二回目となる今回のゲストは、岡山県西粟倉村で「持続型社会」という新しいオペレーションシステムにローカルレベルから更新していくことを掲げている株式会社sonraku 代表取締役 井筒耕平(いづつこうへい) さん。

神戸市が目指す食と里のネットワーク作りについて、里山資源の「しごと」という観点から、井筒さんが実際に行なわれている西粟倉村と豊島での活動をはじめとした事例をもとにお話くださいました。

社会はローカルでしか変えられない

「じゃ、井筒です。みなさんこんにちはー よろしくお願いしまーす」

にこやかに、そして軽快に自己紹介からスタートした井筒さん。
出身地である愛知県から、12年ほど西粟倉をはじめ岡山東部で暮らし、現在は神戸市灘区に居を構え、西粟倉と豊島を行き来されています。

「株式会社sonraku という会社をしています。
宿業を西粟倉村と香川県の豊島で、温泉に薪をくべて熱を供給するバイオマスの事業を西粟倉村でしています。
20人ほどのチームでオペレーションをまわして、僕ともうひとりが自治体に行ってコンサルティングの仕事や調査をしています。
専門はバイオマスです。サラリーマン時代はボイラーの前にずっと居る仕事をしてきました」

バイオマス、宿屋、コンサル、アートディレクション、渡辺智史監督作品「おだやかな革命」への出演や、瀬戸内国際芸術祭で公園をつくる作品も発表。「何者なんだろう?ってなりますが共通しているのはローカルです」と井筒さん。
また「社会はローカルでしか変えられない」「ローカルから横断的にいろんなことをやっています」と独自の視点でお話しされます。

自分たちでつくって売るということ

「経済成長してきた昭和30年以降、地方は年金交付金で支えられ、西粟倉の税収1億4千万に対して支出は23億円ぐらい。
日本中そういう地方がほとんどです。でも今は、国からの交付金が減らされ、 農山村、自分たちで何とかしてねというのが地方創生のあり方。
じゃ、どうしたらいいのか。答えはシンプルです。
自分たちでちゃんと事業して、全部つくって売るってことです。
交付金、補助金、年金ではなく、ちゃんとした民間の資金で」

学生の頃から何故農山村が頑張らないといけないのかを考えていたという井筒さん。資金調達を国に頼り続けるのではなく、自分たちで作ることを考える。それは「田舎の人たちが昔からしていた自らの力で稼ぐこと」それが存在価値となる。「西粟倉村の人たちはそれができていると思います」と自立性の高さと地方での生き方を話されます。

ここの人たちがやばいんです!

岡山県の北東に位置する西粟倉村は、兵庫県・鳥取県と県境を接し、95%が森林で人口は1,500人ほどです。
井筒さんの他に様々なベンチャー企業が参入し、西粟倉村を拠点に活動しています。
それに伴って子どもの数も増え地元の方も喜んでいるそう。
井筒さんも驚く活躍を見せるのが、民間企業をサポートする西粟倉村役場の職員だとか。
住民、行政、移住者がフラットでいられるのも行政の働きかけによるものと話されます。

「ここの人たちがやばいです。素晴らしいです。凄すぎます。はっきり言ってベンチャーですこの役場は。スピード感と社会課題の意識が高い。移住者へのサポートも厚く、新しいことをすれば褒めてくれるから、やる気が出てくるんですよ。」

“西粟倉・森の学校”の代表取締役の牧大介さんが名付けた「ローカルベンチャー」。
地域に必要なビジネスを起こし、地域経済を盛り上げていくプレーヤーたちをこう呼んでいる。 名前の通り西粟倉では若い世代の新規事業が展開されています。起業数は13年で33社。

こだわらない・結果を出す

「村人は1,500人なので、どの企業もターゲットは村の外にあります。
重要なのが、こだわらないということ。
地域資源を使うことや、合意形成、定住にこだわらず、結果を出せというのがこの村の考え方です。
実際にビジネスって地域資源にこだわるとしんどくなるんです。
事業として結果を出すため、時には密室でやるべき人と仕事をしたり…
定住しなくてもいい、個人として残らなくても、プロジェクトとして残ればいい。」

かなり割り切った考え。でもとてもシンプル。ある意味理想的かもしれません。起業する会社が多いのも納得です。 例えば油が好きで菜種油を絞る人、地域に酒蔵はないがお酒が好きで出張日本酒バーをする人、鰻の養殖をする人、東京と2拠点で活動する人、みなさんの共通店は「ここでなくても出来る人」です。
強い縛りを設けないことで、民間企業が毎年様々なプロジェクトにトライアンドエラーを繰りかえしては常に動いている。33社中2割が地元の人の起業だそう。

「起業の増加に伴って、子どもの数、特に小学生は増えているんです。 移住者が20-30代ということもあり、1学年で毎年15人くらい生まれています。 住民さんもこれに関してはいいねえ!とおっしゃられています。」

他の地域との比較 神山町と東川町を例に

「地方創生の先進地、徳島県神山町はNPO法人グリーンバレーの動きからITベンチャーが16社、それに伴ってサービス業も増えている。農業林業を最初からするのは難しく、神山町も西粟倉も、主な産業があって、サービス業があって、本当にやるべき農業、林業、道の駅をなんかしようという順番での動きがあります。」

