〈種はおよぐ〉では、農村地域の課題を見つけ、課題の解決へのきっかけづくりや、解決に繋がるネットワークづくりを一緒に目指しています。酒米である山田錦の減産がせまられているというお話を聞き、実際にお酒を作られている神戸酒心館さんにお話を聞きました。

お話を伺ったのは、神戸酒心館の代表取締役社長の安福さんと代表取締役副社長の久保田さんです。


安福さん:日本酒の需要が減少している中でこのコロナという流れなので、本当に厳しいのが現状です。実際、「獺祭さん」とか「醸し人九平次さん」では、山田錦を食べる方でも販売されています。

山内さん:日本酒の生産・消費量が減った原因は何かあったりするんですか?

安福さん:まず、国内において、昭和48年ごろが日本酒の生産量・出荷量のピークで、現在は、そのときの1/3まで減っています。当時のお酒の種類はビール・ウィスキー等であったが、そこにワイン・カクテル等が入ってきて、種類・選択の幅がすごく広がり、種類感で日本酒が負けてしまったというのは原因の一つとして考えられる。 あとは、嗜好の変化、西洋化によって、日本酒が飲まれなくなっている。主飲層(日本酒を一番飲んでいた人たち)は高度経済成長期を支えた人たちで、その方々が仕事をリタイアし、収入も減る中でお酒の量も高齢とともに減っていきます。その中で若い人達のファン作りができなかったのも原因。 唯一、明るいニュースとしては海外ですね。 日本酒が非常に注目を浴びています。日本食が海外で伸びていく中で、一緒に日本酒も伸びたというのがあります。ワインを飲む際に「このぶどう品種はカベルネ・ソーヴィニヨンですよ。メルローですよ」と言うように、「この日本酒は山田錦ですよ」って言います。 やはり、山田錦のブランド力というのは高いものがあって、当然、海外でもっと売れていくという期待が我々にもあったが、なかなか今回のコロナの影響で勢いが短期的には減少してしまったかなというのはあります。経済もカムバックするでしょうが、足元一年半から二年ぐらいは厳しい状況が続くと考えています。

安福さん

山田さん:海外の方も小売よりレストランで飲まれることが多いんですか?

久保田さん:海外は小売だと、日本の3倍の金額になります。まだそこまで親しみのないものに対して、良いワイン一本買える値段のものはなかなか買えないので、まだまだレストランでグラスを飲んでみようというのが今は一番多いですね。 でも本当に長い目で見れば、海外は非常に大きいマーケットです。インバウンドが増えてきている中で、日本酒もいろいろあるんだっていうことを持ち帰って海外のどこで買えるのか、どこで飲まれるのかというところも、今後もう少し広がっていくと、明るさでいくと海外のマーケットの明るさというのは我々にとっては大きいなと思っています。

安福さん:とはいえ、まだまだ弊社でも輸出比率は1割ないぐらい。多いところで2割~3割、獺祭さんでも3割ぐらい。国内マーケットも大事ではあるが、どんどん小さくなっているので、やはり海外も必要というところですね。 われわれ神戸酒心館の場合は、「福壽」というお酒の製造業がメインですが、観光事業と飲食事業と3つの柱を一体化して価値を創造していこうというビジネスモデルです。 特に我々は、地産地消の推進として、うちの造るお酒はすべて兵庫県産米、水は六甲山の宮水を使っていて、ひとつそういったアイコンになりたいと、ずっとやってきているんですね。当社の料理屋でも、できるだけ神戸市北区産の野菜を使おうということで、そういう意味では観光というのは重要な位置づけでやってきたんですけども、今回コロナの影響で当面は多くの観光客は来ないというのは、ビジネスとしては厳しいですね。

山田さん:酒米の生産地域でもある北区大沢(おおぞう)町の農家が参加する野菜市をやっていましたが、まだ継続されているんですか?

安福さん:週末来られ、近隣のお客さんもついています。蔵開きや会社全体のイベントにも、野菜市みたいな形で来ていただいている。

岩本さん:醸造量自体は増えていないんですか?

安福さん:この10年間で約3倍ぐらい。手造りで造るので生産量には限界があって、今のところはもうMAXまで来たというのが現状です。今回のコロナの影響を受けて、来年度は少し減産をせざるを得ないかなと思っています。

これからの酒づくり(サステナビリティ)

山田さん:この10年でお酒自体の消費は減ってきているのに増産できているのはなぜでしょうか?

