国が進めている「みどりの食料システム戦略」(以下みどり戦略)では、有機農業に地域ぐるみで取り組む産地を「オーガニックビレッジ」として認定し、支援を行います。そうした動きの中で、神戸市もオーガニックビレッジ宣言の準備を進めています。ただ、進め方の難しさや課題はたくさん。どうやって進めていったらいいのかについて、意見を出し合いました。
※1 みどりの食料システム戦略ってなんですか?https://tanewaoyogu.com/1649
※2 今回は、「有機農業」「オーガニック」という言葉について、便宜上同じ意味合いで使用しています。
※3 文中の補足説明は、一般的な説明を記載しています。

学校給食をオーガニック食材に?

大皿さん(有機農家):2024年4月に向け、神戸市のオーガニックビレッジ宣言を進めています。大学の先生などに意見を聞きながら、市の職員さんも含め骨子をつくっています。今難しいなと感じているのは、憲章やガイドラインをどうつくるかです。オーガニックビレッジとして、神戸がどうやって進めていくかを提示したい。もう1年かけてその整理をしていきたい。

山内さん(イラストレーター):他の市町村も次々とオーガニックビレッジに手を挙げているんですよね?

大皿さん:はい。ただ、やっぱり各市町の中身は似ていて、じゃあ神戸はどうするかっていうところが一つ重要になると思うんです。みどり戦略の中にある、有機農業の面積割合を25%にするっていう目標はただの目安なんですよね。ポイントなのは、有機農家の数を増やしていくだけでは25%はおそらく無理だろうということ。

山内さん:2050年までにってことでしたか?

大皿さん:そう、2050年。やっぱり(※)慣行栽培の農家さんをどう巻き込んでいくかが25%を達成するには重要で。ほんの5~6年前まで、農林水産省は有機農業にそこまで力を入れてなかったので、中心的な農業は慣行農業―つまり近代農業が日本の農業の中心でしたが、みどり戦略以降は潮目が変わるんじゃないかと。

(※法律で認められた農薬や化学肥料を基準の範囲内で使用する一般的な栽培方法)

岩本さん(カメラマン):国が方針を出すのは大きいですよね。

大皿さん:慣行栽培の農家さんとどう一緒にやっていくかは、各市町いっぱい考えていると思います。今までの構造で、慣行農家VS有機農家みたいな状態がずっとあったから、なかなか手をつなげないっていうのは未だにあるんです。でも環境的にもそういうステージじゃない中で、一緒に進めそうなきっかけが学校給食じゃないかなと。

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(BE KOBE ORGANIC DAY in あいな里山公園より)

山内さん:僕も子どもがいるので、すごく関心があります。

大皿さん:1年間の給食の中で、数食を有機食材にするってどんな意味があるのみたいな議論がずっとあるんですね。でも今は教育のきっかけとして進めていきたい。それで、市内の大きな(※)営農組合に、1回有機米つくりませんかと声を掛けてみたんです。

(※集落を単位として、農業生産過程の全部又は一部について共同で取り組む組織)

山内さん:なぜ米なんですか?野菜は?

大皿さん:学校給食をオーガニックにするのに、野菜で進めるのは非常に難しい。規格の問題や、旬のものなので数を揃えるのも難しい。米は備蓄ができます。ただそれやと現在の有機農家だけでは賄えない。神戸市の学校給食が1日約11万食なので、1日に使うお米が10トン。10トンの有機米は現状どうにも集まらないので、一緒に取り組んでもらえませんかと相談したら、興味を示してくれたんです。営農組合は先進的にいろんな情報をキャッチアップしてるから、国がそういう方向に向いているというのも感じている。小さい1区画の田んぼから試してみよかと。

岩本さん:ただ、1区画の田んぼではあまり意味がない?

大皿さん:それはね。でもすごくありがたいことで、そうやって数年かけて検証や成功体験を積んでいって広げていければ。有機の米づくりは手間がかかり難しいとはいえ、技術が進歩してるのでやりやすくなってますよとか。大型の機械も最近は有機栽培に向けた開発をしていて、機械の導入も含め進めていくと、有機栽培の動きが少しずつ生まれるんじゃないかと。

鶴巻さん(兼業農家):そうなるとすごく大きな動きですね。みどり戦略も、技術革新とセットにした有機農業の普及とありますもんね。

オーガニックビレッジは誰のもの?

