都会的髪型とサングラスで竹を愛でる。この男の正体は!?


神戸市北区大沢町。農村風景が広がるこの町に「神戸版地域おこし協力隊」として入った吉田さん。
里山サイクリング、獣害対策、竹の利活用…。このサングラスの裏には何かがある!

神戸版地域おこし協力隊って何ですか?

多々良さん、鶴巻さん、岩本さん、阿波野さん:今日はよろしくお願いします。

多々良さん:種はおよぐのウェブ担当をしている多々良です。まず自己紹介からお願いできますか?

吉田さん:神戸版地域おこし協力隊の吉田です。1980年生まれ、松坂世代です。

多々良さん:ぼ、僕も1980年生まれです…(近づく心の距離)。『神戸版』とはどういう意味ですか?

吉田さん:国が行っている地域おこし協力隊の制度は、国がお金を出しますが、神戸市は政令指定都市のため対象外なのです。しかし神戸市では、市独自の予算で神戸の農村地域に地域おこし協力隊のような人を入れていく取り組みを始め、私が第1号です。この北区大沢(おおぞう)町の道の駅「神戸フルーツ・フラワーパーク大沢」の中で、直売所やカフェ、レストランを運営しているFARM CIRCUSに籍を置いて、ここでサイクリングやインバウンドの取組を進めていこうと活動しています。

ここは…人生の楽園ですか…?

多々良さん:なるほどです。松坂世代としてのこれまでの歩みを教えてください。

吉田さん:実家は徳島で、高校まで徳島市内で過ごしました。大学は広島、就職で東京に。品川のオフィスビルでシステムエンジニアとして働き、夜な夜な遊びまわってました。30歳の時に英語を学びたくて退職し、海外に行きました。次の仕事は東京を離れようと探していた結果、神戸の重工系のシステム部門の仕事に転職しました。

鶴巻さん:一旦神戸では生活していたんですね。

吉田さん:はい、7~8年間は神戸に。その当時は塩屋に住んでいて、海が見える家が最高でした。そんな時に再び東京転勤。東京も好きだったので、また楽しめるかなーと思いきや、2回目の東京ライフがあまりしっくりこない。人の多さに疲れ、休日には山梨や長野に。東京は仕事するところ、週末は田舎に。そんなことを続けていたら、そもそも自然のあるところに住めばいいのではという気持ちが大きくなってきました。

多々良さん:そんなタイミングで、この神戸版地域おこし協力隊の求人を発見したわけですか?

吉田さん:最初は徳島に帰ろうかと思い地域おこし協力隊の情報を集め始めたんです。徳島の海の方でサーフィンとかいいなと。ただ、妻がこんな田舎はちょっと嫌だと(笑)。そんな時に、「神戸市が地域おこし協力隊?」みたいに発見しました。2019年でした。発見した翌週が紹介ツアーで、すぐ申し込んだのですが、参加者は僕だけ(笑)。

多々良さん:既に神戸に住んだ経験があったわけですが、北区とか西区のことは知っていました?

吉田さん:いえ全く。西区の端っこは西神中央で、北区の端っこは谷上くらいかなと思ってました。

鶴巻さん:北区…沈…没…。

吉田さん:でも紹介ツアーが楽しかったんですよ。神戸市にもこんな里山風景が!と。三宮まで30分でいけるし、イオンモールも近い。僕は田舎暮らしがしたい。でも妻はそこまで不便な場所には住みたくない。お互いの希望が一致して、飛び込みました。

FARM CIRCUS内の店舗で出た、挽いた後のコーヒー豆をコンポストに活用。

何を切り口に地域をおこす?

多々良さん:大沢町の神戸版地域おこし協力隊には、何かテーマがあるのですか?

吉田さん:自分の好きなことが自転車だったので、里山サイクリングみたいなことが地域おこしになるかなと。道の駅でやっている雰囲気もなく、敷地も広いのにサイクルラックもない。計画はあったけれどプレイヤーがいなかったということで、お互いのニーズがちょうど一致しました。

体制を整え、レンタサイクルをスタートしています。

多々良さん:任期はありますか?

吉田さん:3年間で、僕自身は今2年目です。3年間の間に自分のビジネスモデルを作りなさい。というのが条件です。自分のやってきたSE系のスキルを活かせるか、農家カフェのようなことがやれるのか、有馬温泉に来たお客さんに自転車案内できるのか…。色々と考えてきました。

多々良さん:うまくいきそうな手応えはありますか?

