シェアとエシカル。似ているようで似ていない夫婦が取り組む「家を開く」とは!?


神戸市北区箕谷エリア。市街地と農村部の境目であり、畑もアパートも入り混じる時代の変化を感じる場所。そんなエリアの赴きある民家に移り住んだ夫婦。
一平さん、和美さんに共通する目標は「事業がしたい」。そんな2人の「やりたい!」が溢れる家に人が集まってきています。

大移動を繰り返した20代

鶴巻さん・岩本さん:今日はよろしくお願いします。まずそれぞれのこれまでのキャリアなどを教えてもらえますか?

一平さん:僕は神戸の灘区出身です。教育大学を卒業してすぐに、青年海外協力隊としてフィジーに赴任しました。妻の和美さんとはその時に出会いました。日本に帰ってきて宮城県で農業に携わり、その後、和美さんが北海道で働くということでついていき、ご縁があって自分自身はまちづくり系の会社で働いたりしていました。2019年、子どもができたタイミングで神戸に帰ってきて小学校の教員をして、今に至ります。

一平さん

鶴巻さん:仕事が七変化ですな(笑)

和美さん:私は大学卒業後にエネルギー商社に入り、その後協力隊としてフィジーに。私はゴミの削減や環境問題に興味があるので、北海道のリサイクルもしている産業廃棄物の会社で働いたりしながら、こうして今一緒にいます。

和美さん

一平さん:お互い事業をすることに興味がありました。自分で何かをしたい。僕は教育・農業・食がキーワードで、子育て環境も模索していました。

鶴巻さん:そんな時に、神戸農村スタートアッププログラムの説明会に来てみたと。

一平さん:その日に子どもが生まれたんですけど行ってしまいました(笑)農村部で何か始めてみたいという気持ちがありました。僕はフィジーの「ケレケレ」という言葉が好きで、「分け合うこと、共有すること」という意味を持っています。日本でも、シェアする文化を作れないかということで、2019年にプログラムに参加しながらビジネスアイデアを考えていきました。

岩本さん:そこからすぐ起業したのですか?

一平さん:いえ、その後は一旦教員になりました。その後、参加者のネットワークからこの家を借りることができるようになり、それが踏み出してみようと思った一番のきっかけです。2020年の11月から住み始め、本格的に覚悟決めてやってみようということで、今年の3月で教員を辞め、今に至ります。

目の前に広がるちょうどよいサイズの畑

フィジーで学んだ緩やかな感覚と、ゴミの削減へのほとばしる血潮。

岩本さん:具体的に、今はどんなことをされているんですか?

一平さん:「住み開き」をテーマにしています。自分たちが住んでいる家を、他の人に開いていくという意味合いです。例えば土日は何組かの家族連れが来てくれたりしながら、お互いで子どもの面倒を見たり、目の前の畑をしている人が休憩しに寄ったりしてくれます。小さなマーケットやイベントをしたり、ある画家さんと一緒に預かり保育付き絵画教室をしたり。できそうなことや声をかけてもらったことはひとまず形にしてみようってことで取り組んでいます。

若手の画家さんが部屋の一角をアトリエとして利用されています

和美さん:もう少しお金がついてきてくれたらいいなという気持ちもありますが、色んな人が関わってくれて、毎日幸せです。

一平さん:収入を増やすことも大事なのですが、支出や固定費をどう減らすか。シェアハウスの許可が取れたので、何人かで一緒に住めば、固定費もお互いどんどん減っていく。そういうことがやりたいですね。あとは子育てにも色んな人が関わってほしいです。

鶴巻さん:それはどこかにヒントがあったのですか?

一平さん:フィジーでは、建物も、食べ物もみんなで共有します。その感覚が自分の中にずっと残っていて。それが幸せなのかなと。

和美さん:私はあんまり興味なかったけど(笑)

岩本さん:あ、そこ興味なかったんですね。面白い。

和美さん:はい、最初は。私はとにかくゴミを減らすことや環境問題に関心があるので。シェアとか別にって(笑)。

鶴巻さん:目の前の薪ストーブ並に熱いものを感じる。

きっとこのストーブより熱い

和美さん:でもやってみて人の温かさを感じていますし、これも環境に負荷をかけない一つの手段なのかなって。今は楽しいです。

岩本さん:これまでやってきた「住み開き」で、印象に残ったエピソードはありますか?

