西区の平野町にお集りいただいた3名の農家のみなさん。実はゴールデンエイジ!


鶴巻さん:今回はお集りいただきありがとうございます。私は、北区淡河町で兼業農家をしているつるまき農園の鶴巻です。今回このインタビューをしようと思ったきっかけは、去年の夏、ある女性から「農業ボランティアをしたいんですけど農家さんを紹介してくれませんか?」と問われたことです。そういえば、自分以外の農家のみなさんは、そういうことに対してどう捉えているんだろうと疑問が浮かんだのです。「助かる!」なのか「受け入れは何かと大変やからやってない!」なのか…? 今はコロナで働き方が変わったり、家で鬱屈としている方も多く、人手不足の農業と双方にとっていい繋ぎ方ができるのではないかと思ったりしています。そういうわけで今日は、話の分かってくれそうな農家の方3名をお呼びしました(笑)

農家になろうとしたきっかけ、教えてください。

※今回は便宜上、畑に来て金銭のやりとりなしで農作業を手伝うことを総称して、『援農』という言葉で表現しています。

浅川さん

浅川さん:元農園(チアファーム)の浅川です。西区の平野町で農業をしています。私は父も祖父も会社員で、私も新卒で企業に勤めていました。 えーっとね、もう10年単位くらいで年齢の足し算引き算を間違えるんですが(笑)、20年くらい働いて起業を考えていた時がありました。「好きなことをしないとやってられないやろう!」ということで、食べることが好きなこともあり農業を志すことにしました。多品種を育てていますが、この時期はホウレンソウを好んでくれる方が多いでしょうか。来月で10年選手になります。

一同:おぉぉぉぉぉぉぉ!!(羨望の眼差し)

中井さん

中井さん:n_farmstead2012の中井です。北区の大沢町で農業をしています。農家になったのは2018年。まだまだ新米です。 前職が「豊かな暮らしを提案する」というインテリアの仕事で、自分ができる豊かな暮らしって何だろうということを考えることが多く、農業が浮かびました。私も食べることが大好きです。私は春先にイチゴ、夏にブルーベリーやブラックベリーを作っているので、ベリー農家ですね。

長田さん

長田さん:ながた農園の長田です。2017年から西区神出町で農業をしています。私は20年くらい社会福祉の仕事をしていて、趣味で貸農園を10年続けているような生活スタイルでした。 仕事で先が見えてきてしまったと感じた時があって、ふと人生もったいないなぁと思うようになりました。元々一から何かを手作りするのも好きだったので、自分にとって関心の高い根本的な仕事をしようと思い、10年続けてきた畑作業が仕事になったらと思い農業を志しました。 研修では、「真夏の14時に絶対こんな作業しないやろ。」みたいな過酷な修行も乗り越え(笑)、今は多品種の野菜を育てています。

援農について、思い浮かぶことを教えてください。

鶴巻さん:ありがとうございます。それでは早速聞いていきます。援農を受け入れた経験や、そこから感じていることなどを教えてもらえますか?

浅川さん:援農を希望する方は、それなりに受け入れています。これまでも、来ては去り、来ては去りという感じで(笑)。

…………。な、何か様子がおかしいぞ…?

浅川さん:な、なんだろう。この話をしていけばいくほど、今まで私が皮を被ってきたいい人っぽいイメージがどんどん崩れていき、私の黒いところがどんどんさらけ出されていきそうで、大丈夫かな私って昨日から思っていたのですけど。

は、波動を感じる…。

浅川さん:「農家さんのために~♡」みたいな感じで言ってくる方は、たいてい、無料で収穫体験したいだけやんって思ってしまいますよね。 企業さんで援農を斡旋しているところもあって、「草刈りとかなんでもやってもらえますから!」と説明会では言うけれど、実際受け入れ段階になると「収穫とかないですか?」って企業さんの方から言われ…おいちょっと待てや!

やばい…何かが放たれる!!

浅川さん:収穫ってね、何か月もかけて育ててきたものを、最後に商品にする直前の、めっちゃ肝心な作業でね、ド素人がきて手伝おうなんてね、何考えてんねん!って!!!

一同:共感と爆笑の嵐。

浅川さん:収穫の喜びを体験したいだけでしょ。それだったら味覚狩りにちゃんとお金払って行ってこいや!!