大皿さん:そ・こ・で…!!そこでやねん。慣行農業の中で、一部有機農業に取り組んでいるとか、色んな状態が生まれるんですよ、おそらく。オーガニックビレッジ宣言の中で、その整理が必要なんです。目指すべきところは(※1)有機JASなのかもしれませんが、それだけじゃない役割の位置づけがしたいんです。その整理をしたら、慣行栽培の農家の方や(※2)減農薬栽培で取り組んでいる農家もこの中に入れるんじゃないかと。オーガニックに向かうにあたって、この人たちを切り離してしまうと無理。こうした方々と一緒に進めていく方法や整理の仕方がないかなって悩んでいます。

(※1 化学合成された農薬や肥料、組み換え遺伝子に由来する農業資材などを使わずに作られた農産物や、それらを原材料として作られた加工食品について、その作りかたや小分け・輸入のシステムが確かなものであることを法律に基づいて証明したもの)

(※2 化学合成農薬の使用回数を通常の5割以下に減らして栽培する方法)

(BE KOBE ORGANIC DAY in あいな里山公園より)

服部さん(クリエイティブディレクター):でも今の話でいくと、給食っていう出口が明快やから、慣行栽培の農家さんも一部を有機でやりますってなるじゃないですか。やっぱり出口戦略なんですよ。例えば給食に有機米を提供してくれるなら価格を上げて購入しますみたいなことがやれるといいんじゃないかと。

大皿さん:兵庫県の但馬エリアでは、コウノトリ育むお米という実績があって、高い値段で売ってるんですよ。お金のところは大切な要素の一つです。

鶴巻さん:それは誰が買ってるんですか?各市?

牧野さん(神戸市農水産課):市でも支援されているようです。また、市の職員がちゃんと米の商社に出向されて、流通のところまである程度は知識もあるようです。

大皿さん:農家だけでなく、そうした各自の役割をオーガニックビレッジの中に入れたい。そして農家も、農薬や化学肥料を低減するところで、それぞれの役割を整理したい。でも有機農業の世界の人って、一緒の括りになることを嫌がるんですね。例えば減農薬栽培と一緒に進めていくっていうことに対して、その整理が上手いこと誰もできていない。その位置づけをちゃんと文章にした憲章ができたら、市民のみなさんもわかりやすいかなというのは思っています。種およチームのアイデアも聞けたらなと。

岩本さん:それを多々良さんが書いていくということで。

多々良さん(ウェブデザイナー):か、書いていくということで…はい…。それは、階級みたいなものですか?

大皿さん:最初にやらなあかんのは、立ち位置の確認やと思うんです。それやったら俺はもうやらんって言われないようにしたくて。

岩本さん:一番大事なところは、環境保全という側面で神戸版オーガニックビレッジの憲章に共感してくれる慣行栽培の農家さんを増やしていくこということですね。

大皿さん:そんな感じやね。

岩本さん:その次が、減農薬でやってる人とか。それで、さらに上のところに…。

大皿さん:上とか下とかじゃないねん、それは。できたらこっち側に進んでいきましょうっていうくらいが望ましくて。共感してもらう人を増やしていくのがすごい大事で、対峙してしまったら終わっちゃうから。急に有機農業にスポットが当たって、このままいったら逆に風当たりが強くなるかもしれない。そうじゃなくて、みんなで考えていって、自分の中でできる範囲で少しずつ変えていくことが大切で。

鶴巻さん:例えば米づくりだと、減農薬と無農薬で難度がだいぶ違うじゃないですか。僕も失敗しました。慣行栽培と有機栽培の間に、どういう段階があるのかの整理もいるような気がするんですよね。あとは化成肥料を使っていて無農薬とか。いろんな栽培形態があって難しい。

大皿さん:そうそう。慣行栽培の農家さんがなぜ有機農業に転換できへんかっていうのをある先生が項目ごとに挙げていて、気持ちの部分がほとんどなんですよね。だから気持ちのところでうまく向かうようにできたら、やってみようかなまではいくのかなと思って。

鶴巻さん:すごく分かる気がします。

大皿さん:あとは、なんで今やってる農業があかんねんみたいな気持ちも、ヒアリングしてたらすごい出てきます。いや、あかんわけじゃないんですって。やっぱり食糧生産と環境保全のバランスなんですと。みんながしっくりいくようなバランスってどこなんかなと。めちゃくちゃ難しいと思うんですよ。

