1200年前から残る建物の前で。

神戸市には、700棟ほどの茅葺き(かやぶき)屋根が現存しているという。しかし現行の法律では、防火上の問題などから新築で茅葺き屋根を建てることが極めて難しい。一方で、茅葺きには、その景観はもちろん、持続可能性やものづくりの原点といった側面を含み、今を生きる若者を惹きつける魅力にも満ちている。そんな茅葺き屋根に集う20代に迫ってみた。

そもそも、茅葺きってなんですか?

鶴巻さん:今日はよろしくお願いします。まず、「茅葺き」ってなんですか?というところからお聞きしたいです。

小西さん:か、茅葺きってなんですか…?

福山さん:く、草で葺いた(つくる)屋根…?

鶴巻さん:どんな草でもいいのですか?

福山さん:主にイネ科の多年草で、ススキとかヨシとか、あと稲わらや麦わらなどが使われています。地域によっては笹など、いろんな他の植物も使われています。屋根に使う草のことを総称して「茅」と呼びます。

(茅葺き屋根。青空に映える。)
(屋根の材料となるススキ。)

鶴巻さん:茅葺きって日本古来からあるんですか?

福山さん:そうですね、身近にあるものでどうやって家をつくるかとか、身を守り雨風をしのげるかっていうことを考えたときに、草が身近にあったから日本では草を使ったっていうことなんです。海外では、石が身近にあれば石を使うし、洞窟を掘ったりもしますよね。

鶴巻さん:ありがとうございます。ではもう少し狭めて、神戸と茅葺きっていうテーマでいくとどんな特徴があったりするんですか?

小西さん:こ、神戸と茅葺き…?

(質問を復唱し続ける小西さん)

福山さん:神戸は茅葺きの建物が意外と多いんです。数としては岐阜の白川郷よりも多く、全国でもトップレベルなのにあまり印象付いてない地域です。それは人口や建物の総数が多いから茅葺きが目立ちにくかったりとか、茅葺きが集まっている北区のこと自体があまり知られていなかったり。でもこんなに人が集まっていて街も近い場所に茅葺きの建物が多いというのは全国的にもものすごく稀なんです。

鶴巻さん:インタビューが全部「福山さん」になっちゃう(笑)

福山さん:誰か答えてよ。

小西さん:も、申し訳ありません。

建築設計、地域デザイン、魚への愛。

鶴巻さん:それでは次にみなさん自身のことを教えてください。こうした伝統産業とか、職人といった分野に若い人が集まってくるのはすごく面白いなと思っています。それぞれの興味を持ったきっかけなどを教えてもらえますか?

小西さん:はい。小西稀一です。今3年目で、屋根を葺く職人を目指しています。大学では海洋生物の専攻をして勉強していました。それで、ゆくゆくは生物の生息環境を守れるようなことを仕事にしたいなと思ってて。でも環境保全の分野って食べるのが難しくて、行政からの委託とか、それ以外だとほぼボランティアみたいになってしまいます。そんな時に、神戸の面白い人紹介みたいな本で茅葺きや親方を知りました。屋根に使う茅を、職人や茅葺きに住む人が刈り取っていくことで、その場所を生息環境にしている生物たちのすみかが同時に守られるっていうのを知って。自分たちも飯食えるし生き物たちも生きていける――win-winの関係になるっていうところに魅力を感じたのがきっかけです。

(まともに話し始めた小西さん)

鶴巻さん:入り口が陸ではなく海。

福山さん:魚っていう(笑)。

小西さん:建築じゃなかったです。

鶴巻さん:ありがとうございます。それでは次に圓山(まるやま)さんお願いします。

圓山さん:圓山亜斗です。2022年に入社して、僕も職人を目指しています。僕は元々建築のデザインを勉強していました。でもデザインをする人は、現場のこととか、なぜそこに必然性を持って建築物が立ち現れるのかっていうことについて語るんですけど、ないがしろになっているといいますか。そうではなくて、自分の手でいろんなものを触ってつくることが一番かっこいいなって思っていました。そんな時に、たまたま研究室の中で古民家を再生しようというプロジェクトがあって、2年ほど地方に移住しました。その場所にいる中で、自分で生活を組み立てて、自然からちゃんといただくし、自然にもちゃんと返す百姓的な生き方に魅力を感じました。ただ、今までの意味での百姓だと日本では食べていくのが難しいというのも周りの人から聞いていた中、たまたま茅葺きの仕事を知って興味を持ち、働かせてもらうことになりました。

(圓山さん。紅茶好き。)

鶴巻さん:今日本全体で、現場仕事に関わる人が減っていることが問題になっていますよね。寒いとか暑いとか、身体が疲れるってことよりも、慣れ親しんでいるパソコンを触っている方がいいみたいな感覚はなかったんですか?

