種はおよぐでは、食と里をつなぐというテーマで、これまで農家の仕事内容やどうやって農家になるのかを取材してきました。しかし、一次産業は農家だけにあらず!イマイチ想像ができないいくつかの職について、お仕事の内容や、どうやったらその仕事に就けるのかを調べてみることに。今回は海の漁師さんです。垂水区で家業を受け継いだ西村和基さんと、新規就漁した若林直人さんに、漁師になるための制度やきっかけや今後の未来についてお話を伺いました。

漁師のなりかたとは??

岩本さん(漁業界に詳しいカメラマン):今日はよろしくお願いします。今日は僕と、兼業農家の鶴巻さん、神戸地域おこし隊の伊藤さんの3人でお話を伺いたいと思います。

西村さん:西村和基です。僕は代々垂水で漁師やっていて、(※)船曳網漁や(※)底曳網漁をしています。今日はよろしくお願いします。

※船曳網(ふなみびきあみ)漁:2隻の漁船で袋状になった網を曳いて魚を獲る漁法
※底曳網(そこびきあみ)漁:海底に袋状の網を下ろし、海底付近にいる魚などを捕る漁法

若林さん:僕は漁師家系ではなく、新規就漁した若林林直人です。今日はよろしくお願いします。

伊藤さん(神戸市地域おこし隊):私は漁業のことに全然詳しくないので、色々お聞きしたいです。今日はよろしくお願いします。早速ですが、そもそも漁師になるのに資格などは必要なんですか?

西村さん:漁師になる方法は、組合によって全然制度が違います。神戸市の場合、漁師家系の人であれば、2年間働いて給与証明をあげるとまず準組合員になり、もう2年で正組合員になれます。一方で、直人みたいに漁師家系じゃない人は、3年間の下積みの後に準組合員に。そこからまた5年間下積みがあって、8年でやっと正組合員になれます。

伊藤さん:正組合員になるときに何か必要なことはありますか?

西村さん:正会員になるためには出資金が必要です。その後に講習などを受けて、組合員になれます。僕たちの東垂水地区では、漁師の会である「東水会」に入る必要があります。

伊藤さん:正式な手続きなどがあって、組合員=漁師として認められるということですね。漁師家系の人の下積み期間が短いというのは、前提として信頼があるからなんですか?

西村さん:そういうことになりますね。

鶴巻さん(兼業農家):例えば、漁師家系ではない人が漁師になりたいと思ったら、まずどうしたらいいんですか?

西村さん:県や国、水産庁が中心になって就職フェアみたいなことを実施しています。大阪とかでイベントをしていて、人手不足の地域を中心に参加しているみたいです。なので、まずそういうところに来てもらえたらいいのかなと思います。

鶴巻さん:そういうところに行ってみて、希望する地域などが合えば、次の日からすぐに働くこともできるんですか?

西村さん:できますよ。タイミングが良ければね。

鶴巻さん:となると、農業と少し違うかもしれません。「農家になりたい!」と思っても、神戸市の場合は新規就農の学校に1年間通って、研修を終わってからじゃないと農地が借りられません。「その覚悟はありますか?」みたいな話になるのですが、漁師さんは話がまとまればすぐって感じなんですね。

西村さん:そう。空きがあれば入ってもらって、やってみてって感じかな。

若林さん:僕のときは、通っていた水産高校の求人を頼りに漁師さんのところに行って、お願いしますって言ったら、「あーじゃあいかなご漁からでー。」って、それで終わりでした(笑)

一同:(笑)。ゆるい!

鶴巻さん:例えば、僕が明日から船に乗って、月に20万円の給料をもらうとするじゃないですか。これって僕は何になるんですか?

西村さん:漁師見習いですね。

鶴巻さん:漁師になる気がなくても、漁師見習いになるんですか?