鶴巻さん:だめだ…面白すぎる…。

浅川さん:だから、「収穫はない」って言うんです。 それでまだあるんですけど、最初に連絡がきて「それだったら今後に繋がるこういう作業がいいのかな」とか準備するわけですよ。でもね、ある作業をした方がいいなということは、今しなければならないんですよ。それをあと10日後に人が来るからと思ってあえて止めておいて…直前に「行けなくなりました~」って、おい!!悪いけど私はあなたのためにこの作業を止めたけど、植物は成長してしまいましたよって。

止まらない元子御大。

浅川さん:だからね、今日気持ちいいじゃないですか、天気もよくて、風もふいて。こんな時に、リフレッシュ代わりに草を引くとか、収穫し終わった野菜をどんどん抜いていくとか、汗かきたいって気持ちで来てくれたら嬉しいです。 エセ志はいらんのですよ、どっちもがwin-winでいたいなって。農業興味ある人とか、食べること好きだけど自分で畑までできないって人とか、仕事で煮詰まった時にリフレッシュしたいとか、そういうのはウェルカムなんですよ。

鶴巻さん:なるほどなるほど。

浅川さん:あとは、作業は本当に色んな種類があります。がっつり汗をかきたい人向けの作業もあるし、そんなのは無理だけど、隅の方でポチポチ細かい手作業しながら風に吹かれ、鳥のさえずりを聞いて…みたいなので心が洗われますって人であれば、作業はいくらでもございますって感じです。

鶴巻さん:あーそれ面白いですね。

浅川さん:だから、そういう希望ならドンドン言ってほしい。後は、車問題とか物理的に難しい面もありますね。バスも平日しか停まらなかったり(笑)

鶴巻さん:逆に、浅川さんは土日に受け入れることは抵抗ないんですか?「休みたーい♡」とか。

浅川さん:休めないですよ。

鶴巻さん:大変申し訳ありません。(は、波動が…。)

浅川さん:土曜日はマーケットに出店しているから難しいですが、日曜日は喜んでですよ。休んでいたら作業が追いつかないので。私の場合は、平日や土日という区切りより、配達日か作業日かで受け入れ可能な場所が決まりますね。

鶴巻さん:ありがとうございます。もう今日のインタビューこれにて終わりでいいですかね(笑)中井さんのお話も聞かせてください。中井さんは忙しいタイミングで上手に仲間を募っているようなイメージがあるのですが?

お土産に持ってきてくださったイチゴと原木椎茸。美味!

中井さん:実は昨日一昨日も来てもらっていました。僕の場合、基本は知っている人が来てくれています。増える場合も、友人知人のフィルターを介して来てくれている感じです。そこからだいたいの話を聞いているので「えーこの作業?」みたいなミスマッチはないですね。 人手が欲しい時は、イチゴの植え付けとか、ブルーベリーの収穫とか。今だったら新しいビニールハウスの建築とか。こちらからのリクエストすることもありますし、「この週末行けるでー!」って連絡をくれたりします。

鶴巻さん:リクエストするのと、「行けるでー」と連絡もらう割合ってどんなものですか?

中井さん:半々くらいでしょうか。長く来てくれていると、「そろそろ忙しい時期ちゃうかー?行くでー」「草刈ろうかー」みたいに言ってくれます。

鶴巻さん:理想的なコミュニティですね。すごい。

中井さん:お礼については、やっぱりお金で払えないというところと、お金を払うっていうのがちょっと違うんじゃないかと思っていて。なので、例えばイチゴを植えてもらったら、「プライベートイチゴ狩りに来てください」とか、ブルーベリーだったら収穫した量の10%持って帰ってくださいみたいな感じでやっているので、それは喜んで持って帰ってくれますね。こういう関係性はもう少し増やしていけてもいいかなと考えています。

鶴巻さん:そういうアクティブな援農をしてくれる人たちは何人くらいいるのですか?

中井さん:同級生で二家族、妹や知り合った農業好きの女の子、娘の同級生のお母さんとそのまたお母さん(笑)みたいなところの方が比較的よく足を運んでくれます。

鶴巻さん:収穫時期など忙しいときって、助けてほしいけど連絡取り合うのも億劫だったり時間がなかったりしませんか?

