農村や、漁業についての取り組みを取材している種はおよぐ。こうした活動が生まれる背景には、街のためにどういった施策がよいか考え、予算を組み、背中を押してくれている行政のみなさんの存在がある。今回は、まちづくりを仕事にしたいと神戸市役所に飛び込んだ、建築系女子たちに迫る!(これ、神戸市の職員採用にとっても、いい記事になった気がするぞ…!?)

建てること以上に、暮らしをつくることに興味が湧いて。

鶴巻さん・岩本さん:今日はよろしくお願いします。まずは自己紹介をお願いします。

枝川さん:はい。枝川由佳です。神戸市に建築職として入って9年目です。最初の方は、建築の専門的な部署である建築指導部、次は建築技術部という現場系でした。その次に、農政の農水産課に行きたいですと希望を出したら叶って3年間、今はまた建築の部署に戻っています。農水産課では、食都神戸という神戸の農漁業の魅力をより味わってもらうための事業をしていました。ファーマーズマーケットや、地元の漁師さんたちとフィッシャーマンズマーケットの立ち上げなどを担当していました。

枝川さん

鶴巻さん:公務員になろうと思ったきっかけはありますか?

枝川さん:自分も楽しく暮らしたいし、みんなも楽しく暮らしてほしい。それぞれが楽しく暮らせるようなまちや仕組みをつくれたらいいなと思っていて。大学で建築を勉強していたので、デベロッパーとか沿線開発、まちづくり系のような民間の仕事も考えたんですけど、最終的に同じまちに対して関わり続けられる公務員を選びました。

鶴巻さん:大学で建築を勉強した人の就職先として、公務員というのはよくある形なのですか?

兼松さん:実は、枝川さんと同じ大学なんですが、20人のコースで、2人3人くらいでしょうか。メジャーではないけど、すごく変わっているわけでもない。

鶴巻さん:建物を建てることよりも、建てた先に興味が?

枝川さん:そうですね、使い方みたいなところに興味がありました。古いものも好きだし、つくられたものがどうやって使われているかに興味がありますね。

鶴巻さん:ありがとうございます。それでは川瀬さんお願いします。

川瀬さん:はい。川瀬葉月です。私は入庁8年目です。元々私もまちづくりがしたいって思ってました。まち再生推進課で、木造密集地域改善として垂水区の塩屋とか東垂水といった地元に入っていくことを3年やって。そのときに塩屋に出会い、めちゃくちゃいい街だなと思ってそのまま住み始め、今はもうズブズブです(笑)。その次は、企画調整局というところで各地域を俯瞰的に見るような経験をさせてもらって、その後に東京で建築法規のことを学び、今は指導部にいます。

川瀬さん

岩本さん:最近でかい家買ったらしいですね。

川瀬さん:そうそうそう。7LDK買っちゃいました、塩屋で。そこを面白くしていきたいなと思って。

鶴巻さん:7LDK!がっつりいきますな。公務員になろうと思ったのはなぜですか?

川瀬さん:神戸がめっちゃ好きで、神戸のためなら何でもできるという勢いです。あとは大学生の時に東北の震災があって、復興支援で現地を訪れた時に、やっぱり元々のコミュニティが復興に関して大事やなっていうのを学んで。改めて神戸の震災のことも調べてみたら、コミュニティが元々あったところの方がいち早く復興していたり、チームプレーで助かっていたりということを知りました。せっかく公務員になるなら防災系のまちづくりがやりたいなっていうのがずっと軸にあります。

鶴巻さん:ありがとうございます。では最後に兼松さんお願いします。

兼松さん:兼松愛佳です。川瀬さんと同期なので、今8年目で、出身が神戸市北区です。大学時代、6年間姫路で暮らしていて、設計に進もうかすごく悩みました。私は、伝統的建造物群のような街並みのルール作りや、街全体の空き家に関する調査を大学でやっていました。そういうことができるのは行政だし、神戸で働きたいっていうのもあって、市役所に入りました。最初に、建築安全課という法律に建物が合っているかどうかを審査したり検査したりする部署に3年間いて、そのときに建築分野の法律の基礎を学びました。2年目ぐらいに、神戸に数多く存在する茅葺き屋根を、どうやって適法に活用してもらえるのかということを検討するプロジェクトチームをつくって、それが次の年に冊子になりました。

鶴巻さんこうべ茅葺きトリセツですね!

