種はおよぐの各メンバーは、実はひっそりと世界各地に赴き、食について素敵な気付きや学びを得ています。そんな学びをシェアしようということで、シリーズ化してみることに。第3回は、「flag 食と空間」の森本 由美さんのタイ編です。


多々良さん(ウェブデザイナー):よろしくお願いします。由美さんの普段の活動を教えてください。

由美さん:「食が心と身体を育む!食へのアクセスをよりオープンに衣食住をつないでいけたら」という想いのもと、全国でご縁がつながる農家・生産者さんのもとへなるべく足を運び、その土地・人・こと・食材に触れています。ケータリングや垂水区塩屋にある「種土/TANE to」というスペースで食にまつわるイベントを行うなど、”生産者”・”農家と消費者をつなぐ八百屋”・”消費者”それぞれの角度から無理なく未来へ繋いでいける、豊かな仕組みを探りながら日々活動しています。
今では海を渡ってのご縁も広がり食の交流を楽しんでいます。

多々良さん:そうした活動を始めるきっかけはありましたか?

由美さん:結婚が早くて、子どもができて、だんだん食のこと・環境のことへの意識が行くようになって、って感じです。
当時子どもが通っていた幼稚園の給食室に食育への想いがあって、関わるようになりました。その環境で目の当たりしてきたのもあって、自分でもそういう場所がつくれたらなということで、今の「種土/TANE to」スペースでの活動があります。

タイでの活動のきっかけ

多々良さん:ここ数年頻繁にタイに行ってるとお聞きしました。何がきっかけで行くようになったんですか?

由美さん:6年くらい前、タイに住んでいる友人(日本人)がいて、その彼はいろんな国に滞在するような人で。3年くらいタイに滞在していて、日本に帰ってきたタイミングでしゃべったんですけど、私がやっていることに共感してくれて。
今、タイでつながっている人たちが同じ想いだと思うから、1度遊びにおいでよと言ってくれました。じゃあ、ちょっと行ってみるわと言ったことがきっかけで、彼がタイの人を紹介してくれて、今がある感じです。
彼が繋がっているのは地元のタイ人なんだけど、食への意識があって、みんなが共通の話しができます。

多々良さん:タイではどんな活動や出会いがあったんですか?

由美さん:一番最初に出会ったのが、ナンプラーです。
よく市場に出回っているナンプラーは、食品添加物が割とたくさん入ってて、って状況が普通にあります。
でも、ナンプラーってそういうものだ、みんなそういう意識で使っていたんだけど、私の友人の彼が、タイで出会ったナンプラーが、無添加だったんです。
私の友人は、これをぜひ日本に届けたいんだっていう想いがあって。
いいね、いつか日本に届いたらいいねって共感して、そこからお手伝いを一緒にして、今その商品を扱っています。
私は日本の窓口になって、「種土/TANE to」で販売したり、それを使ってご飯をつくることで知ってもらったりしています。そういうこともあって、タイに行くときは毎回、そのナンプラーを製造している工場に通ってます。
それが一番最初のきっかけですね。

多々良さん:ナンプラーとはそもそもどういうものですか?

由美さん:ナンプラーって、カタクチイワシとお塩を発酵させたものなんだけど、そこに少してんさい糖が入っているものです。
塩が要になっていて、塩田も連れて行ってもらってます。塩田はナンプラーを作っている場所の近所にあって。

ナンプラーの要となる塩の塩田の様子

多々良さん:ナンプラーはどこでつくってるんですか?

由美さん:バンコクから西へ車で2時間くらいのところにあるサムットサコーン県。そこは海と山が近いんですけど、海風が吹き付けるめっちゃいい場所にナンプラーの工場があるんです。

工場の近くの海

由美さん:社長さんは女の人で、家族で小さく経営されているんですけど、タイのオーガニックショップや高級レストランに卸しているようなナンプラーなんです。
ナンプラーの工場って、油ギトギトのイメージがあるじゃないですか?魚を発酵させて、匂いもきつそうなイメージを私は持っていたんです。
けど、海風が入ってきて、抜け感があって、裸足で歩けるくらい綺麗でした。むちゃくちゃ清潔で、その場所に行っただけで、絶対おいしいの作ってるよねって。行き届いているというか、気のめぐりがいいというか。

