茅葺きに惚れ込んだある一人の男が、東京から覚悟を決めて神戸にやってきた!


神戸市には、700棟以上の茅葺きが現存していると言われています。しかし、その維持や活用には様々な課題が潜み、減りゆく一方でもあります。
そんな茅葺きに惚れ込んだ一人の男、大橋秀平さんが、茅葺きの活用を目指す団体を立ち上げた!

大都市東京のど真ん中でPRプランナー

岩本さん:今日はよろしくお願いします。

鶴巻さん:一人連行してきました。じゃ、進行よろしく!

林さん:1時間前に「来い!」って言われたんですが…。この近くで「ケレケレ」という拠点を運営している林です。まずは大橋さんの自己紹介をお願いできますか?

大橋さん:1989年生まれ、栃木県出身です。大学から東京に来て、社会人生活のほとんどを東京で過ごしていました。仕事は、PRの仕事をしています。会社やサービスのことをメディアに取り上げてもらい、世の中に広げていく仕事です。2019年に神戸市役所の広報課に転職し、毎週東京から行ったり来たりしていました。2021年の春に任期が終わり、独立しました。

孤独と向き合う厳しい修行に励まれているのですか…?

林さん:都会の匂いがプンプンですね。神戸市の広報課に民間人として入って、何をしていたのですか?

大橋さん:当時、神戸市広報課のミッションは「人口流出を防ぐためのPR」でした。神戸市でやっていることや魅力を、マスコミなどを通じて広く伝えるための戦略を練って実行していました。その中に、神戸の里山のことや茅葺きのことも含まれていたと思いますが、それが神戸市の魅力の武器になるとは全く思っておらず、ピンときていなかった気がします。神戸の北の方は、六甲山と有馬温泉、あとは神戸三田プレミアムアウトレットくらいかなみたいな(笑)

鶴巻さん:君は今、北区民を敵に回したぞ…。

林さん:そして今、どこで何をしているのですか?

大橋さん:2021年5月に神戸に引っ越してきました。PRの仕事を個人で受けながら、茅葺きの活用をするNPO法人の設立準備などを行ってきました。

茅葺きを見て、ただただ心を打たれた

林さん:里山や茅葺きに対してそれくらいのイメージしかなかったのに、何か変わるきっかけがあったのでしょうか?

大橋さん:2020年にコロナ禍になり、神戸への行き来ができず、在宅勤務になりました。ここで気付かぬ内に徐々にメンタルがやられていきました。東京のマンションは窓の向こうが隣のマンションの壁で、日の光も入らない。寝に帰るだけくらいの前提で借りていた家ですので想定外で、ふさぎ込んでいきました。

あふれ出る傾聴能力を披露する林と鶴巻

鶴巻さん:各所でそういうことは起こっているのかもしれません。農業ボランティアに来てくれる人からもそんな話を聞いたりします。

大橋さん:2020年の9月末に少し移動が緩和され、神戸に出張できるようになり、たまたま仕事で茅葺きを見に行く機会に恵まれて。

岩本さん:ついに出会ったわけですね。

大橋さん:ただただ圧倒されたんです。「茅葺きに住みたい。」と一瞬で思いました。得も言われぬ感動がありました。「何だこれは…!ホントにあるんだ。」みたいな。川が近くて、場所もよく、そこに流れている「気」がよかった。よく寝れそうだなって(笑)存在に圧倒されました。コロナの反動でそう感じたのかもしれません。「そんなことウチは全然おかまいなしですけど。」みたいな雰囲気と言いますか。そういった堂々とした構えに心打たれました。

その当時の感動をすごい距離感で語る大橋さん

岩本さん:一瞬にして魅了されたんですね。

林さん:茅葺き屋根の家って、住みたいと思って住めるものなのですか?

大橋さん:まず簡単に売りに出てないですし、買ったとてすぐ住めるようなきれいな状態ではないことが多いのではないでしょうか。そもそも、茅葺きであればなんでもいいというわけでもないですし、その土地が住みたい場所なのかという基本的なこともありますよね。

林さん:茅葺きってとっつきにくいイメージありませんか?〇〇家住宅、お堅い、寒そう。あまり親しみがないかもしれません。

大橋さん:僕も含めてですが、今の人はマンションなど一般的な家に住んでいる人がほとんどだからイメージがないですよね。僕もいつか住んでみて、色々と感じてみたいと思っています。

法人を作って、維持や活用に取り組みたい

林さん:なぜ茅葺座というNPO法人を作って茅葺きの維持や活用に取り組もうと思ったのですか?

大橋さん:私が感動したように、この空間や魅力を多くの人に知ってほしいと強く思ったからです。PRの仕事をずっとしてきたので、「知ってもらう」ことに私自身の強みを発揮できるのではないかと。神戸市には700棟を超える茅葺きがあると言われていて、所有者の方もご高齢の方が多いのです。庭の草刈りでもなんでも、維持管理するのが大変です。茅葺きを残していくために、まずはそういうところから少しでもお手伝いできたらよいなと思っています。

情熱大陸のワンシーンみたいになってきた。

林さん:この場所との関係はどうなっているのですか?

大橋さん:ここは内田家住宅という文化財指定されている市の持ち物で、地元の老人会のみなさんが管理されています。私たちが作った茅葺座も、10月末に市と協定を結ぶことができました。管理のお手伝いを一緒にさせていただきながら、色んな人を迎え入れる場所にしていきたいという思いがあります。

鶴巻さん:そもそもなのですが、自分が茅葺きに住みたいっていう願望が叶えばよかったのでは?