圓山さん:僕はただ単純に現場仕事が魅力的に感じましたし、例えば設計をする上で、線1本の重みをもっと知るべきだなって思っています。僕はしっかり修行して茅葺き職人になるつもりではあるんですけど、将来的には線1本の重みを知っている現場の職人として、設計もできたらいいなと思っています。

鶴巻さん:魚入り口、建築入り口。ありがとうございます。それでは高橋さんはいかがですか?

高橋さん:高橋花歩です。2年目です。大学で建築を勉強してて…、かくかくしかじか気付いたらいるんですけど。

(高橋さん。青森で育ち、かくかくしかじか神戸に。)

鶴巻さん:…終わり?

一同:笑。

伊藤さん:か、茅葺きとはどう出会ったんですか?

高橋さん:好きな求人サイトがあって読み物としてずっと見てて。その時にふと出てきて面白そうだなと思ったんですけど、その時はもう募集が終わっていて。

小西さん:その時の募集で僕が入ったんですよね。「結局お前だけか、なんや。」とか言われましたけど。つら。

高橋さん:インターンなり現場を見せてもらうなりできますかって連絡したのがきっかけです。当時4年生で授業もなかったので、バイトさせてもらって。卒業後も何もやることが決まっていませんでした。

小西さん:家なき子。

高橋さん:4月からもバイト行っていいですかと。そんな感じです。

小西さん:な、な、な、何が楽しいん?(笑)

福山さん:どっかで働きたいとか、これやりたいっていうのは?

高橋さん:何にもなかったから、来ていいって言われたから行こうかなと。

鶴巻さん:建築を勉強してて、何か課題を感じたとかやりたい領域があったとか?

高橋さん:あ、全然ないです。使命感とかないです。設計したいって思わなかったから就活しなくて、2年ぐらいフラフラしようとしてました。

鶴巻さん:色々なきっかけがあって面白いですね。では次に福山さんお願いします。ここからは、現場の職人ではなく、違うアプローチで茅葺きに関わるみなさんですね。

福山さん:福山夏映です。私も2年目です。デザイン部に所属しています。都市計画や建築を学ぶ中で、地域計画と呼ばれる、建築物を通じて農村地域をどうやって良くしていくかということを学んでいました。その中で、農村地域に合う建築って、土とか木とか石とか、その場所にある素材を使ったものが美しいんじゃないかなと思いました。その中には草もあって、風景として茅葺きがあることがすごく美しいなって思って惹かれました。

元々仕組みをつくるとかモノをつくることが好きで、その場に欲しいものがなかったら自分でつくりたいって思うのが根っこにあります。茅葺きは、建築、デザイン、職人としての仕事、業界…どれを取っても発展途上だと思っています。衰退しているって言われ続けて、実際に茅葺きの数も減っていて、どうにかしなきゃいけないっていう業界に対して興味を持ったのも理由です。伸びしろしかないなとか、新しいものがつくれるんじゃないかなって思いました。

(福山さん。お酒好き。)

鶴巻さん:茅葺きという手法を使って、新しいことがしたいと?

福山さん:茅を使っているのが伝統的な屋根しかなく、それが勿体なく感じて。茅にはもっともっと可能性があります。形を変えることもだし、屋根だとしても、現代の人が住みやすい家にできるんじゃないかとか、もっといろんなポテンシャルがあるんじゃないかと思ったので、新しい茅のデザインをしたいです。

鶴巻さん:また全く別の観点で茅葺きを見ているんですね。それでは最後に伊藤さんお願いします。

伊藤さん:伊藤絵実里です。神戸市の制度である地域おこし隊として、2022年から茅葺きを活用した地域おこしに取り組んでいます。私は、大学を休学して半年間神戸に住んでいた時期があって、神戸いいな、住みたいなという思いがあったのがひとつ。あとは、大学でデザインを勉強していて、最初は最先端で便利なものをつくるみたいなのがデザイナーのイメージでした。ただ色々と違和感があり、そうではないデザインをやりたいなと思ったときに、地域×デザインみたいなところにすごく興味を持って、そういうことができそうな求人がたまたまここだったという感じです。