西村さん:いや、それは漁師見習いではないかな。バイトという扱いになります。

鶴巻さん:じゃあ農家のところでバイトしているのと同じってことですね。

西村さん:そうそう。

伊藤さん:それはどこの会社とも同じなのかもしれないですね。正社員とアルバイトの違いみたいな。

岩本さん:農業と違うのが、農業は新規就農して、野菜つくって販売するまでのタイムロスがある。最初全然お金にならない期間があるけれど、漁師は最初からそうなることはないですよね。逆に、船を持てるようになるまで10年くらいかかるから。

伊藤さん:なるほど。組合員になるタイミングが漁師としての覚悟を持ってやっていくタイミングになるということですね。

漁師になった、それぞれの入り口

岩本さん:西村さんが漁師になったきっかけを教えてもらってもいいですか?

西村さん:僕の場合は、親がやっていたからです。

岩本さん:何代目なんですか?

西村さん:何代目になるんだろうなあ。おじいちゃんも、ひいじいちゃんも、その前も。先祖代々ずっと漁師の家系なんです。

一同:おお〜。

先祖代々の漁師家系を受け継いだ西村さん

鶴巻さん:小さい時は、継ぐことについてどう思っていましたか?

西村さん:継ぎたくないと思ってましたね。でも、継がなければならないみたいな気持ちもなかったかな。

鶴巻さん:代々続くとなると、どう思うんだろうなって気になります。

西村さん:例えばある地域の漁師は、絶対継いでくれっていう流れが今でもありますね。そこでは海苔養殖っていうのをメインにやっていて、その船の権利を自分の家系で守りたいという強い思いがあったりもします。

岩本さん:漁師をやろう、となった転機はいつだったんですか?

西村さん:19歳の時に大学受験に失敗して、どうしようか迷っていた時に、親に「漁師継いでくれへんか」って言われたことがきっかけでした。今まで自由にさせてもらってたし、そんなこと今まで言われたこと無かったんですけどね。その時に、じゃあやろうかなと思いました。

鶴巻さん:小さい頃に手伝いはしていたんですか?

西村さん:小学校の時はよくしてました。元々そんなに嫌いでは無かったけど、中学の時くらいには一旦気持ちが離れてしまって。でも今は漁師になって良かったかなって思っています。

岩本さん:ありがとうございます。では次に若林さんのお話も。若林さんは漁師家系ではないですが、どうして漁師になったんですか?

若林さん:僕は元々釣りがすごく好きで、漁師になりたいなと中学生の時に思っていました。なので、漁師になれる水産の高校に進学にしました。その学校に通っている人が全員漁師になるわけではないんですけど、僕はなるつもりで入っていたので、求人があった東須磨の(※)水産で仕事を始めたのが最初です。

※水産:漁協組合が地区ごとにあり、その中に各水産がある。水産=漁師であり、会社のようなイメージ。

鶴巻さん:それは正式な漁師の求人ってことですか?

若林さん:そうです。そこで海苔、たこ、あなご、船曳漁など、一通りやりました。

漁をしているときの西村さん

鶴巻さん:なるほど。今はもう正組合員になれたんですか?

若林さん:はい。今は正組合員です。ただ独立っていう形ではないです。船曳漁にも連れて行ってもらっていますが、それだけだと生活していくのが大変なので、西村さんのおじさんのところを紹介してもらって、別の漁にも同行しています。

鶴巻さん:独立ってどういう状態のことを指すのですか?

西村さん:独立っていうのは、船を自分で買って、(※)許可をもらって、1人で沖に行くっていうことです。漁によってはみんなで行くけど、自分が雇われているか、そうじゃないかっていう意味。水産によっては、組合員にはなれるけど、独立禁止のところもあったりします。

※許可:個人の漁師が特定の船で商売して良いという許可。

鶴巻さん:なるほど。

西村さん:独立したらダメです、絶対その水産にいてくださいとか、独立するのであれば、神戸市漁協以外のところで独立してください、みたいな、そういうのも多いかな。

岩本さん:漁師が多いところは割とそんな感じですよね。逆に地方の漁師が少ないところはすぐに船を持たせようとしますよね。数を増やしたいですから。

漁師としての喜びと覚悟

伊藤さん:漁師は、枠があれば最初のハードルがあまりない、という話がありました。でも実際にやってみる上で、覚悟した方がいいことや大変なこともあると思うのですが、興味がある人に伝えておきたいことはありますか?