大橋さん:そういう個人的な願望ももちろんありますが(笑)、調べていくと、茅葺きの家が減っていっていることに強い危機感を覚えたと言いますか。茅葺きのことに関して、相談しやすくなる場所を作れたらと思いました。その一番早く辿り着ける方法はNPO法人の設立なのではないかと。地元のみなさんにご理解いただくことも大切です。理事や正会員には、共感いただいた神戸市役所の方や、茅葺き職人、神戸の里山で活動している方などで組織できました。こういった面々が加わっている法人は珍しいのではないかと思っています。

岩本さん:そういう流れから、この内田家住宅の活用も進みそうなのですね。

大橋さん:はい。まずは先日、茅葺座のメンバーを中心に、横の納屋を掃除させてもらいました。そういうところから地道にですね。

納屋のお掃除の様子※大橋さん提供

林さん:次の一手はありますか?

大橋さん:小さくイベントをしてみたいです。例えばイノシシをここで解体して食べるなどでしょうか。ビリヤニを作りたいという知り合いもいます。そこにはファンがいます。そういうイベントが、たまたま茅葺き屋根の下でやっている。そういうところから、色んな使い方ができるんだという活動がしたい。火が近くにあって、美味しいものが食べられたり、実のある話ができたり。使いこなし方を探し、提案や発信をしてきたいです。庭木や屋根の修繕も、ワークショップなどをして体験してもらえるようできたらいいなと思っています。

岩本さん:火が使えると一気に雰囲気が変わりますよね。

大橋さん:まさにです。防火講習の資格も取りました。茅葺きを活用するには必須です。

火入れの様子。 ※大橋さん提供

岩本さん:こういう建物の資料館って「昔はこうでした。」って時が止まってしまっているといいますか。火が着くだけで動いてる感ありますよね。

大橋さん:『古民家』って言葉があまり好きではなくて。そこに人の出入りがあり、呼吸しているのであれば「今の民家」ではないかなと。誰の目からもそういう風に見えたらいいなと思います。

鶴巻さん:そんな生きている茅葺きを増やしたいと。

大橋さん:ゆくゆくは、それぞれの建物の所有者や管理者の間を繋ぐコーディネート機能を持てたらと考えています。例えば神戸には農村歌舞伎舞台という素敵な場所が複数箇所あるのですが、風習上、数年に1度しか使われてなかったりするのです。信頼のおけるコーディネーターがいれば、地域に迷惑や負担をかけることなく活用ができる可能性もあります。大きな話になってしまいますが、こうした活動で、地域の経済に少しでも貢献できたらよいなと思っています。維持していくためには、適切なお金が巡っていく必要があります。

今後活動していくにあたり

林さん:今ネックになっていることはありますか?

大橋さん:まだまだ始まったばかりですし、まずは僕自身が汗をかいていくことは大前提です。一方で、今参加してもらっているメンバーは、拠点が神戸ではない人や、土日や夜に関係なく仕事や活動をしているエネルギッシュな人たちに集まってもらった結果、リアルに足を運べる方が少ないのです。今は12名ほどのメンバーがいます。面白いアイデアはいただけるのですが、どうやって形にしていくか模索しています。

悩ましい、悩ましすぎるぜ…。しかし俺は囲炉裏に火を灯すように、やる…!

鶴巻さん:NPOや一般社団のような体制は、正会員や理事という立場の他に、ミッションに共感して現場で楽しめる人がいてくれると助かりますね。僕自身も、北区淡河町のまちづくり活動は、それ自体が楽しくてのめり込んでいきました。

大橋さん:もうちょっと気楽に足を運んでもらえるメンバーを募集していきたい。応援行きますよーと言っていただけるような。建築や環境、歴史などを学んでいる学生も繋げたいです。巻き込むのは難しいと最近感じていることです。やらないと「やってるな」って思ってもらえないので、まずは必死に自分からやっています。

岩本さん:こういったヘリテージ系の活動って兵庫や神戸って結構熱いじゃないですか。ヘリテージマネージャーの数も多い。そういう人たちに積極的に関わるのが大事かもしれません。

いつも最後にいいこと言ってくる岩本カメラマン

鶴巻さん:あとはボランティアマネジメントやコミュニティマネジメントみたいな観点でいくとどうでしょう?

岩本さん:もう一人いるんでしょうね。チームを作るにあたり、大橋さんのようなリーダーシップがある人と、もう一人緩やかな人がいるといいですよね。コミュニティマネジメントをする人って、立ち上げが得意な人じゃなくて、一緒に悩んだり話を聞いたりできる人。正解を出さない人。そんな人がいるといいですよね。

鶴巻さん:あーそれものすごい難しい。できる人尊敬します。

岩本さん・林さん:僕も無理です。

鶴巻さん:全員だめやん(笑)

使えない聞き手に絶望する大橋。

岩本さん:お話好きな人とかいてくれると百人力ですよね。

大橋さん:なるほど。

岩本さん:やりがいって人によって結構違いますよね。僕もボランティアさんにお手伝いいただく場を結構作ってきましたが、提供する価値として、美味しいモノが食べられるとか、貴重な体験が積めるとか、そういうのが大事だと思ってたんですけど。実は感謝されたとか、喜んでもらえたとか、幸せの解像度が高い素敵な人が多いんですよね。なので関わりしろがたくさんあるのが面白いですね。

鶴巻さん:林さんがやっている「ケレケレ」という拠点には色んな人が緩やかに集まってますが何か意識していることありますか?

林さん:奥さんの巻き込み方がえぐい(笑)誰でも声かけますからね。ぐっと引っ張ってくるんですよね。

岩本さん:天性の巻き込みスキル持っている素敵な人っていますよね。

鶴巻さん:では、今日の締めは「茅葺き婦人募集中」ということで。

大橋さん:茅葺き婦人ってなんですか!?

仲間、募集中――――――!!!