『現在進行形のユメの形』


四組の農家さんが集っておもしろい活動をしている、という話です。それぞれが単独でも農業を営んでおられますが、寄り合うとこんなこともできる、なんてひとつの事例にもなる話です。ひとりひとりの個性が豊かで会話がぽんぽん弾けていきます。そんなステキな方たちの人となりと思いを伝えていきます。これを読むみなさまにどうかうまく届きますように。

まずは四組のかんたんな紹介を

さとのくらしfarm 石田さん

神戸市北区にてお米や野菜を少量多品目で栽培。自給的な暮らしを、という思いあふれるあたたかなおうちのすぐ横にはにわとり(烏骨鶏とか?)がひなたぼっこしていました。ちょっと旅行した気分にさせられるくらいここちよい空間です。

さとのくらしfarm 石田さん

あまくぼ農園 久保さん

自然豊かなところで暮らしたい、と奄美大島で農業していたのち、帰神。父の地元の三田市にて就農。季節の野菜や果物(おもにパッションフルーツ)を栽培。熱い思いが次から次へと口からほとばしるように出てきます。

あまくぼ農園 久保さん

あぜ豆や 橋爪さん

東京から移住して8年目。福島のこともあって食や生活全般のことをより考えるようになっていたころ、いろんな会合などを通じて畑に触れるきっかけもあり、三木市にて稲作を中心とする農業を展開。言葉のひとつひとつが機知に富んでます。

あぜ豆や 橋爪さん

まんまるfarm 河野さん

多種類のお米と野菜を神戸市北区でつくっている。まんまるcoffeeとして自家焙煎珈琲も提供していて、人柄と同じくやさしい味わいの一杯にはファンも多いです。

まんまるfarm 河野さん

CSAって?

六甲山のムコウガワCSAというグループ名にも出てくるCSAなる言葉。どういう意味でしょうか。

「消費者が生産者に前もって農産物の代金を支払うことで、農家と消費者双方が支えあう取り組みのことです」河野さんの言葉です。

野菜の作付け費用として前もって支払ってもらうというところがポイントで、新規の就農者への応援にもなる購入方法のひとつです。ちなみにCommunity Supported Agricultureの略でして、地域が支える農業という意味合いを持ちます。そして、「支えあう」という河野さんの言葉がこのグループの特徴としても際立ってきます。

結成にいたった流れ

「自然豊かなとこで暮らしたくて奄美大島に行きました。農業指導員さんや地域の方たちとの良き出会いがあり農業の道へ。そこでCSAを立ち上げる機運があったんですよ。家の都合で神戸に帰ってきたんですが、CSAをやりたいという思いはずっと持ち続けていました」という久保さん。

同じころ、農業に体験できるきっかけをもっと提供できたらな、地域もたすかることとかってなんだろうと思案していた河野さんと意気投合し、CSAをやろうという思いは現実味を帯びてきます。

そこへ「餅でうまく展開できそうだなというとき」に出会ったという橋爪さん、さらに「全国各地に野菜セットを配送してるけど、地域にもっと知ってもらいたいし食べてもらいたい」という気持ちでいた石田さんも加わり形づくられていきました。

六甲山のムコウガワCSAスタイル

基本は月に一回、野菜セットをお渡しする、とのこと。石田さんの自宅兼作業場にメンバーそれぞれ持ち寄った野菜などが集まり、仕分けされていきます。いまは上限いっぱいの10組のお客さんが毎月たのしみに待っておられるそうです。

「10組しか対応できなく申し訳ない」と河野さん。ただ、野菜セットばかりに集中している状況にある日、なんとなく違和感をおぼえたそう。同様な思いは他のメンバーからもあったそうです。「販売に特化して野菜セット主体になるというのも、どうなんだろう」…。そこでメンバー間で意見を出し合ったところ「農家にムリなくやろう」と自然にまとまったそうです。

「野菜セットは農業を知ってもらうためのひとつのツール」ということを再確認し、「天候なんかでうまく作物ができないこともあるし、そういうときもありのままの状況を伝える。数が揃わないときもあるだろうし、逆に豊作だったらもうたくさんどうぞ、といえる関係でいきたい」つまりそれが農家や農業そのものを体感していただくということです、と久保さん。

このメンバーでCSAをやっている意味はそこにあります、とも。「作り手と買い手がお互い理解しあえるのが大切だと思います」と続ける口調には、ちからづよい意志も伝わってきました。

今後の展開は

満を持して今に至っています、という言葉もでてきました。形が整ってきました、とは久保さん。「身近な人にさらに知ってもらいたい。このグループで活動している意味などもっと説明したい」。奄美大島でのCSAはちょっと難しかったかな、と笑う。「だってみんな農家だったりそれに携わってたりしてますから」。

都会ないしは都心近郊の地でやるからこそのCSAという実感もある。「多様な暮らしをしていく中で寄り添えるシステムをつくりたい」と、ぐっと力を込めています。

「ファン、いわゆるタニマチをどう増やしていくかですね」というのは橋爪さん。単なるさわりだけの農業体験でおわるのではなく、より深くつながっていけるようにありたい、と述べます。

形そろわない野菜が出てきたとき、メンバーが「それ出そうよ」といってくれたことも印象に残っているという石田さん。「食品流通に関わっていた販売側の人間だったから、商品として思いすぎていたところもありました」。今、このメンバーの気持ちはひとつになっているなぁとよく感じるそう。

いろんなことがバランスよく配置されてきて動き出している、という河野さん。CSAは「しあわせを一緒に継続できるもの」だそうです。

おわりに

それぞれ思いがあり考えもしっかりある中で集うというのは、楽しさもあるだろうがグループとして維持していく難しさもあるのではないか、と当初思っていました。みなさんよくやりとりされていて、そこでは一石を投じる発言も出たりしてうまく機能しているのだな、と理解していく自分に気づいたのはそのすぐあとのことです。

それほどこのグループ間のつながりは太くて柔軟性があるんだなと感心しました。四者それぞれ思いがあるのは当然のことで、そこをきちんとまとめていくオトナな集団。

「一匹狼がふたりもいるんですよ」「え、誰?」と笑いあえる仲。「このメンバーでやっている意味」「気持ちはひとつ」などの、ひとりよがりではない、相手を意識した発言。また、農家と一般の人との関連性に対しても、「支えてもらう」ではなく「支えあう」といった河野さんの発言に代表されるように、単なる生産者と消費者の関係ですすめていくのではなく、相互理解のもと地域のつながりをともに考えていく、という思い。これも四人の言葉の中から随所に出てきました。

夢(それぞれの思い)が着実に形になってきている人たちに出会えてよかったです。シンプルにまず、そう感じます。

メンバーの個性を尊重しながら、認め合いながら歩んでいく『六甲山のムコウガワCSA』。これからもどんどんおもしろいことをしていくんだな、と期待せずにはいられません。