〈種はおよぐ〉のお兄さん的存在である服部さん。そんな服部さんに「デザイン」の視点から商品づくりや商品の伝え方についてお話しいただいた今回の交流会。戦後のものづくりから現代のものづくりの変化や特徴、自身の商品の何をどのように伝えるのか。デザインの視点から作り手や売り手の方にとってのヒントや考えるきっかけを、語り掛けるようにお話しされました。

はじめまして、grafの服部です!よろしくお願いいたします。 「種はおよぐ-食と里のつながり」でさまざまな人と神戸の未来像を一緒に考えていく、ということをさせていただいています。 立場としてはデザイナーですが、カタチのことはもちろんですが、デザインという立場から色々な場所でコンセプトから広がるコミュニティについて考えています。 今日は一応デザインをベースにお話すると、何かヒントになるかと思いますので、デザインマインドを持ち帰っていただければと思っています。

バブル崩壊とものづくりの構造の変化

さて、デザインといっても21世紀になってデザインの役割が随分変わってきました。20世紀を振り返ると、「モノとコト」という時代、「デザイン=経済」と言われる時代だったと思います。90年代はバブル崩壊、この辺りから価値観やデザインの役割が大きく変わりました。
僕はちょうどバブル崩壊後の93年に社会に出たのですが、大学にはバブル期の先輩と崩壊後の先輩、二世代の先輩がいたので、当時2回生だった僕は、4回生の先輩に聞くんですよ

「先輩、先輩、就活どうですか?」
「ソニー、松下、シャープ3つ内定もらったよ。今日はソニーが合コン組んでくれてて…」

みなさんもそんなことなかったですか?(笑)

女性:ありました。(笑)

ですよね!(笑)

その先輩はソニーへ入社して、今はシニアディレクターとして働いています。 その後バブルが崩壊し、当時3回生で4回生になった先輩に同じ質問をしました。

「先輩、先輩、就活どうですか?」
「60社受けたけど全部だめだった」

バブル崩壊で社会の天国と地獄の状況をあからさまに見ながら、どうやって生きていくんだろうと学生ながらに思ったんです。

この時期、ものづくりの仕組みや流通の仕組み自体も崩壊したと思っていました。
縦型の社会から横型の方向性の社会へ変わるのではと、バブルの崩壊と共に感じ出したんですね。
縦型の構造はメーカーを頂点に生産者、ユーザーというピラミッド構造。
メーカーは生産者に安く良いものをつくれと指示をだし、それを消費者は高く買う、そんなこともあったと思います。

バブル崩壊後は縦型から横型の構造に変わっていくわけですが、利益を案分するフェアトレードもこの時期に出てきたと思います。 この横の繋がりをいかに考えていくか、それを思いながら社会にでていきました。

時代ごとのデザインの役割

ではデザインって、どんな変貌をとげたのでしょうか? 20世紀初め戦後の日本、すべてが焼け野原になり、生活を生み出し、社会をつくることにエネルギーを使っていた時代。この頃のデザインの役割は「デザイン=機能性」です。「不便を便利にすること」もデザインが担っていました

それから高度経済成長時代へ入り、戦後の焼け野原の状態から10年間でHONDAのバイク、「カブ」が量産体制に入るほどパワフルな時代でした。

そして60年代後半はベビーブーム、子どもが多い時代でした。 そんな中、僕はニュータウンで生まれ育ちました。 この頃のデザインの役割は「不便を便利にすること」から進化して「デザイン=豊かさ」を生み出すことがデザインの役割になっていたんですね。 一つのカテゴリーから消費が細分化されて、同じ機能や中身だけど表層(色や素材)を変える、ということで商品の多様性を広げていました。

僕が中、高生くらいだった80年代ですね。ヤンキー世代。 その後バブルがやってきました。 建築は時代時代をシンプルに形状化していて、シンボリックな建築が目立ちました。ハコモノ事業という言葉もよく耳にした頃です。 そういうのを僕は下からみていて、もっと生活にフィットするものが社会にないだろうかと思いあぐねていました。