西粟倉と神山町の違いとして、西粟倉は行政が力をいれていることに対し、神山町はそうではなかったと言います。 まずはじめに民間グリーンバレーが仕掛け人となり、行政が後からバックアップする形に。 「必ずしも最初から行政が一緒になって動く必要はないが、結果として行政のサポートは必要不可欠」とのこと。

もうひとつ、地方創生で忘れてはいけないのが北海道東川町。人口8,000人の小さな田舎町にも関わらず、お洒落な飲食店などが多く、1年間に多くの観光客が訪れる。東川町は2008年に約25店舗だった飲食店は、10年間で約60店舗にまで増加。東川小学校は彫刻家の作品が展示され、芝生のグラウンドや野球場、サッカー場があり約38億円もの予算をかけて新築。この小学校に行かせたい親が北海道全土から移住しているそうです。それでも「廃校寸前の3つの小学校もちゃんと残しているのがすごいです」と話されるように地域への投資も行い、住民が増え既存の小学校も残すことにつながったことも強調します。10年間で92社の企業が参入して、補助金や地域起こし協力隊の動きも一つの流れに。“ひがしかわ株主制度”など職員にも経営力があり東川町はめっちゃ稼いでます」と興奮気味に話されます。

「僕はエネルギーの専門家の視点で、うちの村のエネルギーすべてを作れるかなと計算。
水力発電、太陽光発電、バイオマス熱供給をしているところがたくさんあるが意外にいけてない。電気は28%、熱は15%。交通は0%で今後めちゃくちゃチャンスがあると考えています。」

エネルギーを柱に起業 地域内資源を地域で消費

「さて、会社の話をします。社長という手段で3つの事業をしています。

  • バイオマス事業
  • 宿泊、民宿、お風呂事業
  • 企画、コンサル事業

インフラの仕事は収支が厳しくて、コストもかかり、見えにくいですけど、新しい社会を作る上で大事です。 地域にも認められます。これをしないと僕は納得いかないのです。

売り上げが低いけど一番やりたい事業はバイオマス。村の3つの温泉を沸かすボイラーに今まで灯油を使用していて、灯油から村の薪に変えることで費用が少し安くなる。そして100%この村にお金を落とすことにもなります。 林業支援にもなりますし。ただリスクも多くなかなか厳しいです。そして安くて便利な灯油との価格勝負になる。
それでも木を原料に地域熱供給を村内で始めました。」

もともと宿業をする気はなかった井筒さん。ただ事業の中で「一番売り上げが良いのは宿業です」と話されます。
最初、空き家だった公共施設を役場の職員から使って欲しいとの声かけがあったそう。 「温泉、民宿に来てもらって、ボイラー、バイオマスを知るきっかけになれば」と、あわくら温泉元湯の運営に踏み切った。
「普通の宿をするのはつまらないので、子ども大歓迎の宿にしました」「起業をする人がここでイベントをしたり、デイサービスの方も利用してくれてます」と話されます。更にもう一軒、香川県豊島の元乳児院跡地のmammaは、「あわくら温泉 元湯」の設計をしてくれた建築家 安部良さんの繋がりで運営することに。想いの詰まった建物を活かそうと島民の間で活用方法が話し合われ、銭湯つきのゲストハウスとして生まれ変わりました。

これからの西粟倉、これからのsonraku

「人口流動の課題を役場も移住者を囲いこんで、定住させようとは思ってない。 子どもはどんどん外に出ろ!と思っています。行政と地元住民が一緒になって前に進むことが大事。

名目労働生産性からみると低い、農林水産と宿泊飲食サービス業、 sonrakuの仕事はこれですけど、事実を知った上で経営力をいかに 高められるか。民間企業こそ大事で労働生産性をどう上げるか。 田舎には民間でディレクションのできる人、マネージャーがいないことが問題なんです。

民間企業ほど頑張らないと。そう思いますね!

ありがとうございました。

井筒さんのお話は、里山の資源からいかに仕事やお金を生み出すかというシンプルな考えでした。それがいかに地域社会に貢献する仕組みになるかを問われていました。2008年から村で始まった「百年の森林(もり)構想」
個人所有では維持しにくい面のある森林を、私有林が7割近くを占めていたという現状から、その手間を村が肩代わりするようにした。村が間伐などの管理を行うかわり、森から出た間伐材は村内で製品化に使用し、売れた木材の収益は村と山主が折半するという仕組み。これにより樹齢100年の木も管理できる仕組みになっている。森を育て、木を商品に。さまざまな循環を生み出し生活を支えるインフラとしても活用されまさに「森は宝」である。
井筒さんのプロジェクトは、この「百年の森林構想」がベースとなり、ローカルベンチャーと呼ばれる人々もまた、この地で生まれたタネをいかに育てるかということを話されていたように思う。
場所を選ばないはずのローカルベンチャーが結果として、西粟倉だから成長できる仕事に変わっていることに「おもしろい人が増えると地域がおもしろくなる」ということを証明し、人を呼び、結果として“ここでしかできないローカルベンチャー”として成長しているからこそ、新しい仕組みや考えなどが生まれ続けていくのだ。