徳島県神山町からフードハブプロジェクトのお二人をゲストにお招きして中山間地域での「農と食」に関わる取り組みのお話を伺いました。
地域課題に目を向け地域の方々と解決し進められるプロジェクト。これからの神戸にとっても重要なこと、たくさんお話くださいました。
フードハブ・プロジェクトは、人口約5500人の徳島県神山町で産官学と地域が一体となって、「地産地食」を合い言葉に、地域の農と食を次の世代につないでいくためのプロジェクトです。老若男女、町に暮らす人を対象にした「育てる、つくる、食べる、つなぐ」という小さな食の循環システムを通して、単なる農業や飲食業に留まらない、地域の農業問題の解決、食文化の継承、雇用創出、移住促進、コミュニティの活性、次世代教育など、幅広い範囲での地域社会の課題解決を担われています。
http://foodhub.co.jp/
2018年度グッドデザイン賞において、「グッドデザイン・ベスト100」、特別賞「グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)」を受賞。
当時、役場の農業係で耕作放棄地や鳥獣害対策を担当されていた白桃さん。
神山の農業の課題は大きく3つあったと話します。
- 神山の農業者の平均年齢が「71歳」と高齢
- 担い手の不足により「耕作放棄地」が増加
- 農環境の悪化による「鳥獣被害」が増加
米農家の父が米の収穫直前に病に倒れ、代わりに手伝ってくれる方がおらず収穫ができなかったという。地域で最も若い63歳。その経験から、地域の農業の脆さがわかり、「みんなで支える農業の仕組み」と「地域で担い手を育てる仕組み」を持続可能な仕組みにしようと考え、まずは町の人へ届ける商品づくりをスタートされます。
不特定多数から特定多数へ
我々がやろうとしているのは不特定多数の方に販売する仕組みではなく、すごく小さな仕組みで、神山に住む特定多数の人に向けて「もの」を作り届けようと考えています。都会や地域外からも来られますが、神山のみんなで食べて支える仕組みが必要です。さらに6次化も地域内で協同して行っています。地方創生計画の地域内経済循環という課題に地域の中でお金と物を循環させ、それを「農業の会社」として食を通して考えたんです。
四国の中で農業が盛んな高知県の収支では、農業の売上が400億円を超え、県内で黒字の一方、県外で作られる加工品・食料品の売上は700億円を超え、地域のお金が外に300億円出て行っている(2010年高知県産業連関表より)と指摘。そこで食料品を神山町内外でお金を支払った割合がわかる指標を参考に、「パン」と「外食」に注目したといいます。
我々の地域にはパン屋さんが無かった。コンビニや個人商店で県外の大企業が製造したものを買うしかなかった。なので「地域のなかでパンを作ろう」となった。みなさん外食は、30-40分車で徳島市内の中心部に出ています。大手チェーン店や海外ファーストフード店の食材は海外産の野菜を使用していることが多く海外の農家さんの稼ぎになる。また日本にも一部のお金しか残らない。それを少しでも町の中で食べることで、町の食事処と町の農家さんの稼ぎにしようと考えたんです。
フードハブには農業の担い手育成を中心に、5つの取り組みがあります。
1つ目は地域に貢献する「社会的農業」。農業として稼ぐといった目標と耕作放棄地や棚田といった景観の維持などの問題にも関係し、稼ぐといったこと以外にも社会性の高い、そういったことも含めて「社会的農業」です。
2つ目は食堂とパン屋さん。これは「会社の収益の柱」になっています。
3つ目は食品店。ここで使っているものを販売し「地域の冷蔵庫」としての店舗運営を行っています。
4つ目は加工品の開発。これは後にも出てきますが、地域の人たちとの「加工品開発」です。
5つ目は食育。大人も子供も食べて育てる「循環型の食育活動」です。
それを4つのチーム構成で動かされています。
- 育てる部門は農業をしながら人を育てるチーム
- 食べる部門は料理やパンのチーム
- つくる部門は加工品チーム
- つなぐ部門は食育を行うチーム
組織概要は、神山町役場30% つなぐ公社3% 真鍋さんが所属する東京の会社モノサスが残りの67%となります。
人、ものごと、お金の流れを見える化
育てる部門が農地、耕作放棄地を借り受け、農業振興につなげます。そこに新規就農者を受け入れ農業の担い手の育成をおこないます。また、食べる部門やつくる部門に卸す食材を地域の農家さんから仕入れます。その食材が形を変え、神山に暮らす人々がここで美味しいものを食べてお腹を満たすことが、お金が配分され農地を守ること、土地を守ること、地域の農家さんを支える、研修生を受け入れることにつながっています。