久保田さん:全体でみると、純米酒・吟醸酒の特定名称酒は伸びているが、経済酒・安いパック酒などの飲み手が減っていて、そこが全体を押し下げているのが大きいです。我々中小メーカーは、そこでは戦えないので、それよりも高付加価値のお酒で、比較的伸びている部類のお酒を生産しています。

久保田さん

岩本さん:それなのに、使用されているエネルギー消費量がほぼ変化がないうえに下がっているところがすごいですね。

安福さん:今回それが評価されてエコプロアワードをいただいたんですが、結果として毎年約10% 削減をすることができました。この取り組みがここまでできると思っていなかったが、自社内でそれができたことはよかった。 ただ、自社では成功を収めたが、次のフォーカスがサステナビリティだと思っています。日本酒はお米と水が必要で、我々の産業はお米がなければだめなので、産地との繋がりが次のフォーカスだと思っています。JAや色々な方々と一緒に取り組みをしながらというのがスタートしたところですね。

岩本さん:ここまで環境に配慮して酒造りをしている会社というのは、今の時代はこれがスタンダ ードなのか?それとも稀有なのか?

安福さん:まだまだ日本酒メーカーでは少ないと思います。我々は輸出をしている中で、海外のワイナリーを見ると環境・社会への配慮というのは想像できないぐらい、比較にならないぐらい高いレベルでされています。 我々も日本酒を海外で売っていこうと思ったら、そういった取り組みをしていかなくてはならないと評価はされない。 品質だけ、美味しい・美味しくないではない。その背後のストーリー・取り組みが重要になってくる。そこの価値が日本ではまだまだ評価されてない部分があるとは思うんですが、やらなくてはならないことではある。サステナビリティ、サーキュラーエコノミーという循環型社会というのは大企業だけがするものではなく、小さな会社でも取り組むべきです。日本酒はそういう意味では分かりやすいと思いますし、神戸市さんと一緒に取組みをさせてもらっています。今は、消化液の話とか・・・。

山田さん:弓削牧場さんの消化液(液体肥料)を使って、山田錦を育てて、お酒にする循環のプロジェクトをされています。

安福さん:肥料として使わせてもらって、そこでできた山田錦をお酒にして販売するという取り組 みであったりとか、もう一つはコニカミノルタさんと神戸市さんが一緒にしているリモートセンシングというプロジェクトで、ドローンを活用して高齢化・生産地の抱えている問題を解決する一助にならないか、安定した高品質の山田錦をどう作っていけばいいかという取り組みを今年から始めました。

山内さん:中長期的に見るとまだまだ希望があるように見えますね。

安福さん:今は温暖化の問題もあります。山田錦はいいお米であるが、環境の変化の中で、これからもいいお米であり続けるかという不安もあります。お米のクオリティは大事で、我々としてはまずは自然環境を守っていく一助になればと思っています。そういう意味では、本来は我々とも米作りから一緒にやっていくというのが本当は望ましいが、蔵と田んぼが遠く離れているためなかなか実現できていませんが、長い目でやっていきたいと思っている。

山内さん:今年は実験的に山田錦を育てているとおっしゃっていましたね。 10年単位で考えると、いずれは自社栽培田でお米を育てながら酒造りも実現できるかもしれないですね。

安福さん:われわれが実績を作れれば、この灘には大手メーカーもいるので横展開できれば大きなイ ンパクトを与えることができるかなと。それができれば灘のお酒の価値がさらに高まるのかなと思うんです。酒は一社だけがどうではなくて地域で取り組めるのが一番望ましい形かなとは思います。

山内さん:今までにも、横繋がりはあったりするんですか?

安福さん:これまではまだまだ。灘五郷酒造組合の経営者も若返っているので、新しいビジョンをみなさん持たれていますし、サステナビリティというのは無視できない課題として認識されているので、また話ができるタイミングがあるのかなと思っています。まずは、自社が実績・実践をするところかなと思っています。

日本酒は多才

岩本さん:日本酒は飲むために作られていますが、それを料理に使う・スイーツに使うというのは、どう思われますか?生産者としてこの使い方やめてほしいとかありますか?飲む以外の活用の仕方についてお聞きできればと思います。

久保田さん:和食は日本酒がないと成り立たないじゃないですか、よく使われるものですし。日本酒が日本酒としてしか飲まれないとダメなのかというと全くそうではないです。日本酒のカクテルとかもありますが、逆にバーテンダーの方が日本酒をいじることに対して、とても抵抗があると言っています。ワインも同じだとおっしゃいます。我々にとっては、それで、日本酒とあまり接点のなかった方々が興味を持たれて、その先に、日本酒を飲む機会に繋がるのであれば、それはすごくいいことだと思います。もともと、お酒自体が、もっとフランクな飲み物、嗜好品なので、変なこだわりはないです。もっともっと日本酒を使って別の形が生まれてほしいと思います。

山内さん:若い人たちのお酒を飲む機会がなくなってきました。今回コロナの影響を受けて、お家でご飯を作る機会が増えてきました。料理酒ではなく日本酒をつかって料理をするともっとおいしい料理ができるのではないかという話をしていたんです。

久保田さん:料理で日本酒がどれくらい使われているか知らない方が多いと思うが、料理人の方は日本酒がなかったら和食はできないと言っていました。日本酒はどうしてもそのまま飲むというイメージがありますが、実は見えないところで、色んなところで活躍しています。日本の文化の一つと言われるのが分かります。料理には絶対にないとダメなものですし。

鶴巻さん:和食の高級なお店で、お客さんが飲む以外に料理で日本酒を使っているお店はたくさんあるんでしょうか?

