家族農業の具体的な施策について

質問者
家族農業の話をもう少し聞きたいです。具体的にどんなことを推進しようということですか?
三浦さん
日本の農業施策は、大規模化と高付加価値化の大きく2つに分かれます。高付加価値化の一つの手法として6次産業がありますが、そのメインは高付加価値の果樹を海外の富裕層向けにつくるというものですね。国連が定めている国際農業年というのは、小さな農業を推進しようとするものなのですが、日本国内では取り組みは遅れているのが現状です。海外では町の中に菜園をつくるエディブルシティー、屋上、プランター、農の多様な形で食料の安定供給、食料不足対策として普及させていこうとしていますが、これといって確固たる手段があるわけではないですね。
質問者
マイクロコミュニティーと言われているような、小さい家族単位で進める農業と思ったらいいのですか?
三浦さん
そうですね。日本は実際2種兼業がほとんどで、家族農業が圧倒的に多いんです。私たちも含めて多品種のものを、固定種の種を作っていこうとしています。種の需給も問題になるので、そこを大切にしていこうという思いからですね。この傾向はこれから進んでいくと思われます。
質問者
付加価値の一つの方法として、家族単位で多品種でおもしろいことをやっていこうというものですか?
三浦さん
そうです。デザイナーさんのスキルが活かされていく領域がそこにあるのではないかと思われます。

新しい動きを行っていく際の既存の住民、農協との調和の仕方について

質問者
農家レストランをやりながら農業をするのは、日本の農業の中では特殊だと思います。新しい動きをする上で既存の住民との付き合い方、農協との付き合い方で工夫されたことがあったかどうか、軋轢があったかどうか教えて欲しいです。
三浦さん
私たちの動きとしては、遊休農地の解消のために市民農園を事業化したマイファームアカデミーがあるんですね。そこでは、遊休農地の拡大に追いつかないので、4年間に渡る農家の育成も行っております。ですが、そこで勉強して就農しても、2年で8割は、やめてしまうのが実情です。地元の方とうまくいかない、おつきあい方法が問題になって離農せざるをえなくなるケースも事実あります。私が清澄の里に来た時、見た目で怪しまれたこともありました。農業を教えてもらっている人からも不信感があったのですが、その誤解が解けたことがきっかけで、受け入れてもらえるようになりました。自分の腹をしっかり見せ、年齢や性別関係なく、満遍なくコミュニケーションをする、これが大事だと思うんです。私自身は農業から入っているので、ヤギを通じて子供と仲良くなる、おじいちゃん、おばあちゃんと仲良くなる、奥さん達と仲良くなる。その繰り返しですね。一番最後は、自分の気持ちがそこに現れているかだと思います。

移住希望者の受け入れ方について

質問者
三浦さんの取り組みは注目されており、外から移住したいという人はいると思うのですが、受け入れ方はどうされていますか。
三浦さん
清澄の里は市街地に近い中山間のため、職場まで通うことができるんですね。なので、家が全く空いていない状況。農振地域で建物は建てることができないので、移住者が入ってくる余地はないんです。
農業を学びたいという人はたくさんいるんです。その場合は、奈良県で農業経営について有名な農園があるので、そちらをご紹介しております。それ以外での移住希望者の方は社員枠で入ってもらう方もおりますね。住む場所は奈良市内が多いです。また、過疎化が進んでいる地域では、空き家バンクを活用しております。クリエイターを中心に受け入れていまして、3年で9名ほど来られております。クリエイターが来るということは仕事もあるということで、良い移住促進になっていますね。

耕作放棄地へのヤギの関わり方について

質問者
農地があるが、草も生え放題になっていまして、高齢化により自分達ではどうしようもない現状があります。そのような現状にヤギで除草することは効果的なのでしょうか?何かアドバイスをください。
三浦さん
農地は、一度荒らすとすごく労力が必要ですよね。これから未来に受け継がれる方、どう守るかは緊急の課題だと私も思っております。ヤギの話で言いますと、荒れているところを整備するためには、あまり適切ではないです。ある程度整備されている観光農園、公園、農地の一角を維持するためには適切だと思います。ヤギはいろんな動きをするんですね。不確定の要素も含めてコントロールすることにエネルギーを使うのであれば、近代的な農業の機械を使う方が荒地の耕作には向いていると思います。スマート農業で人間がラジコンを操作するように人間が乗らなくても草を刈ってくれる機械がでてきておりますし、そういったものを活用していったらよいと思いますよ。