ナンプラー工場の様子

由美さん:すごくいい人、いい家族で。ビンもラベルも全部手仕事。人の手でやってて。
近所に塩田の場所があって。そこの塩を使っていました。

工場でラベルを手張りしている様子

由美さん:ナンプラーのご縁から、小さい規模ですけど、日本食を食べてもらう交流会をしています。
私が日本で信頼している農家さんのお米や大豆などを日本から持っていって、振る舞ったりしています。
タイに行く毎に新しい交流ができて、日本の食とタイの食を紹介し合ったり、みんなでおしゃべりしたりする小さな集いを毎回開いていただいています。

小さな集いに出てきたご飯

多々良さん:由美さんはどんな料理をつくられるんですか?

由美さん:おむすびセットとか味噌汁セットとかが中心になるでしょうか。そんなに大したものはつくってないですけど、日本の文化のものを食べてもらえたらいいなと思っています。

おむすびセット

味噌作りワークショップ開催

由美さん:そういうことが続いて、今はお味噌作りをタイでやってるんです。

多々良さん:へぇー!味噌ですか!?

由美さん:日本で味噌を仕込むと半年かかるんですけど、タイはずっと暑い国なので発酵が早くて、すぐにできちゃうんです。そのスパンがだいたい3・4ヶ月です。
味噌を仕込んで、4ヶ月後にまたタイに味噌開きに行ってます。
その時に、また違う人と味噌をつくったりします。

多々良さん:行く毎に、次回行く理由ができているんですね。ちなみに味噌作りを教えるきっかけってあるんですか?

由美さん:きっかけは、おむすびと日本のシンプルなご飯を食べてもらったときですね。
私は日本で10年以上味噌をつくってきているので、味噌とお米と梅干しとかをタイに持っていって食べてもらってたら、由美が作った手作りのお味噌はなんでこんなにおいしいんだ?という話になって。
元々、タイで出会ったみんなは日本食が好きだったんですが、現地のスーパーで買うお米と全然違うようで、みんな1つ1つの素材に感動してくれました。この味噌を作りたいみたいな流れになって、「簡単にできるよ」「じゃあ、つくってみよう」と。そこからはじまりました。
でもタイで毎年作ろうと考えたら、わざわざ私が日本の素材を全部タイに持っていくのは大変なので、素材はタイのものを使おうと提案しました。
チェンマイ(タイの北部にあるタイ第2の都市)は農家さんが多いので、チェンマイの大豆やタイの塩を合わせて味噌をつくっています。
1回で終わるのはもったいないので、続けるようにしたいなと。

多々良さん:もう味噌は完成してるんですか?

由美さん:もう何回もやっていて。1回目はどうなるかなと思ったんだけど、すごくおいしくできてました。

多々良さん:すごい!由美さんが食べてもおいしかったんですか?

由美さん:おいしかったです。大豆が日本の品種と極端に違っていて、チェンマイの大豆は小豆くらい小さいのですがおいしくできました。

多々良さん:タイでは元々、味噌ってつくられているんですか?

由美さん:タイには味噌文化はありませんでした。ただ大豆の発酵食品などがあり、発酵の文化はあるようでした。
味噌作りはしてなかったけど、やってみたいという声があって、やってみました。
最初は内々でやったんです。そしたらみんなの友人が「やりたいやりたい」っていうふうに広がって。もうちょっと一般の人も集めてやろうかってなりました。

多々良さん:何人くらいで味噌作りワークショップをしたんですか??

由美さん:借りるスペースによるので、一部二部とかに分けて、8人、8人とか。小さい場所では6人とか。

多々良さん:たくさんいますね。みなさん興味持たれてるんですか?

由美さん:多いですね。反応が早いっていうか、やるよって言って募集したら、結構すぐ埋まったり。

多々良さん:言葉、コミュニケーションはどうしたんですか?