安福さん:あります。

鶴巻さん:料理で使う日本酒と飲む日本酒は区別されていますか?

安福さん:分かれています。われわれも吉兆さんなんかに、料理で使う日本酒と飲む日本酒は分けて卸しています。先方が何種類か飲まれて実際どのお酒が合うのか決められています。パック的なお酒を使っているお店もあると思いますが、料理酒にこだわる方もいらっしゃいます。

久保田さん:一度日本酒を使って、料理に合うと、なかなか他に変えられないというのはあります。

鶴巻さん:料理酒というものはそもそも存在しないんでしょうか?スーパーなどでも料理酒は売っているが、定義的に同じですか?

久保田さん:基本的に価格として低く抑えられた料理酒は多いと思います。料理に純米酒を使っていますよというお店もたくさんあるので、ご家庭もそうだと思います。

鶴巻さん:普段生活していてあまりイメージはなかったが、醤油を変えるだけで料理の味が一気に良くなったりもするので、料理に日本酒を使えばより美味しくなるなどの発信があれば良いと思います。自分自身、あまりお酒を飲まないので、日本酒って、料理に使うと味が変わる。日本酒って飲む以外に使っていいものなのかわからなかったです。そういった発信があれば面白いのかなと思いました。

オンライン酒蔵見学

安福さん:先ほど、日本酒の消費量が落ちているという話があったが、その原因の一つとして悪いイメージがあると言われていて、悪酔いするなど良くない飲み物と思われているケースがあるように思います。実際、みなさんなかなか飲酒の経験がそう多くないのが現状なので、そういった悪いイメージが先行しがちだと思うんです。 消費者がまだまだ未熟なところがあって、我々が消費者を教育するというか、情報提供する必要があると思います。 料理の話も同じだと思う。知らない人が多いのが現状かなと。知らないだけに失敗したくないから有名ブランドのお酒を買うようになってしまう。

鶴巻さん:先日、寿司屋に行った。行くとお酒を飲みたくなるんですね。今、漁業系のプロジェクトをしていて魚食が肉に負けたのが10年前。和食や魚を食べる習慣が低下してきているのと日本酒を飲む習慣が減ってきているのは何かしら近いところがあるのかな思います。

久保田さん:日本酒が家で飲まれなくなったのは、日本酒に合う家庭料理が出てこなくなったというのもあると思います。ビール・ワインなど、どちらかと言えば洋風化した料理が家庭でも作られているのが増えてきているのも、要因の一つかなと思います。

安福さん:逆に言うと、日本酒が飲みたくなる場をもっともっと提供できれば、日本酒が飲まれるチャンスはあると思います。

鶴巻さん:ノンアルコールの日本酒はありますか?ノンアルコールビールは酔わないから食事の時によく飲むが、そこにノンアルコールの日本酒もあれば、両方とも飲んでみようかなとなるのかなと思います。

安福さん:出しているメーカーはありますが、なかなか広がらないのは、味わいがイマイチなのかなと思います。

山内さん:やはりノンアルコールビールは、ビールのおいしさに負けてるじゃないですか

鶴巻さん:雰囲気で飲めているから問題ないと思います。

山内さん:日本酒でも、ライトなポピュラーな飲み物という出し方だったらいいのかな。日本酒が飲めるイベント的なものは社外でされていたりするのか?

安福さん:社外では、イベントに出店するというケースが多いですね。あとは、「福壽を楽しむ会」を東京・名古屋・神戸で飲食店を借り切って行っています。神戸では、千人代官というお店を借りて70~80名規模で行っています。当社では、11月最終週に蔵開き、新酒ができたお祝い・お祭りをします。2日間で3000~4000名ぐらい来場する一番大きなイベントがあるが、今年はコロナで中止しました。

多々良さん:それで、オンライン酒蔵見学というアイデアが出てきたんですか?