吉田さん:色々と動いている内に、こうした田舎で1本で食っていける仕事を作るのは難しいなと感じました。今までサラリーマンだったので、決まった日に決まった給料をもらえて、ボーナスも年2回。それがなくなる。仕事を探すのも大変。そういう中で、月数万円のビジネスをいくつも作っていく必要があるのではと。サイクリングもそれだけでは難しそうだけれど、4~5本の収入の内の1つであればいけるかなというのを感じているところです。なので、この3年は種を蒔けるだけ蒔いていこうと。

多々良さん:4~5本の収入の種はどんなことがあるのですか?

吉田さん:サイクリングは基本の主軸です。普通は50キロ、100キロ走るのがメインですが、自転車でビューンと通り抜けられても何の思い出も残らない。そうじゃなくて、茅葺き屋根があるところで停まって見てみるとか、そのまま地元のお祭りに参加するとか、味覚狩りと合わせるとか。移動距離は少ないけど、地のモノやコトを知ってもらえたら。

多々良さん:それめちゃくちゃいいですね。

サイクリングツアーの様子。スイートコーンの収穫や町の歴史の案内。※吉田さん提供

鶴巻さん:そもそもなんですけど、吉田さんっていつから自転車に興味あったんですか?

吉田さん:徳島は、通学はみんな自転車なので、昔から自転車乗るのが好きでした。スポーツタイプとか本格的なものに興味を持ち始めたのは、東京に行ってから。東京は自転車が交通手段として一番便利でした。終電関係ないし(笑)。ある時から仲間とバーをやっていて、語学留学もしたので、英語で街を案内してくれるやつみたいなポジションになっていきました。外国人に自転車で東京を案内すると、すごく喜んでくれて楽しかったんです。

鶴巻さん:東京でビジネスモデルを磨かれていたのですね!

吉田さん:完全なる趣味ですけど(笑)。東京でも、メジャーな場所よりも、競輪場などに行って日本のアンダーグラウンド感を見せた方が喜ばれたのを覚えています。こういった農村地域でも、畑で収穫してその場で食べるといったことって、誰でも畑に行ってできるわけではないですよね。そういうことを繋げられたら。

多々良さん:なるほどです。他の収入の種はありますか?

吉田さん:地域のみなさんにご用意いただいたこの家が、たまたま周りから離れているので、ここで民泊やイベントスペースなどができないかと。このあたりは鳥獣被害もひどく、今年狩猟免許も取得し、イノシシも捕まえ始めたので町の役に立ちたいです。大きいイノシシはボタン鍋用に販売されたりするのですが、小さいイノシシは捨てられたり埋葬されたりしているので、なんとか食べるところまでということで、この家でBBQなどをして提供できたらよいですね。

岩本さん:イノシシ食べたい…。

吉田さん:あとは移住者の受け入れを助けたいです。都市部の引っ越しとは訳が違うので、自分が移住するとき相談相手が欲しかったという経験もあります。役場は土日にやってないので、土日に自転車で町を案内しながら農家さんにも会ってみたりして、移住に興味ある人の受け皿になりたいですね。

繁殖力の強い竹の被害も近年広がっており、炭などで活用する取組を探っています。

必見!?農村地域に入り込むために大事な要素とは?

多々良さん:今困っていることなどはありますか?

吉田さん:うーん、地域のみなさんいい人ばかりなので、あんまり思い浮かばないかもです。あえて言えば、法的なところでしょうか。こういった農村地域には、この農村風景を維持するために、様々な規制があります。要するに、好き勝手に建物を建てたり、商売を始めたりできないわけです。例えばここを民泊などの拠点にするとして、町の許可が取ればできるよと言われたけど、実際どうやって取るの?みたいな。里づくり協議会というものを開いてもらい、その後市の審議会にかけて…と分からないことばかり。農村でビジネスを始めるにあたり、大変だなと感じています。とはいえ、ここにずっと住まわれてきた方々がいますので、その人たちと協調して合意を取っていくのは当然ですしね。

鶴巻さん:もう少し吉田さん個人にフォーカスすると、集客とか、3年後に飯を食うという観点で、もっとこうしたいとか、ここが不安とかありますか?