山内さん:慣行栽培の農家さんも自分らが食を支えてるっていう誇りもあるでしょうしね。

大皿さん:その通りです。つくってなんぼやし、仕事としてしっかりお金を稼ぐのためにやっているのに、利益が減ったり手間がかかるリスクもかけてっていうのは自分の考えとは合わないというのも分かります。

岩本さん:大きく収量差が出るのは当然受け入れられないと思ってる人もいますよね。

大皿さん:国も25%って掲げるんやったら、そこにある程度お金を使っていくべきだと思うんですよね。

消費者の意識の変化と一緒に。

服部さん:これはもう出口の話ですけど、結局市場は高く買わなあかん状態に現状ではなるから、価格転嫁という考え方を浸透させるのは農政がやっていかないと。100円のレタスと200円のレタスがあって、200円のレタスを買ってもらう戦略というか。

岩本さん:でも物価高で給料も上がらないっていうギャップの中で、食材を価格転嫁していこうってちょっと難しいですよね。

大皿さん:日本人全体がというのは難しい。いろんな地方の農家さんと話していると、やっぱ僕らのような都市近郊の有機農家とは作付けも売り方も全然違ってくるわけです。例えば僕らだと少量多品目でセットにして近郊の消費者に販売しているけど、熊本の有機農家さんは、トマトを慣行栽培と有機栽培両方やりながら、有機栽培の部分を伸ばして大消費地向けに販売しているとかね。

鶴巻さん:有機野菜が売れるという出口があるんですね。

大皿さん:農業者が取り組みやすい出口のところも整理すると、まずは学校給食のじゃがいも、玉ねぎ、ニンジンあたりで、耕作面積の一部を学校給食用につくってみよう、有機栽培でやろうみたいな動きになれば。

山内さん:この間のイベントのトークセッションで面白かったのが、台湾の学校給食の相当割合が有機食材だと。

(BE KOBE ORGANIC DAY in あいな里山公園より)

大皿さん:世界はもうすごいですよね。台湾の学校給食はもうほとんどオーガニックになっていて、韓国もそんなレベルで進んでるみたいで。

岩本さん:でもその韓国台湾とか比較的近い文化圏の中で、有機食材がそれだけ増えているのは、出口の部分がしっかりあったからですか?行政の関わりも大きい?

牧野さん:タイやマレーシアの農家や農水省みたいな方が神戸に来られ意見交換をする機会があるのですが、日本は最近有機農業25%を目指せと国が言っているんですと話をしたら、うちはそもそも有機だからって言います。どうして有機になっているのかと聞くと、 だって農薬高いですよねって。高い農薬を買ってわざわざやるお金もない、そのまま有機栽培のような方法でやっている方が安いし普通だと思っている。

大皿さん:キューバとかもそうやね。化学肥料が入ってこないから有機農業が普通みたいなのと同じ話だと思うんです。日本でそうなろうと思ったら消費者理解が進まないと無理ですよね。きれいな野菜しか売れへんからそのために農薬使わなあかんっていうので。

牧野さん:肥料も少なくて、農薬も使わないとなると、トータルコストは安くなる可能性もある。あとは肥料が海外から入ってこなくなるとか、そういうリスクは有機農業では減るのではないでしょうか。

大皿さん:そうそう、経営面で使わないっていう選択ができて、それが流通にちゃんと載せて買ってもらえるなら一番いいと思うんです。農家さんも使いたくて使ってないと思う。だって農薬高いですもん。みんな虫食いがないやつを選ぶから、仕方なく使っている。そうなると、どちらかというと生産者よりも消費者の意識を変える方が大事になってくるかなと。

鶴巻さん:いつもそこに辿り着きますよね。

大皿さん:この議論って、1970年代からずっと消費者運動でやってきて、一向に広がってない。ずっと繰り返し。だけどね、今回違うのは国がやろうって言ったことなんです。

山内さん:大きいターニングポイント。

大皿さん:ただチャンスではあるけど、今までのやり方ではあかんやろなっていうのもある。

鶴巻さん:種はおよぐチームの強みと掛け合わせると、このチームでフォローできることは消費者の啓蒙の方かもしれないですね。みどり戦略にも、消費者の意識の変容も含めた戦略とありますし。

(みどりの食料システム戦略より)

大皿さん:そう、それを上手に言語化できるかなっていう不安はあって。手探りのままずっとやってきていて。

山内さん:このあたりは広めていくための肝になりそうですね。

農家や地域の意識、研修制度はどう変わっていく?