安福さん:そうですね。酒蔵見学は、基本的に少人数で対応できるので、オンラインでできるだけ関心を持ってもらって、先ほどの日本酒を知らない方への教育というのも含めて継続してやっていきたいと思っています。

久保田さん:海外のお客様にも、SNSを使えば、来ていただかなくても蔵がどういったものか実際 に見ていただける。今後、オンラインでテイスティングしながらお酒について意見交換ができる、今までは現地に行ってやっていたことが、今回のコロナで、実際に海外に行かなくてもオンラインでできるということに気づきました。 新型コロナの影響は、マイナスの方が大きいが、全然見えなかったことも色々あったので、今後はそういったものを生かしていきたい。

多々良さん:YouTubeで動画アップされていますが、海外からコメントがあったりしますか?

安福さん:YouTubeは日本語がベースなのでそちらはまだまだですが、「福壽」の英語版のブランドページにはアクセスが多いですね。

久保田さん:YouTubeも、テロップを入れたり、お酒のテイスティングのコメントを上げながら見てもらうというのもやっていきます。

多々良さん:ほかの酒造メーカーを少しリサーチしたのですが、YouTube動画を上げている酒蔵はなかったので、いろいろ試されているという印象があります。

安福さん:ありがとうございます。我々の場合、人材に恵まれていて、YouTubeの酒心館チャンネルで話している支配人の湊本は元ワインのソムリエで、ワインのバックグラウンドがあって10年前から日本酒に転向しました。ソムリエでスクールの先生をしていた人なので、話が面白く尽きないです。彼がオンライン酒蔵見学も行いますが、当社の顔としてやっています。英語とフランス語が少し話せます。海外との交流が今後できれば面白いかなと思っています。

YouTubeの酒心館チャンネルで話している支配人の湊本さん

灘五郷は日本遺産

岩本さん:日本遺産に認定されたことを受けて、ちょっとだけでもコメントをいただけますか?

安福さん:『伊丹諸白」と「灘の生一本」 下り酒が生んだ銘醸地、伊丹と灘五郷』が、令和2年度「日本遺産(Japan Heritage)」に認定されました。 昨年は「GI灘五郷」は酒類の地理的表示(GI)として国税庁長官の指定を受けました。 (灘五郷で造られた日本酒を保護する地理的表示制度です。) 国内・海外に向けて高い品質をPRしていくことに動き出しています。

岩本さん:文化庁は、伝統芸能や工芸の分野で高い技術を持つ個人を認定する「人間国宝」(重要無形文化財保持者)制度の対象に、和食の料理人や日本酒造りの職人(杜氏)など「食の達人」を追加する検討を始めています。

山田さん:文化芸術基本法っていうのがあって、国が取り組む施策として「食文化の振興」が明記されて、日常の食も文化なんですよということが認知されました。

消費者は知らないことだらけ!?

山内さん:先ほど話していた消費者を教育するというのは具体的にどういうことをするのでしょうか?

安福さん:昔、日本酒は級別制度(一級酒・二級酒など)があったが、90年代になり純米酒・大吟醸酒といった特定名称酒に移行したんですね。 これは一つの時代の流れではありますが、消費者からすると分かりにくくなったという一面もあります。大吟醸と言われても何のこっちゃとなる場合があります。 平成で、その移行があったので、令和の時代に新しい形の提案がされるべきかなと思います。やはり分かりにくいというのは今、抱えている問題としてはあります。 特別純米酒・無濾過生原酒とは、マニアな人には面白いのかもしれないですが、一般の人が聞いても、わからないと思うんですよね。

岩本さん:純米酒が悪くて、純米大吟醸がいいかというとそうではないですよね。

安福さん:精米度合いというのもなかなかわかりにくいっていうのはあると思います。海外のお客様は、精米度合い70・60と書いてあると、精米度合いをアルコール度数と勘違いして、そんなアルコール度数が高いものは、飲めない思ってしまう人もいるんです。 精米%を見て、灘スピリッツと言われる方もいる。残念ながら海外へ行くと小売りでは「スピリッツ」のコーナーに置かれることもあるんです。本来ならワインと横ぐらいに置いてほしいんですが。

山内さん:酒蔵では、令和の新しいランク付けという動きが出てきたりしているのでしょうか?

安福さん:意見は出るが、酒税の関係で国税庁の管轄で、国とも調整が必要で、長いプロセスがあるので、やろうという感じには至っていない。 ただ、海外に売っていこうと思うと、精米度合いというよりはテロワール(このお米は神戸市の北区でとれたんだ。その地域がどういうところなんだ)を語るとか。ワインと同じでそういうことを伝えていく方が分かりやすいですし、我々もそういう売り方をしていくべきかなと思っております。

山田さん:ワインはソムリエがいたり、飲食店がシェフとかがワインの説明をするが、日本酒の場合は酒造メーカーがすべて消費者共有するわけにはいかない。そこの分野の人たちというのはまだまだワインに比べると足りていない?