兼松さん:そうですそうです。その次の部署は、都心三宮再整備課という都心エリアの開発関係の調整をしていました。今後、何をしたいかって思ったときに、まちの現状を把握して分析して、使える制度を考えるようになりたいなっていうのがあって、希望を出したら住宅政策の部署にくることができました。

兼松さん

鶴巻さん:公務員のキャリアって、こうやって聞いてみると面白いですね。みなさん、俗にいう安定を求めて公務員ではなく、オフェンスというか、やりたいことがあって入庁していますよね。入った後も希望を出せるのがいいですね。

兼松さん:希望を出したら近しいところには行けています。建築職というのもあるかもしれませんが。

岩本さん:お話を聞いていて、最近神戸市の人事はいい人事になっているんじゃないかと思い始めて。昔は行きたいって言っても行かせてくれないっていうのはよく聞いてましたよね。

鶴巻さん:いろんなこと知ってるよね、君。

海も山も、距離が近いからこそ生まれている関係性。

鶴巻さん:農のことを聞いていきたいです。神戸の農業や農政で感じてること、可能性やネガティブな側面も踏まえ、こうあったらいいのではないかということはありますか。

兼松さん:今まで思っていた農業ではない、新しい形が生まれている気がしています。ファーマーズマーケットであったりとか、顔が見える農家さんが多いんじゃないかなと思ったりしていて。それって実はすごいことですよね。

鶴巻さん:お仕事で直接の関わりはありますか?

兼松さん:今のところないですね。ただ、私は西区で畑を借りていて、近くで子ども食堂みたいなものをやっている方がいます。畑の農機具庫の一角にボックスがあって、野菜をつくって少し余ったらここに入れてくださいねとなっていて。農家さんも、ブロッコリーの脇から生えてくる部分とか、イチゴの熟れすぎたものとかを運んでこられたりしています。密にやりとりしたり、子ども食堂の運営に関わったりまではしていないんですけど、ゆるい関係というか、そういのがいいですよね。

川瀬さん:私も兼松さんのおすそ分け野菜をいただいて潤っています(笑)。ありがたい。

鶴巻さん:こうした働き盛りの世代が畑を活用して、つくった野菜を友人に渡したりとかっていうのは、なかなか大都市圏に住んでたらできないんじゃないかなと思って。いい街のあり方ですよね。川瀬さんはいかがですか?

川瀬さん:実は私、結構鶴巻さんと出会ったのが大きいなと思ってて。鶴巻さんが企画してた味噌づくりイベントを何かで知って、参加するために北区淡河町という農村に行って。こんなとこが神戸にあるんやって。

鶴巻さん:あるんです。

川瀬さん:しかもそれで終わる関係じゃなくて、三ノ宮のファーマーズマーケットに行ったら、「あ、鶴巻さん焼き芋売ってる。しゃべりかけてみようかなドキドキ。」みたいな。そしてお喋りできるような関係性ができて、私も農村に出向くし、農家さんも都会にも出てきてくれるし、いいなと思いましたね。

真剣な眼差しで味噌を狙う川瀬さん

川瀬さん:あとコミュニティの観点で言うと、まちなか防災空地という、いつか来る災害のために、空地を作っていこうという制度があります。空地は、自治会が何をやってもいいですよという感じなので、菜園をつくることもあるんですね。菜園というテーマ型のコミュニティができて、毎日水やりに行くから顔を合わせ、会話が生まれ、新しい繋がり生まれます。ある日、菜園に毎日来る人が来ないので警察に電話したら、家で倒れていて救急車で運んで、助かったということがあって。シェア菜園や畑がコミュニティづくりに寄与しているんですね。

枝川さん:神戸の特徴は、農家さんが結構近い距離にいるから、まちなか防災空地や市民農園のような都市部での取組みに農家さんも入っていたりで、まちで暮らす人と生産者の自然な関わりがあって。有機野菜って高級で一部の人が食べるものという感じじゃなくて、自分たちでもボチボチつくれるんだとか、この方法が専門的に言ったら有機野菜なんやなみたいな、そういう受け入れ方っていいなと思っています。