吉田さん:神戸の農村地域の民泊は、まだ数が少なく、ここで農泊やコワーキングなど、需要があるのか読み切れてないところもあります。今はまだ地域おこし協力隊としてお給料もいただいていますが、終わったタイミングでそれがなくなるので不安という面もあります。こういうのがあればいいなぁということを形にしようとがんばっていますが、実は需要がなかったから今まで誰もやらなかったんじゃないかという結果もあり得るので、そのあたりは色々と考えています。

ここでお泊りすると、きっとこんな風になれます。いや、その帽子は一体なんですか…。

鶴巻さん:観光やインバウンドという観点でも、一瞬にして世の中の状況が変わりましたしね。

吉田さん:ここ2年間はコロナと共にという感じだったので、時代の流れを読むことも難しい。一方で、ワーケーションという考え方が出てきて、市街地に住まなくてもというムーブメントも進んできたので、そういう人たちとどう関わっていくか。お互いにハッピーな関係づくりをしていきたい。これまで大沢町内の関係性はできてきたけれど、近隣のニュータウンの人たちとは全然接点がないので、今後はお客さんになってくれる可能性がある人とどう繋がっていくか。受け入れるにあたって、何が魅力的なのか引き続き探っていきたいですね。

鶴巻さん:ありがとうございます。じゃ、最後いい質問してください。

阿波野さん:え、今ですか。

鶴巻さん:髪型が完全に弟みたいになってるし。

ブラザー感溢れる。

阿波野さん:あ、あ、阿波野です。僕も、関東で4年間のサラリーマン生活を終え、海外に行こうとしていたのですがコロナ禍で叶わず…。将来的に地域に携わりたくて、岩本さん(今日のカメラマン)のところで働いています。今後、地方で働きたい人も増えてくるのではという予測もあるのですが、吉田さんが地域で入って仕事するにあたり、今までの会社員としての経験が活きている部分ってありますか?

多々良さん:質問が素晴らしい。

吉田さん:大きい会社にいたので、当然自分一人でプロジェクトは動かせない。関係する人もたくさんいる。一番権限のある人の決裁を取るために、誰と、誰と、誰の決裁を取るのか…みたいな。実は田舎の文化も同じような感じがしています。農村地域の活性化というのも、大きなプロジェクト。そういう意味では、住民が社員で、みんなが決裁権を持っている。決して個人で好きにはできないというところです。大きい会社でやってきたからこそ、根回しがどれだけ重要かとか、この会議までにある程度味方を探しておかないと…といったことが分かります。こういう経験をしていなかったら「なんで俺の考えはみんなに伝わらないんや!」みたいな愚痴を言ってたかもしれないです。

鶴巻さん:うわーー分かりやすい。この例え移住相談会で盛大にパクらせてもらいますわー。

阿波野さん:システムエンジニアという職種も特殊だと思うのですが、活かせてますか?

吉田さん:例えば民泊をするというプロジェクトの中でも、システム設計の中で、要件定義があって、基本設計があって、詳細設計、コーディングがあって、スタートというプロセスは一緒です。誰に来てもらうのか、値段はいくらにするのか、そして今から着工…みたいな。システム屋こそのプロセスの追い方があるような気がします。地域のみなさんに問う「お困りごとはないですか?」は、そのプロセスを頭に浮かべながら何かできないか考えていますね。

多々良さん:めっちゃ面白い。今の仕事に当てはめて仕様設計してるんですね。

鶴巻さん:僕もどうしてもこれまでやってきた「スキル」に目がいきがちだったのですが、考え方だから応用できますね。

岩本さん:意外といい質問したよね、阿波野。ちなみに、吉田さんが30歳の時に行かれた語学留学は期間どれくらいですか?

吉田さん:3か月くらいですか。日常会話ができたから目的は果たしたかなと。ダラダラいても仕方ないなと思って日本に戻りました。

岩本さん:やって。1年じゃなくて3か月でいいやん、阿波野。

阿波野さん:…え?

吉田さん、1年行った方がいいよって今すぐ訂正してください。さあ、今すぐ。

岩本さん:地域に入るなら早く入らんと。では最後僕からも。仕事が1つだと、人間関係もシンプルなのでいい意味で楽じゃないですか。今は色んな繋がりがありますよね。人間関係が色んなところで走る感覚はどうですか?

吉田さん:今はすごい違和感ありますよ。これまでは、オフィスいる時が仕事モードで、遊んでる時は完全に遊びで、そこに接点はなかった。今はどこまでが仕事でどこからがプライベートかよく分からず、溶けてる(笑)。どこから仕事になるか分からないので、そういうのが自営というか、自分で飯を食っていくには必要なのかなと。緩くでも繋がっておくと、仕事の話になることも。そういう意味では、「あいつ、面白いことやってるな。」という存在になりたいですね。

岩本さん:ですよね。分かれてないですもん。それにたまに追い詰められる(笑)。納期遅れてるのばれるしなぁ。

鶴巻さん:最後多々良さんからありますか?

多々良さん:いえ。い、いい締めでしたね。読者のみなさま、ぜひ吉田さんのレンタサイクルを活用して大沢町を楽しみに来てください。

鶴巻さん:多々良さんが締めた!(笑)