種はおよぐの各メンバーは、実はひっそりと世界各地に赴き、食について素敵な気付きや学びを得ています。そんな学びをシェアしようということで、シリーズ化してみることに。第2回は、昨年度まで種はおよぐの担当をしていた、神戸市役所の佐野さんによるアメリカ・ポートランド編です。

全米屈指の農業王国、オレゴン州ポートランドへ

みなさんは、ファーマーズマーケットに行ったことはありますか?生産者が自ら店頭に立ち、商品説明や味の感想から世間話、いろんなコミュニケーションが生まれる機会であり、まちの人と農業との気持ちの距離を縮める場でもあります。神戸では東遊園地の「EAT LOCAL KOBE FARMERS MARKET」をはじめ、マーケットやマルシェと呼ばれる場が生まれています。

そのモデルになったのが、ポートランドのファーマーズマーケット。

アメリカ北西部、シアトルを挟んでカナダまであと500キロの位置にあるオレゴン州ポートランド。
全米住んでみたいまちランキング上位、世界の環境に優しいまち第2位。

ポートと言いつつ実は内陸の都市、全米屈指の農業王国であるオレゴン州です。(昔のCMでオレゴンさんのいちごかけるヨーグルト〜ってやつ、ありましたね。)
都会から車で小一時間の距離に農場があり、新鮮な野菜が手に入る環境です。オーガニック野菜専門のスーパーマーケットや、CSA(農家に野菜代金を先払いし、旬の野菜セットを受け取る購買方法)の利用者も少なくないそうです。

また、クラフトビールやワインなど地元の商品を選ぶ人が多く、飲食店はチェーン店以上にローカルのレストランが賑わっています。

日本では、地産地消やオーガニックは暮らしにゆとりのある人の趣味や道楽のように思われていることもしばしばありますが、なぜこのまちではそれらが日常になっているのでしょうか。

答えを探してみるべく、ポートランドの農業とマーケットの現場を訪れました。

1.まずは畑に行ってみた

圃場(=農地、畑)を見たいというよりは、どんな人がやってるのかを知りたい。
今の日本の農業における課題は担い手不足。地産地消どころか農業の維持のため、新たな担い手がいないと農業は続かないのですが、ポートランドではどんな人たちが農業に携わっているのでしょうか?

side yard farm & kitchen

面積は約4反(=4000㎡)、住宅街の中にあるこじんまりしたファーム。

シェフのStaceyと陶芸や古着のリメイクなど多才なJamieが、農園、サパークラブ(少人数の食事会)、ヨガ…などいろんな活動の場をつくっています。

左から、StaceyとJamie。今回の農家ツアーもコーディネートしてくれました

彼女たちの活動のテーマはseed to plate。
Staceyは、ポートランドの農や食にかかわる人々と日本をめぐり、都市農業や有機農業について交流するツアーを企画しています。

農園のあるカリー地区では、農園やビニールハウス付きの住宅がいくつもあり、住民にとって野菜を育てることは日常的なことみたいです。

また、道路には住民用の生ごみコンポスト容器が設置されていました。

FIDDLEHEAD FARM

ショートカットがキュートなKatyが切り盛りする農園。
傾斜のある土地を利用し、多種多様な野菜が栽培されていました。

斜面なので歩いて上がるだけでも体力を使うので、農業機械はマスト。

お金のかかる機械類は公的な補助金で購入し、それ以外の作業台や洗い場、冷蔵室も(!)DIYでつくったそう。そうしたDIYキットはホームセンターで売っていて、誰でも手軽に作れるんだとか。まじですか。

たとえばこれね。言われてみれば手作り感なくもない

就農初期は何かと物入りなので、コストは有効に振り分けたいですよね。DIY精神はポートランドの住民性でもあるそうです。

オーガニック農家として避けて通れないのはやはり虫問題で、菊由来の防虫スプレーで駆除しているそう。
日本にも除虫菊(蚊取り線香の原料)がありますが、そういうやつなのか…?気になります。

FLYING COYOTE FARM

パンチ効いたネーミングですが、前の2農園と同じく、こちらも女性の多いファームです。
リーダーのLILIさんによると、コヨーテなどの害獣を追い払いながら、ヤギと犬をバディにして、畜産にも取り組んでいるそうです。

といいつつ、ヤギと犬にもコヨーテにも遭遇できず。

野菜もバリエーション豊かで、キャベツや白菜の露地栽培のほか、ハウスの中ではピーマンみたいなサイズのジャンボ唐辛子も。

基本曇天多めのポートランドですが、
農具がポップでかわいいのが印象的。こんなん日本にもあるのかな。

ここは連邦政府から有機農業の補助金をもらっていて、定期的に査察が来るそうです。
日本ではどういった支援があるべきなのか…と思いをめぐらせる機会になりました。

また、彼女たちはファーマーズマーケット出店の他、CSAにも取り組んでいます。
ちなみにポートランドでは、平日はCSAで届いた野菜を食べて、土日はマーケットで買ったものを料理する人が多いそう。もちろんスーパーマーケットもありますが、これらを好きなように、好きな割合で組み合わせているようです。なんだか楽しそう。

VIBRANT VALLEY FARM

ファームツアーの最後に訪れたのは、パワフルなKaraさんが経営する農園。
ポートランド市内から車で北へ約30分、ソービ島という川の中洲にある広大な農場です。

水はけがよく水もちが良い、団粒構造という理想的な土のエリアなので、長靴がしっかり泥だらけに。

彼女にとって重要なのは、スタッフが食べていけるようにきちんと利益を出すこと。
そのためには、作物は食用の野菜に限らず単価の高い作物もつくるし、スタッフの人数や土壌条件を鑑みて、一度拡げた農地を戦略的に縮小することも。経営判断ですね。

藍やマリーゴールド、日本では見たことがないような軽やかなサーモンピンクの菊もありました。
特に藍は日本の徳島で感銘を受けたのがきっかけで取り扱うようになり、染料はもちろん、石鹸などに加工して販売しています。手札が多いな…!