鶴巻さん:元々は接点も少なかったところから、そうした取組みを通じていろんなものが重なってきて、いい流れになっていますよね。ではそのまま枝川さんお願いします。

岩本さん:農水産系の元実務担当者や。

枝川さん<:そう思ってくれていてうれしいです(笑)。やっぱり街中に農家さんが出てくることって珍しくて、他都市から多くの方がファーマーズマーケットに視察に来るんですよね。市内の人より、他都市の人の方が、「こんな取組みをどうやって進めているんですか?」って驚かれます。そのポイントって、場だけじゃなくて、農家さんが「神戸でこんな場所があってね。」みたいなことを、お客さんと話していることなんじゃないかって。日々の取組みにあるとはいえ、そうした意識がすごいなと思います。

鶴巻さん:当時、自分で希望を出して、マーケットや農水産系の担当になった20代の若手職員さんがいるっていうのがすごくいいなと思って。当時のことを聞きたいなと。

枝川さん:3年前の話…。思い出すので、ちょっと待ってもらっていいですか(笑)

川瀬さん:枝川さんの言葉で印象的だったのが、おばあちゃんの家で楽しく暮らしてて、その原風景を再現したいって言ってました。

岩本さん:原風景とか建築系っぽい(笑)

枝川さん:そうそうそう。兵庫県の西にある赤穂市で育ったんですけど、野菜をおばあちゃんと一緒に採ったり、ジャムとかくぎ煮をつくったりとか、農的な生活っていいなと思っていました。神戸は、電車に乗っていても毎日感じているんですけど、海も山も近いし、こんなに都会で、農漁業を近くに感じられるところってそんなにないのかなって。それをもっと推したい!と思ったんですよね。あとは、農家民泊などの仕組みもやりたくて。やっぱり観光だけでは農漁業って分からないから、暮らしてみて、何かを感じてほしいなと。志半ばですけど、形にしていくことはすごい楽しかったですね。

若手農家と枝川さん

鶴巻さん:実際に赴任して様々なことを働きかけていくことによって、神戸に住む人たちが農漁業に関心を持ち始めているのではないかという感覚ってありますか?

枝川さん:そうですね。食に全然興味のなかった友達と一緒に須磨の潮干狩りに行ったら、そこからファーマーズマーケットにも遊びに来てくれたり。身近なところからではありますが、結構変化しているんじゃないかって。あと神戸って、若い人が農業に関われる余白が多い。有機農業学校に、私と同い年ぐらいの人がいたり、東京からやってきて、農作業のお手伝いに行ってそのまま農家になる人がいたりとか、農村と街が近いからかなっていうのはあります。

街の魅力にきちんと気づいて住んでくれる人を増やしたい。

鶴巻さん:未来の話も少し。農業や漁業に限らず、神戸市自体も、数字だけ見れば人口の減少率も大きくて大変だみたいな話があります。みなさんから見た、神戸の街がこうあったらいいなとか、行政として取り組んだらもっと神戸が面白くなるんじゃないかとか、そういう観点はありますか?

川瀬さん:私は去年東京に1年行っていて、様々な町を巡っていた時にいいなと思ったのは、その土地でつくられたものが食べられるお店があることです。お店の料理人やスタッフから食材やその土地の良さを聞くだけで、すごく美味しいし、その街も好きになる。でも神戸に帰って考えたときに、私のリサーチ不足もあると思いますが、ありそうなのにそういったお店が少なくて。神戸が好きな人は多いはずやし、何かきっかけがあればもっと増えていく気がしていて。

鶴巻さん:そういった話、以前から岩本さんも言ってますよね。魚もそうなんでしょうか。

岩本さん:魚はね、明確にあるんです。流通の問題で、神戸に卸す仲卸がいない。あとは、加工できる業者がほぼ町外や県外の業者だったりします。神戸産って記載して高く売れるんやったらみんな神戸産って書くけれど、そうなっていないのが現状です。高級な飲食店ほど、神戸産の魚を使おうってなっていないんですよね。

兼松さん:そういえば、神戸産ってあまり聞かないですよね。

枝川さん:おそらく、表示だったら兵庫県でいいんですよね。ブランドバリューとして、みなさんが神戸という名前を付けたいって思わせるような何かがないと。

鶴巻さん:行政の視点から何かできることとか、打ち手とか、そういったことはありますか?