(伊藤さん。地元の人から譲り受けるジャンパーが染みる)

鶴巻さん:茅葺きそのものが入り口ではないんですね。

伊藤さん:そうですね。ただ入社して、茅葺きの現場に出させてもらったり、大量に茅葺きの本を読んだりする中で、自然に還るとか、茅葺きはすごく利にかなったものだと知り、魅力的だなって思うことが増え、すごく興味が湧いています。

働き方や価値観が多様になる中で、20代の視線とこれから。

鶴巻さん:自己紹介ありがとうございました。個人的には、生き方がどんどん多様になる中で、20代のみなさんの仕事に対する感覚ってどうなんだろうってすごい興味があるんですよね。対仕事、対茅葺き、対自分みたいな感じで今どんなことを思ってるか、少しお話聞かせてもらえませんか?

伊藤さん:私は、茅葺きに対して自分の心の中の違和感が少なくて。元々、自分のやりたい仕事がしたいと思って休学して探し続けたけど、何をしても違和感って絶対あるじゃないですか。ここ行ったけど納得できない、ここ行ったけど納得できない、次こそは…みたいなことをずっと繰り返してたんですけど、全部を納得できる仕事ってないんだなって思いました。でも茅葺きは、一番違和感が少ないといいますか。

鶴巻さん:違和感って何ですか?

伊藤さん:えぇ…!?うーん、でもゴミがほとんど出ないのはすごいいいなと思います。

鶴巻さん:そこ!?

伊藤さん:単純に。なんで自分がゴミにここまでこだわるのかわかんないですけど。この間の門松だって、茅ツリーだって、ほぼ元に戻せるし、自然に還る。なんでしょうね、ゴミが出ないのいいですね(笑)

(年末につくられた門松)

鶴巻さん:福山さんは、昨年の秋から冬にかけてめちゃくちゃハードだったと聞きましたが?

福山さん:…めっちゃ楽しいです(満面の笑み)。

小西さん:…メンタル強いよね。あの時の状況を思い返してそれ言えるって、ドМやん。

福山さん:フラフラでしたけど、結果楽しくて。やっぱり新しくつくることが好きなんです。自分で何とかしなきゃいけないっていうのはプレッシャーや責任感はあるんですけど、ある程度親方が任せてくれようとしないとできないことだし、ありがたいです。茅葺きってまだ家具にしたりとか細かい内装にしたりとか、そうした仕事って今のところ世界的にもほとんどやっていないことだし、他の人がやったことのないことを自分が考えてつくり出せるというのは大きな喜びです。

(茅をつかった新しい見せ方に挑戦)

鶴巻さん:ありがとうございます。高橋さんはどうですか?

高橋さん:………………どうですか?

鶴巻さん:日々どんなことを考えながら現場仕事してるのかなと。

高橋さん:どうなんでしょう…。そんなに難しいこと考えて生きてないです。これしかやったことないので比較するものもないですし。辞める理由がないから辞めてないだけです。

鶴巻さん:潔しっ!

小西さん:以前親方が、普通の仕事の選択肢として茅葺きがあるようにしたいって言っていました。今はまだ基本的に徒弟制度を通じた職人枠しかないですし、ハードルが高い。実は高橋さんは普通に選んでもらえてる人第1号なのかも知れないです。「弟子入りするかしないんかどっちや!?」みたいな世界じゃなくて。

鶴巻さん:なるほどです。職人業界の徒弟制度みたいなのとはまた違う、新しい形なのかもしれないと。いいですね。現場枠でいくと、圓山さんは?

圓山さん:すごく性に合っている気がして、茅葺きに関わることは楽しいです。植物や動物が代謝していって世代交代していていく中に、茅葺きが立ち現れる…、たまたま立ち現れる。そこには人の思惑とかも当然入ってくるんですけど、いわゆるデザインみたいなのは介在しなくても立ち現れるじゃないかっていう。

伊藤さん:出た、立ち現れるって言葉。…この人難しい。

圓山さん:……。究極的にはつくれる人とつくりたい人がいればいいんじゃないかって。全世界的に、建築って大人の事情や思惑が強く影響している分野だと思うんですけど、なくてもモノができるっていうか、巣はつくれるんじゃないかって。あとは、僕自身は徒弟制度が好きで、そういうのが嫌だって人も同世代で多いと思うんですけど、生き様を見て学ぶというか、本当に弟子として一番下っ端として扱ってもらえるのがありがたかったりして、それもまた面白い発見です。

(日々修行中)

鶴巻さん:ではこの中では一番先輩の小西さんはどうですか?