和美さん:私たち、これまで結婚式をしていなかったので、先月(2021年10月)に、結婚パーティーをこの家でしました。フィジーは全然知らない人の結婚式にも行けるみたいな感じだったので、結婚式も開いてしまえということで。結果、呼んでないはずの色んな人がきました(笑)

カオス状態の住み開き婚。 ※一平さん提供

一平さん:不登校の子が通ってきてくれたりもしています。色んな人が出入りしているような距離感が精神的に楽みたいです。今後は教育的なこともやっていきたいですね。

鶴巻さん:実際に今は家はシェアしているんですか?

一平さん:今は僕たち家族の他に2人が住んでくれていて、また一人増える予定です(2021年11月現在)。普通に住んでいる人もいれば、1か月くらいの人まで様々です。田舎ホームステイというプラットフォームで募集したり、友達の友達が利用してくれたり。繋がっていくなぁと感じています。

自分たちの手で少しずつリフォームをして受け入れ態勢を整えています

さらなる「ケレケレ」とは?

岩本さん:今後やっていきたいことはありますか?

一平さん:今は離れを改装していて、ひとまずそこが活用できればいいなと思っているのですが、まだアイデアがぼんやりとしています。あとはシェアハウスが埋まればありがたいです。募集中!

鶴巻さん:しっかり書いておきます!

和美さん:ゆくゆくはこういうコンセプトの場所を全国各地に作ってみたいという思いもあります。

一平さん:教育的なところでいくと、例えばフリースクールとかだと、学校に行っていない子どもだけが対象になってしまうので、年代も背景も多様な人が集まる空間を作りたいと考えています。

和美さん:環境問題で行くと、環境負荷の少ない有機栽培の農家さんを応援したいです。ここでマーケットをしている時もそういった野菜を作っている農家さんと繋がったりしているので、実は参加者の方に伝えられていることは多いのかもしれません。あとはシェアハウスで共有している調味料も、自分たちが思うよいものを用意しています。暮らしに落としすぎてインパクトが弱いので、もう少し大きいこともやりたいなという気持ちもあります。

鶴巻さん:深いところまで聞くと、見ている目線が違うのが面白いですよね。

一平さん:今後、どういう方向性で住み開きをするのかよく話し合っています。最初は子育てを一緒にできたらと思っていましたが、その層や概念からお金を生み出すのは難しいですね。シェアハウスも家族連れは住みにくいですし。

岩本さん:コミュニティ形成と事業性は切り離して考えないといけないかもしれないですね。

岩本さん:でも、今やっていることって、そのままいくのがいいのではないかと思いました。来る人数を増やして回転率上げるとかになると荒れるといいますか。最近、「books+kotobanoie」という、自分の家で週に1回ほど開いている本屋さんに行きまして。そこにある本を選んで買えるし、リビングで本も読めるような場所です。そういう場所の良さって、そこに行けば自分が出会いたい本があるのではないかという期待感といいますか。今ここは、2人に会えるというのが来る理由だと思いますが、もう少しコンテンツになっていてもよいのかも。例えば和美さんのエシカル消費の世界観を表現できているショップなど。人だけでなく、その場所を目指して来る動機を作ってもいいのかもしれないです。

鶴巻さん:離れを改装したら、本棚を色んな人に貸し出す本屋なども面白いかもしれませんね。シェアとか一緒にというコンセプトにも近いと思いますし。

この場所をどうしましょうか。

岩本さん:もしそういう商店みたいなものをするとしても、営業日は絞っていいと思います。そこをめがけて来てくれると思うので。

鶴巻さん:何をやっているか分からない、色んなものを包み込む今の雰囲気もよいけれど、2人の想いが形になって見える場所が小さくあってもいいですね。最後に、今後ケレケレとの関わりしろを教えてもらってもよいですか?

和美さん:シェアハウスに住んでほしいというのはもちろん、小さな畑もあるので農に関わりたい人や、ここで何かイベントをやってみたい人、週末一緒に子育てしたい人など色んな人の受け皿はあると思うので、まずは気軽に連絡してもらえたら嬉しいですね。

一平さん:外壁に漆喰塗らないと。

鶴巻さん:壮大やな。

岩本さん:白地がきついので色味は再検討してください(笑)