川瀬さん:食都の取り組みはすごくいいなと思っています。私自身も少し意識が変わってきたし、神戸に住んでいるみなさんも、地元の食材を食べたいはずで。例えば、横浜の市庁舎には、地元の食材が食べられるお店が入っています。お店の取り組みとして、今週は横浜のこの地区で獲れた素材を使ったメニュー、次はこの地区といったように、産地食材PRもできている。そういう旗振り店が1店舗あるだけで違いますし、しかもそれが市庁舎にあるというのがいいですよね。外から来た人も感動するし、役所の人たちもこぞって食べに行けるから役所の人が知る機会にもなる。今度の市役所リニューアルで入れてほしいですね。

岩本さん:神戸市の展望台って市内有数の観光地ですから、連動できたらいいですよね。

鶴巻さん:農業と、農村風景や建築という観点でいくと何かありますか?

兼松さん:友人が民間の建築業界で働いていてよく聞くのが、神戸で、こじんまりした家で、小さい畑を耕すような生活をしたいという方が結構いるらしいんです。畑が大きすぎるのであればみんなで借りたいけど、農地法とかややこしいですよねと。周りの友達に聞くだけもそれこそ結構いて、農と暮らしがもう少し密接になるといいなと思うんですよね。神戸って立地的にもかなり有利だと思うし、そうした暮らし方とか新しい神戸のライフスタイルみたいなものを、どう後押ししていけるかでしょうか。

バイクで畑に通う兼松さん

枝川さん:さっきの茅葺きの話でいくと、神戸って茅葺き建築がいっぱいあるんです(約800棟!)。いっぱいあるけどそんなに知られていなくて、それをもう少し活用したい。観光じゃないけど、でも住むでもないというか―。なんていうんですかね、暮らしを見てもらうようなことが魅力の発信にもなるし、それが使っていない民家の発掘にも繋がるかもしれませんし、そういったことに行政としての役割ができるといいのかなと。神戸のポジションとして、1日の観光じゃ伝わらないと思っていて、山に行ったその日に海にも行けるような、その感覚がいいんですよね。時々農村に暮らしてみる、みたいなところもできたら面白いのかなと思います。

鶴巻さん:僕自身も共感します。観光地化するんじゃなくて、暮らして楽しい場所という感覚といいますか。ただ、それをどう伝えるかって難しいですよね。

兼松さん:そうですよね。日常の魅力というか。

枝川さん:分かりやすいものをつくった方が、観光客数や集客数とかも見えるじゃないですか。でもそういった見えにくいものに対して、どうやって合意形成して予算を付け続けるのかっていうのはすごい難しい。うん。そこのハードルはすごいありますね。

兼松さん:1回無くなってしまうと、再び戻せない魅力ってありますよね。伝建地区(重要伝統的建造物群保存地区)などに関わる中で、一度取り壊してしまうと、もう法律が変わってたりしてどうにもできなくなる現実を知りました。潰して何か新しい施設をどーんと建てることだけではなくて、その土地で続いてきた緩やかな魅力みたいなものを大事にしていくと、他にない魅力になるのではないでしょうか。時代のニーズに合わせつつ工夫はしていかないとですが、動きながら伝えて、知ってもらってということをずっとやっていきたいと思います。

枝川さん:そうですね。だから暮らしを実感できる民泊などの施設が市内にポツポツできているのはすごい希望やなと。広報的に、わかりやすくっていうのは難しいけれど、大事なことやと思っています。

川瀬さん:移住の観点でいくと、農業や漁業ってすごく大事なことだと思うんです。便利やから神戸住むとか、補助金あるから神戸に住もっていう人が10人いるのもありがたいけれど、農漁業が面白いからとか、街の魅力にきちんと気づいて住んでくれた1人の方が、この神戸の街にとって大事やと思うんで。

燃える川瀬。

兼松さん:めっちゃいいこと言うね。

川瀬さん:そういう人を増やしていきたいので、農政のやっていることとか、予算を切らずにやり続けてほしい(笑)。数の戦いじゃなくて、一人ひとりというか、大事にしてくれる人の方が街のためにとったらいいはず。人口増だけを目指すのではなく。

鶴巻さん:そういった感覚は、役所内では合意形成取れているのですか?特に、みなさんくらいの人たちがどう考えているか気になります。

川瀬さん:私的にはバラバラだと思っていて。というか少数派ですよね。

鶴巻さん:話聞いていたら僕としてはすごいうれしいなって思っていたんですけど。こういう思想は少数派なんですかね…(笑)

川瀬さん:ここで喋っていたら気持ちいい気分になりますけど、そのパイをどう広げていくか、伝えていくかっていう努力をしていかないといけないですね。動き続けていきますよ!