Karaの勧めで、農道に咲いていたフェンネルの花を食べてみたらとても味が濃くて美味しかったです。(スーパーだと葉と茎だけなので、そもそも花を初めて見たかも)

これまでの農園全てに共通するのが、DIYや創意工夫のマインド。
制度はうまく利用しつつ、ないものは自分たちで作りだして前に進む。

そして、ファーマーたちが生き生きとしていて、楽しそうでエネルギッシュ。
農具や看板ひとつとっても、カラフルでかわいい。

畑に停まっていた車。可愛すぎて持って帰りたい…

元気を分けてもらえる、まさに野菜のビタミンのようなツアーでした。

2.満を持してマーケットへ

Portland States University Farmers Market

ポートランド州立大学のキャンパス内で毎週土曜日に開催されています。

出店ブース数(100店舗という説もあり)もさることながら、その種類も幅広く、海産物や牛乳、はちみつの専門店や、今流行りのCBD製品を売る農家、ローカルの保険会社まで。

加工品の多くは農家から加工業者に委託製造しているのですが、販売は農家が自ら行っていました。

ハチミツ屋さんでは蜜ろうも売っていました。

アメリカは野菜がとにかくカラフルで形もさまざま。季節柄、かぼちゃが多かったのですが、見たことがない種類の方が多いくらい。

気になったのは、出店における衛生管理のルール。海産物や乳製品もあり、屋外販売のハードルは高くないように見えました。日本では温暖多湿なので事情は違うとはいえ、アメリカも食品に対しては厳しい基準があるとされており、比較してみたいところです。

また、出店者の専門性が強く、多様さも特徴でした。
はちみつ、ハーブティー&外用薬、ポテト。

りんごと梨だけで30種類くらい売ってるお店も。

はちみつは4種類試食させてくれて、ブラックベリーのはちみつを買いました。さわやかな甘さで食べやすい。

りんごは糖度を数値化していて、選びやすい工夫も。食べ比べしながら、自分の舌の感覚を試してみたり。

わたしにはあんまり差がわからないものも、同行した飲食店チームはふむふむ言うてました。プロすごい。
レストランからも買いに来ることが多いそうです。
確かにこれだけ種類があれば選択肢も多くて、需要あるのも納得です。

ハーブのお店では擦り傷に効くスプレーを購入。

完全にドラクエ感覚で買いましたが、誰か実験台になりませんか(ゆる募)。

Hollywood FARMERS MARKET

中心街からフリーウェイを使って約15分。住宅街ど真ん中にあるスーパーマーケットの駐車場に、土曜になると現れるマーケット。

日本だとついついスーパーマーケットから苦情が出ないか心配してしまいますが、店名から察するにディスカウントスーパーなので、逆に棲み分けができている、ということなのでしょうか。

こちらはPSUよりこじんまり、出店者数は20〜30ほど。
10分あればぐるっとみて回れるので、東遊園地のマーケットに近いサイズ感です。

ひときわ目を引いたのはラベンダー専門店。
神戸に息子が住んでたよ!という男性がひとりでブース運営していました。ラベンダーだけで何種類も品種があり、ニーズに合ったものを選んでくれます。めっちゃ贅沢…!

クラフトマンシップを感じさせる食器店も。木のスプーンは生木から削ったもの。グリーンウッドワーク?あれ?どっかで聞いたことあるな…。

きのこ専門店では、高級品のmatsutakeがカジュアルに売られていました。日本人以外にとってマツタケの香りってどう捉えられてるんだろう?逆に日本にはない鮮やかなイエローきのこも。

野菜では、前述のFLYING COYOTE FARMも出店していました。
ここもCSAのピックアップ場所(=購入している野菜を受け取る場所)になったりしているのでしょうか。大人気で忙しそうだったので確認できず。

こじんまりとしつつも結構な賑わいでした。
クラフトウイスキーなど、アルコールも瓶の状態で販売。そこは公共の場所での飲酒NGなアメリカらしさです。

住宅地ということもあってか、観光客はほぼおらず生活者の気配が強かったのですが、わたしの怪しいカタコト英語でも会話してもらえるくらいフレンドリー。渡航前に散々「24」観といてよかった…!

小規模なものも含めると、毎日どこかでマーケットに出会えるそうです。出店者の多くがオーガニック栽培で、その分割高かもしれませんが、丁寧につくられていることをコミュニケーションの中から感じ取り、価値ありと思って買えるのであれば豊かな選択肢と言えそうです。

じゃあ生活困窮層にとっては関係ない話かというとそうでもなく、ポートランドの生活保護制度の中にはファーマーズマーケットで使えるクーポンがあるそうです。
健全な生活は栄養から、ということでしょうか。理にかなっている気がします。

滞在期間が短く冒頭の答えは見つけきれなかったのですが、マーケットがインフラとして機能していること、作り手たちも元気で活力があり農や食が魅力的な産業に見えたこと、彼らの創意工夫の一つひとつがここにしかないものとして、街全体の魅力を構築していることはしっかり実感できました。
神戸でも自分たちにできることからDIYと工夫を積み重ねて、世界でもユニークな魅力のあるまちにしていきたいです。

最後に、
このまちのシンボルでもある世界最大のローカル書店「POWELE’S BOOKS」で売ってた、
世界的ヒップホップスター、Snoop Dogのレシピ本。

タイトルは「From Crook to Cook(監房から厨房へ)」
…いやいやいや。さすがアメリカ。

写真・文 : 佐野 暢子