神戸は海が広がる街。近所に魚屋さんがあると、日々の食卓にささやかな喜びがあります。でも、やっぱり魚を料理するのはハードルが高い。家で手軽に魚を食べる手段をもっと発信していこう。ということで今回は、2022年に続く魚に関する特集です。長田区にある板宿商店街で魚を買い、様々な料理にチャレンジ。この記事を書いた私、かなり得るものが大きかった!というわけで、料理人のお2人からいただいた、家で魚を調理するポイントをぜひ。

ポイント①お湯でなく、水で流そう。

多々良さん(魚料理のレパートリーがないウェブデザイナー):今日はよろしくお願いします。今日は種はおよぐメンバーで料理人の對中さんと、新しく浅田さんにお越しいただきました。

浅田さん:浅田悦宏です。イタリアンの料理人をしていて、今年(2024年)の春ごろに、神戸でイタリアのトスカーナ料理のお店をオープン予定です。

(浅田さん)

多々良さん:開店準備の忙しい中ありがとうございます。では早速お話を聞いていきます。普段、魚を丸々1匹買うことはなく、自分の家でやるのはホイル焼きとかそのままお刺身とか、全然レパートリーがありません。魚を丸々1匹買うと、こんないいことあるよという知識が知りたいなと思って。チャレンジもしたいです。

鶴巻さん(魚を触るのが苦手な兼業農家):ちなみに、お2人は魚を1匹扱うことに抵抗はないですか。

對中さん:抵抗ないです(笑)

浅田さん:料理人の場合、お店で何匹も一気に仕入れるので、それを捌くところから始まります。余った骨は出汁を取るのに使うので、1匹全部を活かすという感覚です。

鶴巻さん:それは家でも応用できますか。

浅田さん:家でもできます。ただ、飲食店と家の違いは、時間の問題ではないでしょうか。骨から出汁を取るにも、僕のやり方だと平気で半日くらい火をかけます。僕らは営業しながらできますが、家ではそうしたことが時間的に難しいのかなと。

多々良さん:頭や骨を出汁に使うのですね。

浅田さん:そうです。結構掃除が必要で、目を抜いたり、エラを外したり。血の塊は生臭くなるので、骨の隋のところなどの塊の部分は取り除きます。そうした作業も手間と言えば手間なので、そこが家で中々できない部分かもしれません。

鶴巻さん:手に臭いついて嫌だなとか、生臭いなとか、そういうのを乗り越えて捌くんですか?僕はそのあたりがいつまでも慣れなくて…。

對中さん:手に臭いがつくのは避けられないですけど、いくらか方法はあります。お湯を使うと、臭いが入ってしまうんです。なので水で洗うと臭いが取れやすいよってジビエの猟師さんから教えてもらって、もうお湯は一切使わないですね。もちろんまな板にも入っていきますから、お湯では洗わないっていうのはありますね。

(水で洗う。)

鶴巻さん:これはいい情報!こうやって一つずつハードルを下げていきたいです。

ポイント②火を入れて捨てれば臭いは出にくい。

多々良さん:あと、1匹を全部使い切るというのは、どうやって使い切るんですか?頭と骨は出汁、内臓はさすがに捨てざるを得ないですよね?

對中さん:魚にもよりますが、内臓はあまり使わないですね。

鶴巻さん:捨てたものが後日激しく臭うのが恐怖で、聞いた話だと冷凍しておいてゴミの日のタイミングで捨てるって技もあると。魚を扱うにあたって、身の部分以外はこうやって使ったり処理したりするといいよというのはありますか。

對中さん:骨などは火を入れておけば生臭れしないから、臭いが出るスピードは遅くなります。例えば出汁を取ってからその後捨てれば臭くはなりにくいですよね。

(對中さん)

鶴巻さん:確かに!とにかく生臭いものを捨てたくないんですよね。ズボラなので捨てたこと忘れて数日後に大変なことになる(焦)。そうか、火を入れてしまえばいいのか。出汁にも使えるし一石二鳥。