中井さん:だいたいそれぞれの行ける曜日が分かってくるので、こちらで仕事の段取りを変えたりしています。同級生の場合朝から夕方まで来てくれるので、お昼はこちらで一品用意したりなど。ブルーベリーの収穫なんかは「暑いから朝6時に行くわー」みたいな人もいます(笑)。そして8時に帰るみたいな。

鶴巻さん:援農の人が6時に来るとは…すごい…。

浅川さん:それ素敵。

中井さん:数時間だけとか、朝から晩までとか、それは来てくれる人自身に決めてもらうにして、こちらはそれをうまく組み合わせながら助けてもらっています。 あと「なるほどなー」って思ったのは、街に住んでいると焚火とかできないじゃないですか。ある人はいつもサツマイモを持ってきて、援農の最中、隅の方で焚火しながら焼き芋を作るんですよ。それをみんなに配って。おそらく彼は彼なりに、こっちに来たらできる楽しみみたいなものを見出しているんだろうなと。

鶴巻さん:では中井さんに最後一つ。例えば今後援農募集!みたいなサイトができたときに、全く見ず知らずの人が問い合わせてくるようになった場合、どうですか?

中井さん:やってみてという感じですね。やってみないと分からないので。そういう志があれば一度来てやってもらって。でも人間と人間なので、合う合わないは当然あると思いますし、合うならそういう人に出会えたということで嬉しいですよね。

鶴巻さん:ありがとうございました。では長田さんにお聞きします。先日お会いした新規就農の方が「孤独がつらい」と言っていたのですが、そのあたりも含め人に来てもらうことの感触を教えてもらえますか?

長田さん:私は孤独でどうとか思わないですね。

鶴巻さん:あはは~。(会話終わってもうた…)

長田さん:もちろん作業は溢れるほどあるし、何年やっても変わらないと思います。私は有機JASを取ったんですけど、そうするともうずっと草(雑草)のことばかり考えているといいますか。なので草刈りとかで来てくれたらすごく嬉しいですね。 ただ、今の段階で、どんな人が来るのか分からない状態で、ぴったりの作業を用意する手間というか気を揉むのが一番負担なんだろうなぁと思います。「次何したらいい?」「これどうしたらいい?」と細かく聞いてくる人だと、私の手が止まってしまうので。 気を遣うというのが大変です。知っている人ですら、「寒くないかな?」「トイレ我慢してないかな?」とか心配してしまいます。 援農の仕組みも、就農するときは活用してくださいって言われましたが、「誰が使ってるんやろうこのシステム、進んでないな」みたいなことも感じました。実はすごく難しいことなんじゃないかって。

鶴巻さん:いやホント、その通りですね。

長田さん:最終的には人の相性なので、合うと分かれば色んなことを頼めたり、その人が満足いくように調整できたりするのでしょうけど、やっぱり会ってみないと。誰でも来てっていう新規就農者は少ないんじゃないかと。私自身もまだまだ作業の見立てが甘いので、こちらの受け入れ態勢の問題もあると思います。 種まきとかも簡単そうだけど、失敗した時のリスクは大きいので、何を頼むかというのもまだまだ判断が難しいです。会ってみて、しんどかったらどうやって断ろうみたいなことも気になってしまいます。

中井さん:分かります。

鶴巻さん:この「断れるシステム」って大事だなと思っていて、海外の泊まり込みの援農なんかは、1週間2週間で一度話し合いの場を持ち、「しんどくないか?」みたいな確認作業をお互いするみたいです。西欧的ですが。

浅川さん:そうですよね、確認しましょうって仕組みがあったとしても、心情的には難しいですよね。人格を否定されたみたいに思われてしまうと申し訳ないですし。だから大層な志の人は困っちゃうというのにも繋がるのかな。

援農が相互理解を経て広がっていくためには?

鶴巻さん:まさに先ほど長田さんが言っていた「援農とか農業ボランティアの難しさ」というキーワードがあったのですが、その難しさをかみ砕いて分解してみたいと思います。浅川さんいかがでしょうか?

浅川さん:私ね、休日に知り合いがSNSで山に登っただマラソンしただの投稿しているわけですよ。そんな汗かきたいんやったらうち来いや!と思っちゃうんですよ。

鶴巻さん:その感覚めちゃくちゃ分かります!

