芦田賢太郎さん
書き手:fresco fresco 丸山倫寛
神戸市西区を中心に農業を営んでいる芦田賢太郎さん(35歳)。コーンや白菜をたくさんつくりどんどん出荷していく姿をよく見かけますが、実際にどんな思いでどのような農業スタイルなのか、直接お話しをうかがうまではわかりませんでした。
今年2月に閉園した西区神出町のレストラン「かんでかんで」のあとにできた『FiveCountryCafe(ファイブカントリーカフェ)』。その経営も担っている芦田さん。明快で力強い語り口は、場にいるわたしたちを感心させ、納得させ、驚かせます。つまり魅了させるということで、この記事をつくるにあたって書き手のわたしもなんとかこれを読んでくれるみなさまに芦田さんの魅力を伝えたい、これからの芦田さんの足跡を追ってほしい、楽しみにしてほしい、とそんな思いでいっぱいになってしまいました。
うまく伝わりますかどうか、ともかく芦田劇場の開演です。話す舞台は『FiveCountryCafe』、雨の八月お話し日和。
※年齢、畑などの数字、状況は2021年8月現在のものです。
●まずは芦田さんに対する予備知識をご一緒に
屋 号: | 芦田農園 大学時代の同期の方を雇用し、ふたりで運営 季節に応じパートも雇う |
主要作物: | 白菜・キャベツ・コーン・苺など |
畑の場所: | 神戸市西区神出町が軸で、となりの稲美町の畑も1.5ha借りている |
規 模: | 露地が7.8ha、ハウスが15aほど (楽農生活センターのハウス等も管理しており、ここでは約60a、しいたけや苺を栽培) |
主な出荷先: | 神果、契約スーパー、カット野菜加工の店など |
農業をはじめて7年目になります。出荷先は個人ではなく、スーパーとか仲買人です。直売所にも卸しています。夏以外は週に1~2日は休日を設けています。といいながらも事務仕事や打合せなどにあてますが。夏場も午前に活動して昼寝してまた午後、というかたちはできなくて、夜更けや早朝に現地に行って動いて昼までに引き上げる、というパターンですね。
中学校2年のときにテレビでメロンのせり風景を見て、そのときから農業に就こうと決めました。自分の食べ物をつくるというくらいのイメージはもっていたんだけど、農業ってちゃんとビジネスになるんだ、仕事としてできるんだ、と思えた瞬間でした。翌日学校で先生にいうと、ただただ驚いていました。
高校ではひとまず野球をえらび、あらためて大学で東京農大にいきました。キャンバスはオホーツク沿岸です。原材料となる野菜(てんさい、玉ねぎなど)を栽培し、座学では土壌や経営などを学びました。農業についてあれこれ考えることができた良いときでした。
卒業後、沖縄の農場に行きました。そのときに出会ったタバコ農家さんは尊敬する農家さんのひとりです。それから神戸にもどり西区の農園で働いて、そろそろ独立しようかなと思ってた矢先にバイク事故で大けがをしてしまったんです。腕の動きもままならぬ中、医者からも養生せよといわれたりで、とりあえずたこ焼き屋をはじめます。ここで飲食に携わる方々と知り合い、ひととの出会いの有益さ、おもしろさを知りました。3年ほどやっててお店も移転か拡張かで悩んでたころ、やっぱり農業やりたいなと思い直したんです。腕もなんやかや、ふつうに動作してましたし。それが26から27歳くらいでした。
で、大学時代の同期のつてを頼って関東へいきました。制度もあまりない時代、研修して学んでいるうちに、農業するなら農地がいる、取得するためには信用がいると教わり、農地取得のためにも帰神することにしました。楽農生活センターで1年間、学ぶためです。
農地を得るために通った楽農生活センターでは、しっかりと農業をやっているひと、きっちり農業経営を考えて実践しているひとたちと知り合えたことがプラスでした。そのひとの知り合いにも出会えるわけで、これはおおきなことです。
農業でやっていけるかな、これでご飯たべていけるかなぁというとこまでには3年かかりました。ぼくは露地中心でやっていきたいんで、ゆくゆくは規模としては野菜100haめざしています。そのためにも準備はたいせつで、事業計画もつねに練っています。パートで雇用しているひとが伸びてきているので、いつかそういうひとに任せられるとこまできているなと実感してます。
正規雇用も今後考えていて、県農や農業大学校からとっていきたいですね。研修生というかたちではとったことないんですよ。いままでのぼく自身の経験から、不当に搾取されているひとたちをたくさん見てきた中で、きちんと労働対価として評価したいと思っているんです。並行して法人化も検討しています。