對中さん:体積も減りますしね。あとは魚種によっても変わります。例えばイワシみたいな小さい魚は骨まで食べようって考えができるけど、鯛みたいな骨が刺さると痛いものは、やっぱり身は身で、骨は骨でという活用になるのかなと思いますよ。

鶴巻さん:例えば骨の出汁で4人分の味噌汁をつくるとなると、骨って何匹分いるものですか。鰹節とか干しシイタケみたいにしっかり旨味が出るものなのでしょうか。

對中さん:使う内容にもよりますが、鯛1匹で4人分は充分いけます。

鶴巻さん:骨使いになりたいです。ねぇ多々良さん。

多々良さん:そうですね、骨使い。

(骨使いマスター?)

對中さん:骨も、焼いてから出汁を取るのか、一回ボイルしてから取るのかで印象が大分変わります。

浅田さん:骨をオーブンで焼いてから出汁を取ったりします。それは、水分を出す、干すというイメージなんです。それでさらに焦げ目が入っていると黄金色の出汁が出ますよ。

(生のまま捨てる前に火を通してしまおう。出汁に活用。)

ポイント③塩や砂糖で水分を抜く。

鶴巻さん:ありがとうございます。今回のテーマにさらに寄っていきたいのですが、家庭で料理する上で、魚の食べ方のアイディアってありますか?

對中さん:繰り返しになりますが、魚を1匹買って、身は身、骨は骨で出汁取ったりできることが丸々買う魅力なのかなって思います。家庭の人数によっては、1匹を焼いてしまって、1日目は半分を焼き魚、2日目は身をほぐしてコロッケにするとか、転用はいろいろ効きます。もちろん冷凍もできますね。1匹で買った方が絶対安いですし、使い勝手もいい。その1匹をどう使うかっていうバリエーションを考える方が、暮らしも楽しくなるんじゃないかなと。

鶴巻さん:うーん、それが中々イメージできない…(笑)

多々良さん:生で置いておくとすぐ傷んでしまいそうという感覚があって、なるべく早く食べた方が美味しいですかね。

對中さん:それも魚によります。寝かしていい魚もあるし。

浅田さん:白身系の魚は寝かした方がいいですよ。家でやるなら、少しだけ塩や砂糖を振ってあげてください。砂糖も脱水効果があります。その後にキッチンペーパーで包んでラップを巻いて保存してもらったら、数日間は美味しく食べられると思います。

多々良さん:そうなんですね。

浅田さん:水分が抜けると身が締まるというか、骨も取りやすくなって食べやすくなります。

鶴巻さん:なるほど。お肉は買った日から4~5日経っても何とか使えるかなーと思っているんですけど、魚は買った日に使わないとだめみたいな脅迫観念に襲われます。でも、塩とか砂糖を少しまぶして下処理してあげれば、肉と同じ感覚で捉えることはできるのかなと思い始めました。

浅田さん:やっぱり臭いが上がってくるっていうのが嫌ですよね。水分から臭いが出てくるので、その水分を取ってしまえばある程度は臭みが上がってこなくなるはずです。

多々良さん:これは魚料理でよく覚えておくといい観点になりそうです。

浅田さん:そうですね。

ポイント④ぶつ切りで問題なし。

多々良さん:他に家で料理しやすくなるポイントはありますか?

對中さん:三枚おろしをどう捉えるかですよね。一手間かかります。カレイとかヒラメとか、三枚おろし自体が難しい魚は鮮魚店で捌いてもらった方がいいだろうし。

浅田さん:あとは、そうした捌きにくい魚に限らず、ぶつ切りにしてそのまま焼いたり揚げたりする方が美味しいです。骨付きの肉って美味しいじゃないですか。それと一緒で、骨付きの魚も美味しいんです。一緒に揚げることによって骨の旨味も出てきます。イタリアだと、フリットといって衣をつけて長時間揚げる調理法がありますが、切り身よりも骨付きの方が美味しい気もします。1匹買ってドンドンドンと切って、そのまま揚げるのはありですね。

(下平目のぶつ切り。今回は唐揚げに。)