ワークショップテーマ発表

神戸市西区でヤギを飼いながら有機農業に取り組まれているナチュラリズムファームの大皿さんからテーマの紹介があり、ワークショップが開催されました。

大皿さん:除草のためにヤギを飼うことにしましたが、それ以外でもヤギを飼っているからこそできることをみなさんと一緒に考えていけたらと思います。

結果共有

4人から6人ほどで1チームを作り、計5チームがそれぞれ思い思いに話を進めていきました。

1チーム:結論が出ずに話が終わってしまいました。ヤギを実際に飼っているの で、実際にどんなことが起こるのかの共有をさせて頂きますね。実際飼ってみま すと、ヤギは髭におしっこをかけるので困るんですよね。また、ヤギ自体はじゃれ あっているつもりかもしれないが、人間が怪我するくらいの勢いで角を使って つついてくるので危ないですし、後脚で立って相手を威嚇するような動きもし てきます。夜は目が丸くなるという愛らしい一面もあります。

2チーム:いろんなアイデアがでたのですが、面白いと思ったものがヤギ散歩です。これは地域に溶け込むというところに観点を置いて、人々の中でヤギが根付くために何がいいのかなと考えて出たアイデアです。学校でヤギを飼い、地域の中にある草が伸び放題の公園や家に地域の方々と子供達が散歩に連れていくというものなのですが、子供達が交代でお世話をすることで情操教育が進みますし、ヤギの散歩のために学校に地域のおじいちゃん、おばあちゃんが足を運ぶことで子供達と触れ合うことができ、他世代の交流もできると思います。気性が荒いヤギもいれば、そうでないヤギもいるので、どうやって優しくヤギと過ごせるかというところで育て方を皆で考えていくことが必要じゃないかと思います。

3チーム:ヤギを飼っているのですが、ヤギは正直言って草はあまり食べない印象で、ペットとして飼えば、とてもかわいいなと思っています。ヤギを飼うにはシバヤギ、除草には牛がいいのでないかということになりました。

4チーム:神戸でヤギを増やそうというメイ鳴プロジェクトのお手伝いをさせてもらっているのですが、冬場の餌の確保と獣医さんの確保について大事だなと思っています。特に餌は確保できても獣医がなかなかいないんですよね。地域によって違うと思いますが、犬猫の獣医が多いと思います。大家畜の獣医が少ないのが問題なので、地域でそういう方を見つけて、確保して、育成していく必要があると思いました。また、除草以外でのヤギの関わり方についてですが、ここについて現実問題として難しいと思います。乳を搾る品種は春と秋しかとれないですし、加工も採算ベースを考えると難しいなと感じております。除草についても、羊は地面すれすれまで草を食べるが、ヤギは高いところの葉っぱが好きなので、除草では役不足ではないかとも思うんです。ヤギの役割としてはお店のマスコット、看板役、ふれあい。里づくりの中の風景で懐かしい、新しいを表現する存在としてヤギがいるといいのではないかと思います。

5チーム:除草についてですが、造園が扱っている植物の半分は毒草であるものの、分別さえすれば、ヤギとの相性はよいのではないかと思います。環境を整えてあげれば、除草のパワーはすごいです。野菜を与えず、自分の餌は自分で食べなさいという突き放した育て方をすると雑草を食べてくれるようにもなります。何も使えない斜面で放すとジャングルだった場所が草のない状態に維持できていた事もありました。また、ヤギの糞はゆっくり効くので、堆肥としてそのまま使えたりもするんです。
ヤギのかわいらしさもとても大きい役割だと思います。最初に出会ったのが子ヤギであれば、その癒し効果は図り知れないものがあります。定期的にヤギが誕生して子ヤギに触れられるという循環があればうまくいくのではないかと考えます。ヤギは人間と一緒に暮らして、草刈の補助として伴侶家畜として飼われるのであればよいのですが、慎重に飼うことを心がけたいですね。

三浦さんより総評:実際飼っている方々の切実な問題からクリエイティブな発想まで様々な夢のあふれる話が聞けてよかったです。ヤギは問題あるし、面倒な事もありますが、かわいいなというのが答えだと思っています。ことヤギは、お肉、毛、お乳などの役割について、今まで、人間と寄り添って付き合うということを考慮せずに飼ってきました。一方で、牛は品種ごとに人間がコントロールしていますよね。ヤギを理解して品種を選択する必要があります。ペットとして飼うならおとなしい品種を選択するなど、ヤギの理解を深めることができるようなヤギネットワークを作っていってはどうかと思いました。