小西さん:ここ数年日本の至るところで災害がありますよね。僕はまだ直接的に被害を受けていないですが、こういうことが起きた時に、絶対最初に死ぬタイプの人間やと思ってて。何か起きたときに何もできないし、学校で教えてくれへんし。ここに来る前に季節労働をしていたときに、山、島、里…で暮らす人らと接して、何か起きたときに誰かが解決してくれるのを待つんじゃなくて、自分でできることをまず始めちゃう人たちに出会いました。そういう基礎体力というか生命力みたいなものを自分もつけたいなと思ってここに辿り着きました。例えば縄を結ぶ技術とか、すごくシンプルやけどやっていなかったらできないことがいくつもあって、自分の生活の中に活用できます。最近はやっぱり仕事の難しさや魅力はどの仕事も共通しているのかなと思っています。例えば屋根の雨漏り補修を終えて、ただ単に作業した内容を伝えるのではなくて、どうしたら安心してもらえるやろうってことを考えることも増えてきました。

鶴巻さん:3年目となると、見えてくる世界も広がってますね。普段このメンバーで、もっとこうあったらいいよねとか、仕事の話とか将来の話ってするんですか?

伊藤さん:圓山さん夢あるって言ってましたよね。

圓山さん:1つ夢があって、自分でゆくゆく独立したりしたときに、場所が必要じゃないですか。自分の事務所を茅葺きで建てて、社員さんのパソコン仕事をしてもらうのと同時に、事務所の一角を開放してカフェスペースがあったらいいなと。あと、そこで自分は資源の循環…、循環って言い方は僕好きじゃないんで、資源の交替って言ってるんですけど…。

一同:笑。

圓山さん:その一歩先を考えたときに、お茶を育てたいです。茶草場農法というのがあるぐらい、お茶と茅って相性良くて、そのお茶で紅茶をつくって、その紅茶が飲めるカフェテリアみたいなのを社員さんと地域の人と外から来る人とで共有したいです。

福山さん:私も学生時代から30歳で独立したいって思ってて、茅を使ったデザインをするデザイン事務所をつくりたいです。それが段々具体化していってる感じで、5年間デザインの修行をして、いつか独立したいです。

岩本さん(カメラマン):隣の高橋さんがすごい眉間にしわを寄せてるんですけど。

小西さん:両サイドが暑苦しいんですよ。

(両サイドの迫りくる熱気をネックウォーマーで防御)

伊藤さん:私は、地域の文化とか地域にあるものを使って、地域を元気にしたいっていうのがあって、今回たまたま出会ったのが茅葺きだったから、違和感も少ないし、しばらく茅葺きに関わりたいなって思ってるぐらいです。だけど、地域おこし隊の任期は3年なので、いろんな人に3年後どうするのって言われるんですけど、正直10年後のビジョンを見据えるよりも、3年後自分がどうやって食べていくかしか最近考えられないかもしれません。

鶴巻さん:伊藤さんは別の視点で茅葺きを見ているような気がしますが、刺激を受けたりしないですか?

圓山さん:茅葺きのイベントなど、人を巻き込んで企画していくっていうのが単純にすごいなと。

福山さん:伊藤さんは、地域おこしっていう仕組み作りの方向で、私はいいものをつくって精度をアップするとか、そういう方向なんですよね。私は、茅でどんなことができるかとか、どういう納まりにしたらきれいかとか、そういう細かい部分をデザインしてくことが自分の性にあってる感じがしています。ひたすらここをきれいに切りたい!いいラインに切りたい!とか。

伊藤さん:それいつも言ってますよね!私そういうの本当に無理なんです。

鶴巻さん:デザインするだけでなく、手を動かすことも楽しいっていう。

福山さん:そっちが楽しいですね。自分がつくることを考えながら、じゃあどうやってつくろうか、どんな素材を使って納めるかっていうのを全部含めたデザインが楽しいなと。

伊藤さん:小西さんの将来像も聞きたいです。

小西さん:ないもん。とりあえず狩猟免許取りたいなくらい。

伊藤さん:食べたいってことですか?

小西さん:自分で肉をゲットできるって強いなと。

圓山さん:動物性タンパク質大事ですもんね。

鶴巻さん:結婚はいかがですか?

小西さん:結婚…。結婚なぁぁぁぁぁぁぁぁ…。うわー。じゃあ狩猟免許とリア充でお願いします。