さて、先ほどから20世紀は「モノとコト」とういう時代だったとお話してきましたが、デザインするということは、モノのかたち、モノを売り込むための広告がソフトも含め、デザインの役割を果たしていました。

21世紀にさしかかると「モノとコト」から順番も変わり「ヒト、コト、モノ」の時代へうつります。 モノからモノを考えるのではなくて、ヒトや暮らしからモノを考える。
「ヒトが出会い、コトがうまれ、コトのためにモノが生まれる。」ということです。

マーケティングの方法も変わっていて、昔は仮想ターゲットを仕立てるやり方だったのに対して今はSNSを活用していますよね。 SNS時代で個人同士が繋がりやすくなっていること、物事を考える人が増えていること。3.11以降、特に大量に作られているモノや広告に対して不安も出てきていることで、デザインの世界も変わっています。

ここで皆さんに質問です。
レタスのパッケージ、どんなだったでしょう?覚えてます?? カシャカシャのビニールに包まれていて・・・

答え、言いますね!
産地の「農家のおじさん」のシールが貼られています!

では、なぜレタスに農家のおじさんの写真が貼られているのかを考えていきたいと思います。

昔は消費者が食べ方をイメージしやすいレタスサラダの写真などの情報をパッケージにしていたんです。 でも今は、生産者の顔のシールが貼られている。 それは生産背景を知りたい、安全に作られているかどうかに興味のある消費者が増えているということなんです。 デザインとして使い方より作られ方を重視していることが見て取れます。 「モノから」ではなく、「ヒトから」ということがこういった状況にも出てきていると思ってください。 商品も多様にあふれているので、選ぶということも「ヒトから」始まっています。 例えば口コミの情報も「ヒト、コト、モノ」の順番ですよね。 SNSも人が発信し体験に導かれていきます。

一つ参考として、ノルウェーの※1「フード・スタジオ」というチームを紹介します。 彼らは自分たちの地域を伝えるために、ピクニックをデザインしたんです。 地域外の人に来てもらって、自分たちの地域がどのように構成されているかを、ピクニックをしながら一緒に食材を集めてランチを作り、ゴール地点で地域の食材で作られたディナーをするという体験を通して伝えています。 「ヒト、コト、モノ」の順番はこういうところにも出てきていて、ヒトが出会うことにより、コトの理解へと進み、よりモノが象徴的にみえてくる、物語を感じることになります。

なので「ヒト、コト、モノ」の順番をもう一度整え直すのが21世紀の今、価値を作ることじゃないかと思います。

デザインにも影響するブランディング

「ブランディング」を分かり易くするために漢字2文字にしてみたんです。わかりますか?

いきますよ!
「物語」です。
「モノ」と「カタリ」ということばが入っているんですよね。
これ見事じゃないですか!(笑)

作り手やメーカー、ブランドは「カタリ」の部分をすごくやっているんですよ。 「モノ」が「カタル」は少し前のこと。 モノの質、モノをみる眼を持ったヒトがインターネット普及前には多かったと思うんです。 例えば新しい野菜を買うとき、八百屋のおじさんがレシピやこういう風に食べると良いよ、こういうふうにすると長期保存できるよと見聞きさせてきた。生活しながら学ぶということを過去してきた。

インターネットで物を買う時代のいま、例えばインターネットで椅子を買う時、 ビジュアルとしてみているけれど、質感を感じていない。値段を見て物を買っているんです。 それが続くと値段自体をみる眼が高くなっていきます。 もちろん良いこともあるんですが、それによって日常の中の学びが消えていると思うんです。 となると、我々のようなつくる側にいる人間が考えないといけないのは、「楽しくモノをカタレルか?」という重要性なんです。

先ほどご紹介した「フード・スタジオ」はまさに体験型の理解を深めるためのデザインを開発しています。また、プロジェクトをインターネットで発信し、体験したい人を集めています。今やインフラやシステムもデザインの枠組みの中に組み込まれています。