由美さん:私はしゃべれなくて(笑)。英語も(笑)
最初はタイ語も英語も話せる友人が一緒にいてくれてたんですが。英語でカタコトでしゃべったり、タイ人でちょっと日本語ができる人がいたりして、なんとなくその場をうまくしのげました。

多々良さん:えー!?すごい!

由美さん:作業見てたらわかるというか。おいしいという感覚について、言葉はいらないなって思いました。おいしいものを食べることやおいしいものを作ることは、みんな共通ですね。

タイのクリエイターが味噌の作り方をまとめてくれました。
お昼ご飯におむすび食べてます
Yumi’s Table。おむすびを握ってみたいの声で一緒に結んだりもしました。

自然に、そのまま。

多々良さん:タイに行ってみて、日本と違うなっていうのはありましたか?

由美さん:ルールもあるようでないというか、うまく流れているのが衝撃的でした。整いすぎなくていいなって思いました。

多々良さん:具体的にどんな感じなんでしょう?

由美さん:時刻表がないとか、停車の場所がないとか。約束もルーズやし、こういうワークショップをするって言って、場所に行ってみたら、まだ全然準備できてなくて。
ええー!?みたいなことがあるけど、終わってみたら、なんとかなってるし。
みんながいい意味で軽いし、そんなにみんなあくせくしてないし、こうしなきゃいけないっていうのがないから、理論より感覚でずっといられるというか。
自分はそっち寄りだから、心地良かったです。これでいいよねって思えます。思わされます。

多々良さん:タイの農家さんとは、出会いました?

由美さん:まだ、あんまり出会えてないんですけど、タイはココナッツが有名です。
ココナッツ農家さんや色んな人を見ていると、野生的というか。
道具も日本みたいに整ってないし、収穫するための道具とか、育てるためのものとか。
身近にあるものがその道具になっているので、生きていく知恵を目の当たりにしました。
日本では1つ1つ道具があるけど、タイでは道具がない中でも工夫して食材を収穫していて、昔の日本と同じなのかなと思いました。

ガソリンがビンの中に入ってます。えっ?!
違う島で、ここは車が走っていてガソリンスタンドがありアナログ形式でした!

多々良さん:タイで出会った農家さんは、農薬などについてはどういう感覚をお持ちでしたか?

由美さん:農薬を使わないという意識があって使わないんじゃなくて、生活の中で、暮らしの中で、 使わずにいれてるというか、自然に、そのまま。
大量生産なわけでもないし、すごくシンプルです。わざわざオーガニックに!という意識もないけど、結果的にオーガニックになっている。すべてにおいて、そういう感じがします。

ライスフィールドの島のみんなにも日本の友人のお米を味わってもらいたくてみんなで結んで食べました

ファーマーズマーケットで小さい交流

由美さん:タイ人の知り合いに小さいファーマーズマーケットを毎月やっている人がいて、いつもそこに出店させてもらっています。そこには野菜を売る農家さんがきたり、調味料を売る方が来たり。
私のタイの知り合いの周りでは、個人でやっている人たちがたくさんいる感じです。パッケージもあったり、なかったり。
個人で小さくやっている人たち同士が繋がって、お互いに交流があって、みんなの暮らしが成り立っているのかなと思います。全部見えてる。

ゼロウエストもテーマにした毎月開催の地域のちいさなファーマーズマーケットです。

左:トードマンプラーと言います。タイ風さつま揚げみたいな??チリソースや唐辛子の酢漬けを付けて食べます。美味しいです!
右:赤小玉ねぎ。ホムデンと言い、タイではとにかく刻んでソースやトッピングにと出番が多い野菜です。

由美さんのおむすび
マーケットの様子

多々良さん:由美さんは、マーケットで何を出店されたんですか?

由美さん:私はおむすびです。手でおにぎりを結んで食べるという文化がないみたいなんですよね。

多々良さん:みなさん食べてくれたんですか?

由美さん:みんな喜んでくれます。タイの人にとっては新鮮なようですね。

多々良さん:今後は、どうしていきたいっていう展望はありますか?

由美さん:このまま、交流が続けばいいと思いますし、輪が広がればいいなと思いますし、小さい交流の場がたくさん増えればいいなと思います。

文:多々良直治
写真:森本由美