久保田さん:ワインに比べて、日本酒には合わない料理がない。ほとんどの料理と合う。ワインの場合、成分(赤・白)があるので、その成分に合う合わないがあるので、ソムリエというコメントする人がいた方が美味しく飲めるというのがあります。 日本酒の場合はそれがないんです。それに、もともと日本酒は肩ひじ張って飲むものではないので細かいこと説明しなくても好きなように飲んでというものなので、結果ソムリエのような存在を育ててこなかったということはあると思います。 今後は、飲む・食べることにもエンターテインメント性が必要になってくるので、この料理には、この日本酒が合いますよという楽しませるような人材を育てる必要だと思います。

山田さん:日本酒はワインに比べて味が繊細なんですか?

安福さん:一つの違いは酸度です。ワインは酸度がとても高いんです。それに対して日本酒は酸度が低く、アミノ酸が豊富で甘みがあり、料理と非常に合わせやすいんです。甘味はカバーしやすいが、酸味は反発分が出てきます。

對中さん:いろんなお酒がある中で日本酒の強みはうま味が強いことが特徴だと思うが、ワイン・焼酎などは香り・辛味・酸度が強かったり、いろんな意味で食事を選んでいくものだと思っていて、日本酒は唯一うま味成分が強いので、食中酒として合わせやすい。 香・甘味・辛味の違いで、料理とコントロールすれば、なんでも合わせられるのが強み。 日本酒を使って料理をするというのは、出汁を使わなくても、日本酒がうま味を持つのでやりやすい。強い出汁を使わなくても、日本酒を使って煮込みをするとそれだけで米のうま味が入っていく、お肉であれば柔らかくなるし、いろんな部分でメリットが大きいのに、そこをうまく伝えられていないように思います。 どうしても、日本酒のボトル、ブランドで売ろう売ろうとしているイメージがあって、でも、飲んでみると蔵元によって味もタイプも違う。 じゃあどうしたらいいんだろうといつも考えているが、料理とセットで提案していかないと今の食事の多様性で、日本料理=日本酒となっても、ビールでいいよ、焼酎でいいよ、となってくると日本酒まで落ちてくるのに時間がかかるのかな。 例えば、韓国料理を食べたいというときに日本には美味しいマッコリがない。 そういうときに、どぶろくとかにごりを炭酸で割って飲むと美味しいですよね。じゃあ、料理をイメージできているか、お酒をイメージできているかで繋ぎ合わせることができると思うが、そこの接点をどこで作るか。 日本酒=刺身だけではなく、フレンチでも日本酒を合わせることはできるし、そこのイメージをどれだけ強く高めれるか、学びにできるかが次の時代のポイントなのかなと思っています。

久保田さん:海外に出すというところで、フレンチでもワインリストの中に日本酒が入ってくるというのが少しずつ増えてきている。日本料理屋以外でもイタリアン・フレンチでも、ドリンクリストの中に日本酒というカテゴリーができれば日本酒の消費も半端なく増えていきます。そういうふうに持っていきたい。日本でもフランス料理で日本酒を使うところも増えてきているので、すごい合うんですよってお勧めしたら、日本酒が飲まれる機会も増えていく。我々もそういったところを提案していかなくてはならないと思っています。

對中さん:コペンハーゲンのnomaというお店でも、ペアリングの中に日本酒が入っています。 甘味の強い料理に辛味の強いお酒も合わせやすいし、そこをいかにプレゼンテーションできるか、なのかな。

久保田さん:日本で流行らせるとしたら、nomaで飲まれていたのはこれですといった感じしかないんですが、それでは限定的になるので、この料理にこのお酒が合うというのをいかにお店として提案ができるか、それが増えていけば日本酒の未来は変わってくると思う。

安福さん:今、私は、日本酒造組合中央会の海外戦略委員会で委員をしており、海外におけるワインの展示会に日本酒で出展をしていって、日本酒の認知度を高めていき、ブランドを確立することを進めています。 大きなポイントはお酒だけではなく、食とどう楽しんでいけるかが重要ですよね。教育という話がありましたが、海外戦略においては、海外のソムリエを教育するというのが一つの戦略になっていて、今は海外のワインスクールに日本酒のコースができていて、ソムリエもワインだけではなく日本酒の知識も持って、いろんな提案をしていきます。今後はもっともっと、日本酒の活躍の場も増えていくのではないかと思います。

山内さん:国内でも、最近はバーにいくと日本酒も置いていることがあって、レパートリーがあって楽しい気はする。

安福さん:ここ神戸においては、お酒の産地であってお米の産地でもある。ここでしか造られない お酒の価値をいかに高めていけるかがポイントで、それができれば、観光客もそこにくるでしょうし、地元でも飲まれていくでしょう。どうして、ここなのか。ここの価値を高めていくことが一番大事だと我々は思っているので、そういう意味ではサステナビリティというのはここが大事なんだと思います。新潟県のお米を持ってきて、お酒を造ろうと思えば造れるんですが、それでは価値が上がらないですよね。兵庫県であり神戸市で作られたお米を使って造るお酒に価値があると思います。