20世紀はカテゴライズすることで経済効率が上がる時代でしたが、21世紀はカテゴリーを生み出す時代に立っています。 デザインが、農業が、飲食業が語るべき部分が大きくなっているので、これからは、昔はカテゴリーの中にあった生産、流通、販売というジャンルを超えて、新しいジャンルを、カテゴリーを生み出していかないといけないことになります。

デザインの機能とは

デザインの機能について少し語っておきたいと思います。 グラフィックデザイン、プロダクトデザイン、建築、様々なデザインは
リサーチ→調査→検証→解体→編集→再構築→アウトプットといったプロセスからなります。

アウトプットされた広告でしか「モノ」をみてこなかった消費者には「モノ」しか伝わっていない。 けれどモノを理解したい消費者が多いわけなので「リサーチ」が重要だと思うんです。 「リサーチ」にはつくるプロセスが格納されていて、例えばどんな人たちがどんな風につくっているのかを「リサーチ」するのもデザインです。 形をつくることだけがデザインではなく、多くのパートを経てデザインが生み出されます。

最近ではつくるプロセスを広報手段として伝える人も多くなっています。 例えば、最近はブログ形式で商品の取材記事を読んでから購入へ、といったシステムのECサイトも増えています。 アウトプットを伝えることが広告、作られるプロセスを伝えるのが広報ですが、 先ほどのレタスの農家さんのシールにもあるように、消費者が安心安全に重きを置いている人が多くなっているので、広報の部分が重視されているということです。 ‘誰が・どんな場所で・どんな素材で・どんな技術で・どんな思いで・作っているのか?’をみんな知りたいということです。 ここにこそ、メッセージがあると思っていただけるといいなと思います。

何度も言いますが先ほどのノルウェーの「フード・スタジオ」はまさにこのメッセージ、 ‘誰が・どんな場所で・どんな素材で・どんな技術で・どんな思いで・作っているのか?という体験をピクニックをするという方法でデザインしています。

皆さんも何か新しい伝え方を、と考えてらっしゃるかと思いますが、答えは単純明快で、‘誰が・どんな場所で・どんな素材で・どんな技術で・どんな思いで・作っているのか?このプロセスを、いかに伝えるかをあらためて考えると、こういうSNS時代に有効な方法だと思います。

なぜならば、良き理解者とともに、この先生きていくために、理解を深めるということが最重要要素だと思うからです。

伝統を守るということは

もう一つ、「伝統」についてもお伝えしたいことがあります。

「伝統」って難しいと思うんですが、残っている「伝統」はなぜ残ったのか考えたんです。

「伝統」とは、思想と技術と○○です。
この○○、なんだと思います?

男性A:未来!
服部さん:うおおおー!渋い!!
男性B:パトロン!笑
服部さん:確かに!歴史的にはそういう構造もあったと思います。

答えは

「習慣」なんです。
思想と技術と習慣が伝統を守るんです。
未来もこの中に含めていいと思います!
未来を考えるということは創造するということで、創るという行為がありますよね。 「伝統=守る」ものと考えがちなんですが、習慣化していることを変えることが伝統を守ることにつながります。
時代に合わせて、現代の人たちにどう伝えていくかを考えることが習慣で、例えば中身は同じ物のパッケージを変えてみる、説明書をつけてみる、といったことも習慣を変えることに近づきます。
思想や技術は変えずに、時代に対応すべきこと、習慣を変えることが時代に合わせることになります。
習慣を変えると未来につながる。
昔の近未来絵図ってめちゃめちゃカッコよかったですね!私達の未来絵図を描いていきましょう!それでは、ありがとうございました。

服部さんのお話は、これまで形体を作ることがデザインであり情報であったものが、伝えること、関わること、感じることもデザインであり、デザインの視点で考え行動することが今を生きることにつながることになるというメッセージのように思いました。自身での商品作りや場づくり、仕組みづくりをされている多くの方のヒントになれば幸いです。 服部さん、笑いの絶えない和やかなトークイベントをありがとうございました。