浅川さん:でもね、援農にはもしかしたら楽しみが紐づいてないのかなと思って。例えば援農して、帰りに気持ちよく温泉に入って、晩御飯でちょっと美味しいもの食べて、「あーすっきりしたーまた来週もがんばろう!」みたいな感じで仕事に戻っていけるのっていいなと。週末にゴルフの練習場に行くのもいいけど、みんなが喜ぶことをして汗をかいたらいいじゃないかって思うのです。

鶴巻さん:そうなんです。僕も「生産性のある無料のジム」なんだと提唱できないかなと。

浅川さん:ただ私の畑の近所には、いい風呂が…ない!

鶴巻さん:いつもオチつけてくださいますね。

中井さん:そういえば、この間来た同級生も、帰り風呂入って帰るって言ってましたね。

鶴巻さん:なるほど。その人にとってはそこまでがパッケージなんですね。

中井さん:思い返せば、ここに来る人は結構多くの人が「風呂入って帰る」って言ってますね。

鶴巻さん:半日とか、1日とか、農作業と風呂を1パックとして「こういう日にしちゃおう」って思ってる人がいるんですね。

中井さん:あとは数時間だけって人もいますし、毎週でもないですし。

鶴巻さん:そういう多様性がいいですよね。とはいえ、それを実現するために、例えばネット上で各農家の受け入れ可能なところがカレンダーで更新されているとか、やっぱ面倒くさいですよね。何かいい方法ありますか?

浅川さん:でも、出荷の曜日とか、マーケット出店曜日とかはほぼ決まっているので、受け入れられる曜日とか時間は結構固定です。それを諸情報として書いてしまえばいいかも。季節によってあまりにイレギュラーな時は受け入れ停止しておこうとか。それくらいができたらいいのでは。

鶴巻さん:我々が考える「援農(農業ボランティア)とは何か」というのがきちんと明示されているのがいいですよね。それが書かれていれば「収穫できるんですよね?」といったようなミスマッチを防げるのではないかと。

浅川さん:あとは、やっぱり自分で楽しみを見つけられる人。「いい風が吹いてるねー」とか「バッタいる!」みたいな。自分から楽しみを感じることのできる人だと、畑ってすごく魅力的な場所になると思います。この場所だけに過度な期待をするのではなく、トータルで人生を楽しむために、その中の一部として私の農園をうまく活用してくれたら嬉しいなと。

中井さん:援農したい人の気持ちも色々なので、農家の受け皿もたくさんあるといいですよね。

鶴巻さん:まさに!

中井さん:コロナ疲れでリフレッシュしたいと来てくれ、イチゴの苗周りの草引きをがんばってくださり、すっきりしたと言ってくれた人もいました。人それぞれなんだなぁというのは念頭に置いておきたいですよね。がっつり戦力になるかといったらそれはまた別の話ですしね。

鶴巻さん:浅川さんが言っていた、しっかり汗かきたいのか、じっと座って手作業をしたいのかといったニーズも、先に把握しておけるといいですよね。

浅川さん:農業を勉強したいってニーズももちろんありますしね。後は、私のような10年選手くらいのところで援農を続けてきた人が、新規就農した方の援農にも行くみたいな形があってもいいなと思います。一から教えていくハードルはやっぱり新規就農の方にとっては高いと思うので。

長田さん:それはいいですね。私はやっぱり、自己完結できる人というのが重要かもしれません。目的も、準備も、身の回りのことも。行った先に依存しすぎないといいますか。最低限でいいので、心構えなどが先にサイトなどで明示されているといいのではないでしょうか。

鶴巻さん:僕が理想だなって思うのは、それぞれの農園で援農コミュニティがあって、例えばどこかの農園で台風などで大きな被害が出たときに、各地で鍛えられた手練れの援農レンジャーが集結して救いにいくみたい世界が生まれたらいいなって。 そうなるためには、育てるのも大変ですけど、繋がる入り口も整備していかないとって気持ちがあって。僕ですら、どの農家さんが受け入れにポジティブかどうかって全然分かりません。それはもったいないって。

浅川さん:今はニーズが多いですよね、きっと。在宅勤務が逆にストレスになっているというケースもよく耳にします。新規就農者も孤独かもしれないけど、テレワークをしている独身の若い人たちの孤独感もきっとあるんだろうなって。

鶴巻さん:そう思います。働き方が変わってきたので、朝から家で仕事して、14時にパソコン閉じて畑に向かい、15時から日が暮れるまで汗を流す。そんな日が半月に1回でも月に1回でもあったらいいなと。 今回は興味深い話を聞かせていただきありがとうございました!

農家さん同士が自然と情報交換している瞬間が好きです。