:今回の肥料や燃料の問題も、日本は海外に多くを依存してるわけですよ。ある意味で、それが普通にありますということを前提にして、自給率を高めましょうとか、そういう議論をしてたんですね。今言われたように、エネルギーもね、バイオマス発電や太陽光も含め、地域で活用することをしていかないといけません。

服部さん:今まで以上に調達の部分に目を向ける人も増えてくるのではないでしょうか。

大皿さん:連日のように資材の高騰ってニュースで言われているものの、一般の人って全然知らないんじゃないかと思ってて。海外に依存をしているということ自体も。

出倉さん:これは僕らの悩みの一つでもあるんです。農家さんは、いろんな資材を使って生産をしているわけです。そうすると、当然生産コストはものすごく上がっている。ところが消費者の人は、価格が上がるときに、物価が上がったって不満を言うんだけど、でも本当のことを言うとそこも理解してもらわないと、農家さん自身が再生産できないんですよね。だからそういうことも含めて理解し合うというか。理解までいかなくてもいいんですよ、何が起きてるかというのをわかり合える。そういう環境は必要なのかなと思います。

服部さん:みんなが農業やったらわかるんですよね。

出倉さん:それこそ昔はほとんどの子どもは農家の生まれだったわけですよ。いつの間にか、じいちゃんばあちゃんは農家っていう家庭になって、今は「農家ってどこにいるんですか?」ってなってしまった。ちょっと話がずれますけど、みなさんたちの世代は「農業やろう!」と思われる方が結構多いですよね。僕はおそらくみなさんと同じ年の時に、身近なだけに農業をやろうとは思っていなかったでしょうね。だから若い方が成長していけば、日本の農業も実はそんなに暗いものではないのかもしれないとも思います。

大皿さん:若い人で、農家になりたいって人は増えていますね。

出倉さん:そうなんですよ。すごく新鮮なんです。一時、若い人は農家にはならないっていう時代だったんですよ。ところが最近、農家になりたいって人が増えていて、それがほとんど非農家出身の方。だから若い人で食べ物に関心を持つ人が多くなったんだと思いますよ。

大皿さん:農業人口が減ってくるのは、農家の息子が農業をしないからだとずっと思ってたんですよね。そうやってどんどん減ってきたんですけど、今は非農家の人がどんどん農家になって、少し明るい兆しはあるのかなと思っています。

鶴巻さん:よくも悪くも所得の問題もあるかなと思っています。おそらく私の親世代だと、会社が定年まで存在し、お給料もしっかり上がっていく場所にいた方が絶対合理的だったはずです。けれど今はもうそうじゃないので、独立志向というか、自分で全部できると考えると、会社勤めより農家の方が面白そうって思う人もいて、境目がなくなってきているような感覚はあります。

服部さん:コロナでますます加速しそうですね。

出倉さん:確かに社会環境もずいぶん変わってますからね。ここ何年かで、農業したいっていう方の声とかよく聞きますか?

大皿さん:私は神戸市の農村定住コーディネーターというものをやっていて相談会をしています。住みたいっていう相談を受ける中で、農業をしたいという相談がすごく多くて。

出倉さん:それも有機でやりたいって人も多くないですか。

大皿さん:ほとんどそうですよね。

服部さん:神戸がいいなと思うところは、収穫してから30分で届けられる距離に農地あるので、食べる人が見えている。生産して、需要と供給が整うんだろうなっていう想像がつきそうですよね。

出倉さん:私も近畿に来て、近畿ってどこの県に行っても直売所がたくさんあるんです。ということは、お米は別でしょうけど、野菜は直売所に自分で持っていって売れる。売れなきゃ自分のモノが悪いっていうので、そういう意味では消費者の目線に晒されやすい環境に、実は近畿の農業ってあるんじゃないかなって思っているんですね。

大皿さん:そうなんですよね。中山間地の農業と、都市近郊の農業は進め方も違うということですよね。

市町村単位で、有機農業や持続可能な調達や流通、消費に取り組む地域をつくる

大皿さん:すみません…時間が(焦)。続いての質問が、国連の家族農業の10年というのもありますが、そういったところとの関係性みたいなところがもしあれば。

出倉さん:おそらく直接的な関係はないんですよ、観点も違いますから。ただ観点は違いますが、この家族農業の10年も、世界の人にちゃんと食料を供給しようという目的のために、おそらく途上国を中心に、やっぱり家族農業って重要だよねということではないかと思います。このみどり戦略も農業を持続的に維持していきましょうとか、成長させていきましょうという意味、そして国民に食料を安定供給しようという意味では全く同じなんだと思います。家族農業って言葉を使うときに、おそらく日本は世界的な規模と比較したら、みんな家族農業なんです。

山内さん:なるほどです。確かに。

大皿さん:ありがとうございます。続いての質問です。有機農業を広げていくという政策の中で、今後示していきたいビジョンや政策があるのか、それとも、これから順次出していくような段階なのか、いかがでしょうか。

出倉さん:将来的な目標というのは、2030年までに2.3%の有機農業の面積を6.3%にしていくこと、そして2050年には、全体の25%、つまり100万haを有機農業にする、これが一つの数字として今出ています。おそらくヨーロッパなども同じような目標なので、世界的な水準でいきましょうと。それを実現するための政策的な話になると、一つは有機農業の産地作りということで、市町村単位で有機農業に取り組んでくれる地域に、オーガニックビレッジと宣言をしてもらい、それを支援していこうという取り組みをしています。目標が100の市町村で、今の時点で約50ほどです。このオーガニックビレッジは、生産だけじゃないんですと。生産されたものを、地域でどのように使うか、地域でどのように消費してもらうかということとセットで市町村の計画の中に位置づけしてもらって、初めてオーガニックビレッジを名乗っていいですよということにしています。例えば、学校給食で使いましょうという地域が少しずつ出てきています。そうした取り組みとセットでやりましょうと。このオーガニックビレッジを全国で増やすことによって、我が国でも少しずつ有機農業の理解を進めていく、そういったイメージで僕らとしては進めていこうと。