西村さん:そうですね。覚悟しておいた方がいいのは、仕事がないかもしれないということです。

鶴巻さん:仕事が無くなるってありえるんですか?漁師って、磐石な職業に見えるのですが。

若林さん:ありえます。今年で言えば、鯛は特に少ない気がしています。それが今年だけならいいんですが、それが2年、3年続いたらときに、商売として成り立たなくなる心配はあります。いかなご漁もかなり少なそうですし。

※2024年3月、神戸市を含む大阪湾で、資源保護の観点からいかなご漁は解禁されなかった。

西村さん:船曳漁などは複数名で行うので、人数が足りなくなると漁に出られなくなるリスクがあります。例えば6人のメンバーがいて、その内の2人が体調を崩して行けなくなってしまったら、他のメンバーは漁に出れないと思います。そうやって人が減っていき実績がなくなると、免許が剥奪されてしまいます。農業も同じだと思いますが、身体を壊したら終わり。そういうリスクといつも隣り合わせですね。

鶴巻さん:それはありますよね。

西村さん:あとは、各水産は基本家族経営やから、働きやすいかどうか、雰囲気が合うかどうかはあると思います。僕らは他人とチームでやってるけど、ほぼ家族みたいな感覚なんです。だから各水産で結構雰囲気が違うし、合う合わないはあると思います。そういう意味でいくと、弟子入りみたいな感じですかね。

二人でイベントに参加している時の様子

鶴巻さん:なるほど。各水産が会社みたいな感じで、同じ漁師さんの中でも雰囲気が全然違うんですね。

西村さん:そうですね。あとは、独立するときは船が必ず必要なので、初期投資が結構かかります。

伊藤さん:本気で始める時には、やはり覚悟がいるってことですね。

若林さん:前提として、好きであることが大事かなと思いますけどね。

伊藤さん:魚を穫る喜びはなんですか?釣りをしていて楽しいと思ったことがなくて(笑)

西村さん:僕も釣りはあまり興味がなくて。楽しいと思ったことは1回もないかな。

伊藤さん:そうなんですか?!ということは、釣りと漁に行くときの感覚は違うってことですか?

若林さん:僕はどちらも近い感覚ですね。船に乗りながら、「あそこにいそうだな。」と予測して、その予測がピシャッと当たった時の喜びというか。

漁師としての面白さを語る若林さん

西村さん:それは僕も一緒かな。網も自分で一からつくるけど、こうやったらうまくいくかなとか、色々考えながら試行錯誤していくのがめちゃくちゃ面白い。でも釣りをおもろいと思ったことはないかなぁ。

一同:(笑)

鶴巻さん:狙いが当たった喜びの感覚って、山の猟師のような仕事も同じなのかなと思ったんですけど、山に入って鹿や猪を獲る仕事をしたいと思いますか?

若林さん:いや、僕はやっぱり海が好きなのかなと思います。でも僕、学生時代や漁師になって最初の頃、かなり船酔いしてました。1ヶ月の遠洋漁業でパラオまで行ったんですけど、1日で25回くらい吐きました(笑)

岩本さん:えええ。

若林さん:それでも漁師になってますからね(笑)

西村さん:僕はどうだろう、やっぱり海が好きなのかもしれないです。プライドはありますね。漁師がやっぱり好きで、一次産業の中だったら漁師以外のことはしたくないかな。それだったら全然違う、サラリーマンとかお笑い芸人とか、そういう仕事をしてみたい気持ちはありますね。

岩本さん:遠洋とか、養殖とか、神戸でできる違う漁業もあるじゃないですか。今と違う漁をやってみたいという思いはありますか?

西村さん:ありますね。でもそれは、面白さや楽しさというよりは、食べていくためという意味が強いかな。さっきも話したけど、色々なリスクや、これから先の心配があるからね。定置網とかもできるならやりたいです。

若林さん:そうですよね。

半漁半X??これからの漁師の未来

鶴巻さん:農業は就農者が減っているので、研修制度を整えて、新規就農者を増やす動きがあります。例えば神戸には、働きながらでも農業資格を取ることができる、神戸ネクストファーマー制度が数年前に新設されました。

西村さん:会社員しながらでも農家になれるってことですか?