そういう意味でも、現金をどうつくっていくかがポイントだなといつも感じてます。農業生産の収入としては、たとえばコーンは全量契約しているので計算はたちます。白菜は、ひとまず最低限の契約はとってありますが、市場出荷が中心なので天候や他の産地などとの兼ね合いもあって値段は毎年、毎期、上下する。そのある種ばくち的な要素もおもしろいんですよ。
レストラン(FiveCountryCafe)は、この周辺でコーンをつくりたくて、とうもろこし狩りを体験してもらいたくてどこかいい農地がないかなと思っていたところに話が来たんです。農地はこれからも基本は神出町を起点に求めていきたいですね。どこかの集落に住んでいるわけではなくて、いわゆる通いの農業スタイルなんですが、どこの集落に入るかは大事な点ですね。ぼく自身も非農家なので、代々農業をしているひとや地域の大変さはわかっていないこともあるでしょう。集落、地域というのは単純にビジネスとして成立できないこともあるだろうし、しんどいことや、やりきれないこともあるかと思うんです。だから、ほんとうは通い農業がおすすめでもあるのですが、集落にいるメリットもまたあると思います。よくもわるくもひとつのことが、ある一面だけでははかれないんでしょうね。
新規就農に際しては、自分がどういう農業をするのかというところは当初から具体的に持っていました。ずっと現場に出ていたからかもしれませんが、どこまで現場をわかっているか、理解できているかが重要だと思います。頭の中で描いているだけではだめで、それだけだと必ずズレ、ギャップはあると思うんです。
「なにをつくるか」というより「どう売りたいのか」を念頭に置いたほうがいいのかなと思います。それがぼくからの、これから農業をしようかなというひとや考えているひとたちにできるアドヴァイスですね。メーカーみたいな感じで、そんなイメージで農業をやればいいのかも。かつては人口の8割くらいのひとが農業をやっていた国。時代も変わったいま、そういうイメージを持てばどうでしょうか。あ、あとJAとのつきあいもたいせつですよ。
まとめ
話すときはじっと相手の目をみてる。でてくる言葉群はこちらに向かって行進してくるかのようにテンポも小気味いい。日ごろからしっかりじっくり考えているからだ、というのが容易にうかがえます。質問に対してもしっかり言葉が返ってきます。背骨のあるおとこ。ちからづよいなあ、と芦田さんをみてそう思わずにいられません。どこか宙をながめてつぶやくように話す思索型の詩人のようなひとではなく(そういうタイプもすきですが)、まっすぐしゃべるさまは迫力すら感じさせます。それでいて威圧的でもなく勢いだけでもないと思わせるのは、ご本人のおちついた所作もさることながら、備わった礼儀正しさもあるのでしょうか。学生時代に熱中していた野球で学んだのは勝ち負けひとつのことだけではない、戦略や準備などもふくめた総合的なゲームという観点と、人とともにやっていくという協調性もあるからでしょう。芦田さんの人間好きがいまの本人を形成していて、今後もそれがひろがっていく。これからもたのしみがつきません。
話をしながら、こういうひとがいるからおもしろいな、神戸の、ひいては兵庫の農業もすごいぞ、とかってにわくわくほくそえんでました。でも本人からすればそんなことどうでもよく、そんなせまいことはつまらないのかもしれませんね。ただの夢見がちなおとこではなく、実現させていく力。出会えてよかったです。
『FiveCountryCafe(ファイブカントリーカフェ)』は芦田さんの野菜はもとより、芦田さんのメガネにかなった農家さんの野菜が使用されています。テーブルにはそんな農家さんのプロフィールもあり、読み物としてもたのしめます。店内の装飾ともあいまってこんなやすらぐ空間でゆっくり食事をとれるというのは、いいですね。こころのやすらぎになります。
「芦田さんの農業スタイル」は、皆が皆なかなか真似ができないかもしれません。しかし参考にはなるはずで、このインタヴューの中にも農業経営に対する芦田流の極意、コツなどは随所にでていました。それがこれを読むみなさまに伝われば幸いですし、なんとか届けたい。そうでなければ、書き手のわたしの技量不足です。とまれ、芦田さんの思いをわたしなりにみなさまに翻訳するとすれば「ヴィジョンをもとう、売り先を考えよう、そしてあとは進もう」というところでしょうか。その3つをいかにこの文章に織り込められるか意識してきました。
最後に、芦田さんにこんな質問をしました。生まれ変わったら、また農家になりますか。
「やります。好きだから」
書き手:fresco fresco 丸山倫寛