大皿さん:宣言されて、早速半分くらい採択されているっていうのはちょっと驚きました。

出倉さん:そうですね、結構有機農家さんがいたってことですよね。頑張ってきた農家さんがいたということと、行政のリーダーシップがあるところでしょうか。地域の産業として、やっぱり農業をっていうことと、やっぱり子どもたちに自分たちの農業をちゃんとわかってもらいたいっていうところに想いがあるような地域が手を挙げてるのかなあと。これは私の感想ですけれど。

服部さん:これっすね、これやりましょうよ。

大皿さん:神戸市とか京都市とか、そういった政令指定都市はまだないんですよね。どちらかというと、やはり中山間地の地方が困っていて、そうしたことをきっかけにして盛り上げたいと思っているのではないでしょうか。

出倉さん:でも神戸なんかだと、広げるときにドリフトの問題とか、そういうのはないんですか。

大皿さん:都市部の農村は、空中防除とか元々なかったりとかするので。

出倉さん:そうか、もう住宅がそばにあるからなかなか空中防除できないんですね。なるほどです。

大皿さん:だから実は都市部の方がやりやすいのでは、というような感覚はあります。それでは、次の質問をさせてください。実際に、10年後20年後の日本の農水産業のあるべき姿をどうイメージしていますか?

出倉さん:私たちで答えるにはとってもテーマが大きくて、大臣が答えるようなことですね(笑)。ただ、私たち役所の使命として、国民に食料の安定供給をしますっていうことは、使命の1丁目一番地です。そのために、何が一番よいことなのかということを考え、取り組んでいくっていうことだと思います。10年後20年後も、農業の形態は若干変わっているかもしれないけれど、国民のみなさんには、食べたいときに食べたいものが供給され、それがちゃんと安心なものとして食べられる――そういう世界を作っていくということです。そのための一つの手法として、このみどり戦略をしっかりやれば、そうしたことの近道といいますか、障害が減るということになっていくんじゃないかなと。バラ色の未来というよりは、今の日本の農業、食料、こうしたものが10年後も20年後も国民に不安なく供給されているっていうことが一つの形なのかなと思います。

大皿さん:ありがとうございます。では最後に、生産者や消費者、それぞれに伝えたいことを教えてください。

出倉さん:農家の方は、今起こっている物価高騰の問題も含めてご苦労されていることもあると思います。私達も、地域で農業が循環する環境を作るということが重要だと思いますので、ぜひ農業者の方もそういう環境作りに率先して参加してもらいたい。大きな枠組みの中で、少しずつ歩み寄り考え方を合わせていくっていうことを一緒になってやっていきたいというところです。それから市民のみなさんにという意味では、私たちの努力不足なのかもしれませんけど、食料を生産し届けるためにはこれだけのモノが必要で、世の中にはこんな影響があるんですということをわかってもらう機会を作っていかなきゃいけないと思います。そうしたことを理解した上で、みなさんたちの考え方の中で行動をしてもらう。環境への配慮についても、一緒に考えていきましょう。例えば食べ残しのような食品ロスや、曲がったキュウリが云々など、食べ物の価値について考えること。これは食育の問題になってしまうかもしれませんが、食べ物を買うときに、環境というフレーズみたいなものに少し関心を置きながら考えて頂けるとありがたいなと思います。

服部さん:最近、学生たちに価格転嫁のリ・デザインを出してもらっているんですよ。学生って、価格転嫁って言われても、野菜はとにかく安く手に入れたいですし、そもそもお金持っていないので。ただ何かできることがあるということで、例えばB品と言われるような既存の野菜をどう付加価値付けるかという、そこに注目している学生が多いんですよね。なので、デザインをやっている学生たちも食には意識が高いですので、希望はあるのかなと思ってやっています。

出倉さん:この前ある大学生と話しましたけど、農家さんところに行って、こんな苦労して作ってるんだと、今度から買いますって言っていて。でも100円高かったら買う?って聞いたら、顔を見合わせていました(笑)。でもそれは私たちが学生のときも同じ。でも、今の学生さんはね、やっぱり食に対する想いが私たちの頃より遥かに強いと思いますよ。昔はおじいちゃんおばあちゃんの家庭でみんな育ってたから、両親がいなくても食べ方とか旬の話などを教えられたんですよね。ある時みんな都会に出ました。そうすると、おじいちゃんおばあちゃんがいなくなったから、両親が忙しくなると、子どもに食育なんかしない。その子どもが大きくなって親になると、自分の子どもにはその大切さを教えることができない。一方で、そうだからこそ自分で考える若い人もいるんだと思います。

服部さん:ありがとうございます。オーガニックビレッジの話も、何か神戸式みたいなものを作れたらいいですね。

出倉さん:神戸市は農業市ですよね。ものすごく一生懸命。もう昔になりますが、農業公園(神戸ワイナリー)ができたときは、神戸市は日本で一番の六次化農業市みたいに脚光を浴びていましたよね。

大皿さん:これから農業公園もリニューアルされるそうで、僕たち農家もがんばっていきたいです。今日は本当にありがとうございました。

お忙しい中ご対応いただいたみなさま、そして出倉局長、ありがとうございました!