久保田さん:教育という話になるのかもしれないが、私も実家に帰ってきて、酒造りに関わり、初めてここが日本一の酒米ということを知りました。私もその程度で、今回、日本遺産になったことを兵庫県の方はほとんど知らない。米どころといえば新潟県と言われるが、酒米でいったら兵庫県がすごいんだという地元に対する情報発信を、もっと年齢の低いところで知ってもらう機会を教育現場でも接点があるかないかで大きな分岐点になっていくのかなと思います。小さい頃に日本酒に接点がなければ、大人になっても飲む機会がないと思うんです。おじいちゃんが飲んでたというような人は、若い時でも日本酒の味が分かっていたり、飲み手になったりする可能性が高いんです。

安福さん:海外のワインの銘醸地にいくと自分たちの土地のワインが一番だという人がほとんどだけど、兵庫県はそうではないんです。何が違うのかなと考えるんですけど、教育であったり情報発信がまだまだ不十分なのかなと思います。

久保田さん:兵庫県神戸は豊かで、全国レベルでも有名なものが多くあるので、その中でバラついて、フォーカスされにくい。

安福さん:実際、みなさんは、日本酒がまったく飲めないのではなくて飲める機会がない。オンラインであったり、いろんな形・マーケティングによって大きく変えれるのかなとは思うんです。我々も手探りではあるんですけど。物流はここからでも送れますし、オンラインで認知も高めていける。実際に飲んでもいただける。ファンになってもらえる要素は十分にあると思うので、あとはやり方なのかなと思います。

料理酒としての日本酒

山内さん:仮の話しなんですけど、料理酒を一緒に作ってもらえませんかといった相談も可能なんでしょうか?

安福さん:蔵元さんの中には、高級な料理酒を造っているところもあったりします。

久保田さん:調味料にこだわりのある方は価格ではなく、そこにちゃんとした内容があれば高くて も買われる。絶対にそういった層の方はいらっしゃるので、どういうものを造っていくかによって変わってくると思います。

山内さん:料理酒だから使うというイメージが強い、日本酒を使うことに驚かれる人が結構います。 料理酒・日本酒の概念を少し変えると、注目されやすいと思います。 このコロナで、家の中で料理をするという需要が高まっている中で、料理に日本酒を使ってもらうというのも面白いかなと思います。

久保田さん:料理酒自体が日本酒だと私は当たり前に思っているが、分からない方もいますよね。

長坂さん:お酒コーナーではなく、調味料のところに料理酒が置いてありますね。 私は日本酒を使って料理をするんですけど、お酒コーナーに行かないと買えない。調味料という認識がない人がほとんど。

山内さん:人工アルコールなので、安心と思っている方がかなりいると思います。でも、きっと日本酒を使って料理した方が美味しいですし。

安福さん:需要はあると思います。

神戸のどぶろく

山田さん:ワインは、全国的に小さいワイナリーが増えているが、酒蔵はどうですか?小さいところが増えたりはしていないですか?

安福さん:減少の一途だと思います。

久保田さん:もともと製造免許自体が簡単に下りない。去年、輸出するためだけに製造するのであれば、一時的に製造免許が下りることはありました。それは非常にレアなケースですけど、それ以外はほとんど下りることはないんです。アメリカのようにマイクロブリュワリーがどんどん増えるみたいなことは簡単にできないです。

岩本さん:ワイナリーはちょっと増えましたよね。

山田さん:だいふ増えました。クラフトビールとかクラフトワインとか増えてきている。その流れで酒蔵が増えた方が業界の人はうれしいのか、競争相手が増えるから嫌なのか、そのへん感覚はどっちなんでしょうか? 実は神戸市はどぶろく特区なんです。だから、瓶詰はできないんですけど、農家さんが自分で作って民泊みたいなところで提供することはできるんですが、今のところ実績がゼロなんです。特区には入っているので、そういう感じで日本酒に親しむ機会が増えるのであれば…。

久保田さん:そうですね。絶対それは出た方がいいと思います。 クラフトビールとか言いながらも、実際に街中でここで作って出してますよと言えば、消費者もクラフトビールの認知、実際に行って飲んだことがある人は増える。結果的には小さいブリュワリーにとってはファンが増えることに繋がる。日本酒も小さいながらもそういったものが出てくれば全体としては、良いと思います。