鶴巻さん:これは自分の中で魚を使いたくなる革命が起きたかもしれないです。やっぱり三枚おろしが鬼門なんですよ。僕、極寒の国の人が料理しているショート動画好きなんですけど、向こうの人たちってまさにぶつ切りして、鍋にゴロンゴロンと投入して煮てますよね。どっちがいいとかないんですね。

浅田さん:ないと思います。日本の煮つけもそのまま煮つけたりしますし、そっちの方がやっぱり旨味的にも美味しいんだと思います。レストランだと、食べにくさを取り除くためのサービス的な要素できれいな切り方をするという感覚かもしれませんね。本来はぶつ切りの方が美味しいと思いますよ。

鶴巻さん:へえー!それでいいのであれば、肉を切る下準備と同じ感覚でできますね。

多々良さん:難易度も時間もめっちゃ短くなりそうです。

對中さん:一方で、日本料理では包丁で切ることが重要な調理法という考え方が「割烹」という語源から来ています。刺身などは、切って美味しくする技術ですね。ただ、東南アジアでもほとんどぶつ切りです。一旦はそれでいいんです。

鶴巻さん:面白いなぁ。

おまけ:道具はどうしよう?

鶴巻さん:最後、松嶋さんも質問ありますか?

松嶋さん(神戸市農水産課):僕は割と魚を捌く動画を見るんです。「これめっちゃ楽しそう、やってみようかな?」と思った時に、ウロコを取るのも面倒くさいし、切り開く包丁がないしっていうところで、やっぱりやめとこうってなります。揃えないといけない道具とか、これ使ったらいいよというものはありますか?

(インタビュー後、捌く練習に取り組む松嶋さん)

浅田さん:ウロコはスプーンでいけます。イタリアの人も全部スプーンです。あとはもう、ウロコに関しては魚屋さんに頼むのがベストかなと思います。

鶴巻さん:あと包丁は?包丁は100円ショップの包丁がいいという噂が…。

岩本さん(魚界に詳しいカメラマン):ギャラクシーって名前の包丁ね(笑)。100円ショップの包丁の良さは、刃が欠けようが全く気にならないところ。大事にしてる包丁の刃が欠けるとテンション下がるじゃないですか。

鶴巻さん:包丁は特定のものを買った方がいいですか?万能包丁ではだめ?

對中さん:万能でも問題ありません。けれど、いい1本を育てるというか、そういうのもおススメです。

多々良さん:万能包丁は、ぶつ切りに耐えられますか?

浅田さん:骨と骨の間のところにちゃんと入った方がいいですね

岩本さん:へぇー。

浅田さん:あるんですよ。入るところが(笑)

鶴巻さん:あとこれがあったらいいぞって道具はありますか?

浅田さん:お腹のところの掃除とかだと、竹串を何本か束にして輪ゴムで巻いたものを使っている人がいました。やっぱりどうしても骨との境目とかに血合いが溜まってるので、きれいに掃除した方がいいですよね。歯ブラシとか使う人もいますし。

鶴巻さん:うーん、なんだかいけそうな気がしてきた。ではつくってみましょ!

いわしのコンフィ

材料
  • いわし
  • しめじ
  • にんにく
  • ローズマリー
  • (あれば)赤玉ねぎ
調味料
  • オリーブオイル

包丁で魚の表面をなぞり、残っているウロコを取る。

包丁をおしりの部分から入れていわしを開く。内臓を取り、手開きで骨を取る。


(手開き、身が崩れるのでやさしく。)

フライパンにオリーブオイルを入れ、にんにくを炒め香りづけした後にしめじを炒める。

小鍋に、いわし、ローズマリー、にんにくを並べ、オリーブオイルを全体が漬かるように入れ、アルミホイルでふたをして弱火で火にかける。その後③も入れる。

(コンフィは、低温で油を入れていくレシピの総称。オイル漬け。)

味を見ながら塩を加え、70~90℃をキープしながらじっくり煮る。(ブクブク沸騰した状態が続くと焦げるので、沸騰しそうになったら一度火から降ろし、また少し温度が下がったら火にかけるを繰り返して1時間以上煮込むとGOOD。)