鶴巻さん:そうです。段階的にですが、そういう流れが生まれつつあります。漁業者の数は減っていると思うのですが、漁師には新規就漁へ向けた補助などはあるんですか?

西村さん:はい。毎日日誌を提出すれば、親方の元にいる3年間は補助金をもらうことができる制度があります。ただ、新規を増やすという観点で農業と違うところは、海の資源は減っているということです。農業は辞めていく人が増えてきて農地が余っているかもしれないけれど、海は資源が少なくなっているところに新しい人が入ってくるという構図になっていて、今難しいところがあります。かつては漁師がしっかりと稼げるという時代の流れがあり、30年前くらいまでどんどん許可を増やしてしまった結果、漁師がかなり増えたんです。

鶴巻さん:ピーク時に、神戸市で漁師はどれくらいいたんですか?

西村さん:400人くらいかな。

今でも活況な市場でのせりの様子

鶴巻さん:それは何年くらい前?

西村さん:昭和30年くらいですね。2014年までは、正組合員が200人を超えてて。結構いろんなことが上り調子でした。今感じているのは、現存する海の資源に対して、漁師が減っても許可の数は多いなって思いますね。

鶴巻さん:なるほど。漁師の人数がちょっと多いかもってことですね。では神戸では人手不足とか、このままじゃ高齢化で大変みたいなことはないんですか?

西村さん:いや、あります。人数は少し減った方がいいと思うけど、高齢化はしっかりありますね。継ぎ手はしっかりいてほしいって感じです。例えば船曳漁でいくと、大きい許可なのでできるだけ存続させたいという思いがあります。辞めてしまうともう二度と取れないような厳しい許可なんです。でも船曳漁だけで食べていけるかというと、正直厳しいというのがあります。僕らはまだ人数がいるのでできていますが、他の水産の中では、船曳漁を存続させたいけど人が雇えないから潰れるかもしれない、っていうところはあります。

岩本さん:なるほど。本当は人が欲しいけど、1年を通して仕事をつくって人を雇っていけるかっていうところもありますよね。すごく難しい問題ですね。

若林さん:新しく入れた子をどうやって食べさせていくかっていうのが、今の僕らの大きな課題なんです。今一緒に漁に行ってる方が70代なんですけど、もう舵だけ持ってもらっている状態です。もしこの人が抜けて僕がその代わりをすると、今度は僕がやってたことをやる人間が急にいなくなります。だから若い子を今の内に1人入れたいと思っても、その子が食べていけるだけの漁があるかというと、正直分からないのが現状なんです。

伊藤さん:なるほど。じゃあ副業みたいな形で漁師をやっている人はいないんですか?農家だと半農半Xみたいな働き方をしている人が増えていると思うのですが。

西村さん:今のところないですね。でもおそらく、今後はそういう形も認めていかないといけないと思います。他に仕事している人が、特定の漁だけ手伝いにきてくれたら、僕らも助かります。半分漁師で、半分別の仕事をしてても組合員になれる時代が来ると思う。

伊藤さん:今はルール上厳しいんですか?

西村さん:漁業を専業にするというところで組合員になっているので、今はルール上厳しいですね。でも例えば、船曳漁にそういう人がいてくれたら助かるところはあると思う。船曳漁って1年の内6ヶ月くらい行くんですけど、その6ヶ月間の間は、資源保護などで決めたルールがあるから週4日しか漁に出ないんですよね。つまり3日は休み。朝は早いけど、昼の12時とかに家に帰ってくるみたいな働き方やから、できると思う。

若林さん:漁に出るのが3日になる時もあります。むしろ毎週4日出られるなんてほぼなくて、週4日で16日とか。そのくらいです。

岩本さん:普通は20日くらい仕事してますもんね。

西村さん:神戸市以外のところでは、漁師をしながら民宿をやっていたりする話も聞いたことあります。例えば、普段は居酒屋をやりながら、特定の漁だけ行きますとかいう人がいてくれたらこっちも助かるし、収入にもなるしいいですよね。漁師の世界も、これからは少しずつやり方を変えていく必要があるかもしれませんね。

文:伊藤絵実里
写真:岩本順平