山田さん:本当はそういうふうに持っていきたい。今年、山田錦の出荷ができないのであれば、自分のところで作ってみようかということがあってもいいのかなと思うが、そういう動きにもならないし難しいな。日本酒メーカーも商品数はここ10年ぐらいで増えた。多彩なものが消費者に求められるのかなと思います。

久保田さん:あっていいと思いますね。刺激にはなると思いますよ。結局それだけが売れるわけではない。そこがきっかけになって、他のも飲んでみようと、まずそこに関心が持たれるかどうかすら今はないというところなので。

日本酒とお祭り

山田さん:あと、地域のお祭りとかはどうなんですか?農村は祭りが残ってて、お祭りのときはみんな日本酒をたくさん飲んでいると思いますが。こっちの方は。

久保田さん:東灘のだんじりですよね。だんじりのときは回ってこられてお酒を振る舞う。飲みながらやっていいのかと思いますけどね。結構飲んで、上がってはったりしますけど。

山田さん:垂水も残っていますよね。地域のお祭りとお酒ってセットですよね。

安福さん:地域のお祭りであったり、あとは東広島・新潟では、大きな酒祭りをしていて数万人規模でお客さんが集まります。酒どころをPRするっていう、そういったイベントも本来は主産地、ここであるべきかなとは思うんですけども。

山内さん:普通にありそうな感じしますけど、ないんですね?

安福さん:ないんですよね。

山田さん:できると思う。前から思っているんですよ。ちょっとエリアが広すぎるのかなと。この 辺全部、歩行者天国にしてしまってお酒祭りみたいなのをやってもいいんじゃないかな。

久保田さん:そういった意味では、東広島という街が結構コンパクトなんですよ。平地で、歩いて回っても一時間もかからないぐらい。ちょっとこの界隈だと少し距離があって広さがあるというところで。東遊園地とかで、あの界隈であればやれる、面白いんじゃないかと思います。

對中さん:バスとかで巡るというのはできないんですか?

久保田さん:それはやっています。

山内さん:酒市とかやってほしいですね。

山田さん:FARM CIRCUSはまだ出されています?

安福さん:出しています。

鶴巻さん:そういうところ(Farm circus等)でデモンストレーションを毎月やっているんで、そこで日本酒使って料理作ってみましましょうみたいな、一部作って一緒にコラボして。結構人が来ます。日本酒の使い方の提案。あそこに来るとみんな、地元のいい物を買おうというお客さんばかりなので、そのままそこで料理に使ってみるとか、買うとか、そういうのはできそうな気はします。

山内さん:食材と一緒に買って、料理とかでデモンストレーションするとかできそうですね。

安福さん:結構日本酒のイベントはいっぱいあるんですけど、そこに来ている人は結構同じような 人ばかり来ている。ファン層なんですよ。なかなか広まっていない。

山内さん:でも若い人たちも徐々には広がっていますよね。

安福さん:徐々には広がっていると思います。

新しい日本酒の提案

對中さん:甘酒とか米麹とかは健康に良いというイメージがあるが、日本酒は太りやすいとか悪いイメージがありますよね。女性がお酒を飲むとき、焼酎は太らないから飲むけれど日本酒はなぜか飲まない、これってなんなんだろうって思いますけど。

久保田さん:カロリーの話をされているが、それほどカロリーは高くない。何を食べているかにもよるとは思います。ほとんどの人が気にすることではないが、医者からするとカロリーが低い方がいいよということであれば焼酎をすすめられたりする。そういう話を聞くと日本酒より焼酎の方がいいんだっていうイメージになってしまっているところはあります。

對中さん:そこを変えれるといいのかなと思う。 ピラミッドで考えると、頂点がイベント参加であったりとか、常時飲まれる方は固定のファン層でいるわけじゃないですか。大衆層、肉体労働者等普段から日本酒を楽しんでいた人が抜けた現状が、日本酒の消費が落ちた一番の原因だと思います。 ガサっと落ちた一番下の層を今後置き換えるというのは、日本酒を飲んだことがない層を獲得していかないと大衆層には響いていかない。消費の拡大という面では。女性向けに日本酒というイメージを健康に良いというイメージブランディングなのか、もしくはアルコール度数が高いから飲まないのであれば、例えば、日本酒を6%・7%ぐらいに落としてでも日本酒として販売できるのか、全く違う名前になってしまうのか、酒税法の関係もあると思うんですけど、それは可能なんでしょうか?