これはなかなか見えにくいことなので、地元の人にちゃんと伝えていますと白桃さん。フードハブのメンバーは料理人やコンサルタント、学校の先生だった方など各部門に多様な能力を持った神山や徳島出身者や移住者など様々。このプロジェクトをきっかけに神山に5家族19名が移住。このことからも移住のプロジェクトの顔をもち、現在は結婚、妊娠、出産のラッシュで経営的には頭がいっぱいだが、人口が増えるということで顔は嬉しそうです。
我々の合言葉は「地産地食」そして「つなぐ農園」
地産地消の「消」を「食」に変えています。消費はモノとお金の単純な交換。地域で育てたものを食べ支えたいので「食」にしています。私達の一番広い畑で1反、通常6−7畝です。農業って今日始めようと思って明日から出来るものではないんです。3年目の今年の春からようやくはじめられる状況になりました。最初はあるお婆さんの旦那さんが亡くなり「1人で、2反もよーせんよ」の一言をきっかけに、耕作放棄することなく畑を引き継ぐことができました。現在は3.35haの農地となり、その7割が耕作放棄地または継続が難しい畑を引き継いできました。
農業の方針としては中山間地域で条件も良くないため、単一品種で多く作るのではなく圃場条件にあった少量多品目にしたそう。お店で使用する作物を中心に料理人と相談しながら育て現在25品目。お店で使用する野菜は、なるべく地域の農家さんから買えるようにと、地域で中量多品目になるように作付けを計画。在来品種であるもち米、小麦を育て、種をつなぎ、農家さんと新たな技術や品種にも挑戦。
「お店に地域の農家さんが毎朝野菜を届けてくれるんです!」と嬉しそうに話す白桃さんからは地域の方々からの信頼関係が見て取ることができます。
また、地域の冷蔵庫を支える農業の担い手の育成は、研修機関として国から認定を受け、給付金制度を使って研修生を受け入れている。2年間農園で研修を行い、最長7年交付を受けながら就農。昨年の4月から研修生を1人受け入れられたそう。今後も研修生を受け入れる予定で、役場での農業係の経験があるからこそ町の課題を把握し、行政と住民との調整役になってサポート。官民一体となった持続可能な仕組みのお話に、プロジェクトの厚みを感じさせられます。
文:對中剛大 写真:片岡杏子
真鍋太一(まなべたいち)
1977年生まれ。愛媛県出身。アメリカの大学でデザインを学び、日本の広告業界で8年働く。その後、アメリカで就職するが、挫折して帰国。空間デザイン&イベント会社JTQを経て、WEB制作の株式会社モノサスに籍を置きつつ、グーグルやウェルカムのマーケティングに関わる。2014年、徳島県神山町に移住。モノサスのプロデュース部部長とフードハブ・プロジェクトの支配人を兼務。
白桃薫(しらももかおる)
農業長。神山町出身。一般社団法人神山つなぐ公社所属。神山町役場の職員として11年間勤務。暮らしや仕事中で、日々神山の農業に対して危機感を抱いていた。神山町の地方創生ワーキンググループで考えたフードハブの原案に「これしかない」と思い実行を決意。現在は、神山つなぐ公社の、農業担当として立ち上げに参画し、実際に田畑に出て農業に取り組んでいる。
我々は神山の農業を次の世代に伝える「農業の会社」
皆さんこんにちは!私は白桃薫といいます。はくとうと書いて”しらもも”です。役場から出向し、フードハブのプロジェクトをしています。
神山へは神戸から2時間半ほどで、徳島市内からは1時間ほどです。
人口が5,374人、高齢化率49.5%、主産業は林業でしたが今は農業が主産業で、すだちは生産量日本一です。
面積のほとんどが森林で、農地は5.6%ほどあります。我々が活動している町は、鮎喰川(あくいがわ)という川が流れていて、それに沿って開けた場所の中山間地域で行っている取り組みが“フードハブ・プロジェクト”です。
神山で「かま屋(食堂)」と「かまパン&ストア」というパン屋と食料品や野菜を販売するお店をしています。よく飲食など行う会社なんですよね?と言われますが、神山の農業を次の世代に伝える「農業の会社」ですと答えています。
このプロジェクトのきっかけは、2015年の7月〜12月に地方創生の総合戦略をたてる「神山町地方創生戦略を検討するワーキンググループ」で、私は当時役場の職員として、真鍋はサテライトオフィスの移住者としてこのグループに参加していました。