赤玉ねぎを添え、完成。

舌平目の唐揚げ

材料
  • 舌平目
  • えのき
  • セロリ
  • ミニトマト
  • (あれば)漬物やピクルス ※今回はべったら漬け
  • にんにく
  • ローズマリーやローリエ
調味料
  • 油(今回はこめ油)
  • オリーブオイル
  • 片栗粉

舌平目に塩をかけてしばらく置く。その後ペーパーで水気を取りぶつ切りにする。

えのきを細かく切って、オリーブオイルで焦げ目がつくまでじっくり炒める(水分を飛ばし、旨味を出す。)

セロリ、ミニトマト、漬物(水に浸し塩味を取っておく)を細かく刻む。

ボールににんにくをこすり付けて風味を出し、少し冷ました②、③を入れ、オリーブオイルで混ぜ込む。適宜塩も加える。

舌平目に片栗粉をまぶす。

鍋に、揚げる用の油とローズマリー(香りづけ用)を入れ、火をつける。

中温(約140℃)で15分ほどじっくり揚げる。

お皿に盛り、④をかけて完成。

スズキの春サラダ

材料
  • スズキ
  • 長ねぎ
  • 金柑(少量)
  • 春菊の葉
調味料
  • オリーブオイル

スズキに塩をかけてしばらく置く。その後ペーパーで水気を取り食べやすい大きさに切る。

長ねぎを15~20㎝くらいに切る。フライパンで油を引かずに弱火でじっくり焦げ目を付けながら焼く(甘みを引き出す。)

金柑と②を食べやすい大きさに切る。春菊の葉も食べやすい大きさにちぎる。

全てを合えて、塩とオリーブオイルを加える。

黒メバルのアクアパッツァ(難易度少し高め)

材料
  • 黒メバル
  • ミル貝
  • 赤玉ねぎ
  • セロリ
  • 長ネギ
  • ほうれん草
  • ミニトマト
  • にんにく
  • ケッパー
  • ローズマリー
調味料
  • オリーブオイル

黒メバルを三枚におろし、小骨を取る。塩を振り水分を出す。

黒メバルの目玉や血合いを取る。

鍋に頭や骨を入れ、水を加え火にかける。赤玉ねぎ、セロリ、長ネギの青い部分を入れ出汁を取る。

ミル貝を食べやすい大きさに切る。

ミニトマトを食べやすい大きさに切り、長ネギとにんにくを刻んでおく。

フライパンにオリーブオイルを入れ、黒メバルを炒める。

深めのフライパンにオリーブオイルを入れ、にんにくと長ネギ、ケッパー、ローズマリー、ミル貝を入れて炒める。

ミニトマトを加える。

③の出汁と⑥を加え、塩を入れて20分ほど煮込む。

ほうれん草を③の出汁でさっと湯がき、皿に並べる。

アクアパッツアを上から盛り付ける。

ほうれん草のスープ

材料
  • アクアパッツァで使用した出汁
  • ほうれん草
調味料
  • 魚醤又は醤油

出汁を濾して、火にかける。

少量の醤油と塩で味を調え、刻んだほうれん草を加える。

編集後記

今回の取材は、自分の料理の習慣が変わりそうな時間でした。三枚におろす行為、使わない部分を捨てた後の臭いなどなど、中々進んで魚料理をする気にならないこれまでの生活でした。ただ、臭いは火を入れたりレンジを使うことで生のまま捨てないようにすれば防げますし、ぶつ切りで焼いたり揚げてしまえばそれでOKというのはかなりありがたい話です。実際、ぶつ切りして15分ほどじっくり揚げた下平目の唐揚げは本当に美味しく、今回のレシピの材料が揃わなくても、例えば揚げた魚に細ネギと大根おろし、ポン酢でも十分に美味しく食べられそうです。今回のレシピは、一見すると横文字で難しそうなイメージを連想してしまうかもしれませんが、料理人のお2人にシンプルな調理法でできるものを選んでいただいたので、実践しやすいと思います。ぜひ楽しんでもらえたらうれしいです。

(暮らす街には魚がある!)

文:鶴巻耕介
写真:岩本順平