岩本さん:生産側の話に戻るのですが、農家になる年齢もポイントかなっていう気がして。例えば20代30代から農業やるぞって人は、有機農業が環境にも経済的もよいらしいってなるかもしれないですが、定年退職して実家の農業を継ぐような場合に、体力とかも限られてる中で、親のやり方を変えるのはちょっと…って人が結構多いんじゃないかって。

大皿さん:今まで学ぶ場所がほとんどなかったから、まず慣行を学んでからの、応用編みたいな感じになってしまっている。他の自治体では有機農業の学校をつくるといったことをオーガニックビレッジ宣言に入れています。有機農業に期待するのであれば、行政も有機農業を学べる環境をちゃんと持っておきたいですね。

岩本さん:親が亡くなってしまったので継ぎます、でも自分も60歳を越えているから親と同じままのやり方でというか、そういう方々の面積割合が多い気がしていて。

大皿さん:今ね、国から地域計画を立ててと言われているんです。僕の集落も担い手不足で、いっそのことこの集落全部で新規就農者を受け入れて、オーガニックの集落にするのはどう?と提案しても、それはなぁ…と。なのに、「大皿くん、うちの畑もやってくれへんかな。」って言うのよ。

岩本さん:規模拡大(笑)。有機農家がいる周りで理解を得て広げていくしかないんですかね。

長坂さん(神戸市農水産課):集落によっては、ここは有機農家の場所にしようかという話もあります。地域の長がそういう思いがあったら動く可能性も。

大皿さん:地域の代表次第みたいなところあるよね。ただね、ちょっと難しいのが、自然農とか(※)自然栽培で、そこに線引いちゃってる人たちも多いです。

(※農薬や化学肥料に頼らず、農作物がもつ生命力を活かす栽培方法)

山内さん:有機農業の中で、さらに線を引くってことやね。

大皿さん:またこれも手が組めないから大変。

鶴巻さん:ロジカルに説明できて、きちっと経営としてやってますっていう有機農家が増えたらいいなと思います。やっぱり僕も、自分がやっている畑の横にあまりに思想の強い人が来たら嫌ですもん。そこは難しいです。そういうことが永遠に繰り返されてる気はするんですけど。

牧野さん:宗教対立も近い方がややこしくなりますからね(苦笑)

鶴巻さん:なので、公の研修機関として有機農業スクールが存在していて、そこをちゃんと卒業して就農を希望していますという形が集落への説明はしやすいと思うんです。

松嶋さん(神戸市農水産課):そういうところってちゃんと説明されてないですよね。有機農業のことを、科学的というか論理的に説明できてないので、やっぱ有機農業はしんどいしリスク高いやろって敬遠してる人が多い気がします。

大皿さん:有機農業って学問としてはまだ全然。近代農業に比べたら情報が少なすぎる。有機農業なんて日本で0.5%やから、そりゃそうなのよ。あと有機農業に関する本を読んでも、書いていることがそれぞれ全然違う。研究する専門家も今まで少なかったと思うから、今後は少しずつ整理されてくるかなと思うけど。

岩本さん:ちなみに今神戸の有機農業は何%ですか。

大皿さん:日本の平均と変わらんくらいちゃうか。つまり0.4%。

岩本さん:耕作しているもので、20%ぐらい握ってる一大ジャンルとかないんですか。

大皿さん:米が圧倒的よね。

岩本さん:たくさん変えていくことを考えるより、数種類に突っ込んでいった方がいいんじゃないかって。

鶴巻さん:それでいくとやっぱりある程度保管しやすい米、ジャガイモ、玉ねぎ、人参とかじゃないですか。そこだけでもだいぶ数字変わりますよね。

大皿さん:ちなみにうちの集落やったら、集落の13haのうち僕が3haの有機JAS農家。

岩本さん:有機農業の割合すごいことになってる(笑)

大皿さん:23%くらい?僕の農業研修生に貸してもいるから、結構人数も増えている。

長坂さん:それでも有機農業は…って言われるんですか。

大皿さん:昔から綿々と続く色んな人間関係があるのよ。

牧野さん:人間はそんなもんですよね。

岩本さん:あれ、もう時間になりましたね。

大皿さん:こんな雑談でよかったんかな…。

鶴巻さん:ひとまずここで終わる、でいいんじゃないんですか。

服部さん:ここで終わる(笑)。続けていきましょう。

文:鶴巻耕介
写真:山内庸資・岩本順平