安福さん:それは可能です。新しいスタイルの日本酒を造っているところもあったりしますし、そこはまだまだいろんなことはできるかなと思います。 でも、この10年間はかなり生産量も伸びたというところで、新しいチャレンジ、新商品の開発まで、なかなか回らなかったので、新しいタイプの日本酒であったりとか、麹を使った甘酒はこれまで、できなかったことなんですよね。山田錦を使って甘酒を造っていく。甘酒は酒粕からも作れるが、アルコール度数があって敬遠されるお客様が多いんですけど、麹から作る甘酒については、健康的で美容にいいということで需要があるので、われわれもビジネスチャンスとしては、そこはありかなと思います。そうなると、かなり大きな広い範囲で販売も可能かなと思いますが、なかなか手を付けられていないんです。

對中さん:うちも毎日甘酒を作って飲んでいるが、古い麹専門店が近くにあるということもあって、そういう恩恵に預かっています。恐らく、麹、甘酒好きのファン層は結構いるのかな。美容であったり健康志向。そういった方に同じ商品を作り替えるのではなくて、うまく届ける方法。自社商品を、甘酒とか飲まれている方に健康的にも日本酒っていいよとか、甘酒の味がアルコールとして楽しめたりとか、食中酒として楽しめますみたいな、届け方の切り替えというか、そこがうまくできると、商品を作り替えなくても届けれるのかなという気はします。

久保田さん:甘酒飲まれている方が間口となって奥に奥にとなって日本酒をすすめていく。スムーズはスムーズですよね。

對中さん:アルコールというのはワイン・焼酎・日本酒いろいろあると思いますが、焼酎までいくとすごく男臭いイメージが出てきますよね。日本酒はまだちょっとライト。もちろん今、アルコールの消費量自体は落ちているが、女性はチューハイ飲んでワイン飲んでというところまでだと思うんですけど。韓国行くとマッコリ飲みたいってイメージがあると思うんですけど、マッコリは美容にいいし腸内細菌を活性化するし、良いイメージがある。日本酒も同じようにそこのジャンルに入れば男臭い飲み物から女性も飲めるアルコールに変えれるのかなと思ったんですけど。

安福さん:ここでしか飲めないものを造りたいと思っていて、甘酒も面白いですし、生の甘酒というものがあるのかわからないけれども、ここでしか飲めないものを提供したいと思っています。昔、2年前にFARM CIRCUSで地元のフルーツを使ったリキュール、生リキュールを作りたいということで研究をしたが、生なのですぐ変色してしまう。飲むには見た目が悪すぎるので断念したことがありました。今またイチゴで生リキュール、日本酒を使ったリキュールをもう一回やろうというので少し動き始めたところです。

山田さん:色は変色するんですかね。人口着色料には勝てない。難しい。

久保田さん:見ていると、そういう商品は着色料が入っている。なるべくしてなるんだなと思います。

山内さん:生といえば、にごりはありますよね。

安福さん:ありますね。どぶろくにしても甘酒にしても発酵(にごり)のジャンルは可能性があると思います。我々これまでチャレンジしていなかったので、面白いかもね。

久保田さん:キーワードはそこですよね。腸にいいではないが、そこに一つの身体にいいですよ、メリットありますよというのがあれば女性でも受け入れやすい。

對中さん:臭みの強いどぶろくと甘いどぶろくに分かれる。島根の出雲で作られているどぶろく、三重県でもどぶろく作っているところがあるんですけど、甘いんです。 ラベルも女性が買いやすいように、いわゆる日本酒の瓶ボトルではなくて、きれいな円筒形のどぶろくに入れて売られている。そっちはちょっと甘いので韓国料理に合うんです。チヂミとどぶろくとか。

久保田さん:それって甘いんですか?

對中さん:甘いです。逆に酸味が強いと食に合わせにくいかな。

久保田さん:甘酒好きな方ってアルコール飲める方じゃないですか、その延長でにごりじゃないですが、日本酒の方に持っていくというのはリーチしやすいと思います。

對中さん:食中酒ってチビチビ飲むという行為がなかなか難しいのかなと。和食ってサイズが小さいじゃないですか、具材のサイズとか。だいたい一切れサイズが多いので、一口入れると一口飲んでというのがしやすいのかな。例えば、日本酒を炭酸と割って食中酒として、常にたくさん飲み続けるものになると、おそらく大分イメージが変わる。 炭酸で割るとなると香りの強い日本酒が合うのかな。樽臭いと焼酎っぽくなるのかなとか、連想することで消費者がどういったものを求めているか頭を育てていく、それが学びに繋がるのかな。例えば、日本酒と野菜が合うとか、ファーマーズマーケットで日本酒があるならば、和食ってシンプルなものなので、例えばズッキーニ、フライパンで焼いたものを日本酒にすごく合うと思いますし、野菜と日本酒は合う。そういうものの方がより万人に認知されるのかもしれない。

今回は、日本酒の厳しい現状がある中、日本文化としての日本酒、新しいスタイルの日本酒、食とのマリアージュ、日本酒の魅力について話が尽きませんでした。まだまだいろんな可能性が秘めている日本酒。今後の動きも「種はおよぐ」で追いかけていきます。