近年、就農人口は高齢化などにより刻々と減ってきており、それに伴って耕作放棄地の発生が問題視されている。そんな中、神戸市には「神戸ネクストファーマー制度」という、短時間の研修を受けることで農地を借りられる研修制度がある。農業の課題解決と、多様な現代人の生活によりそう新しい農業のかたちを提案したネクストファーマー制度とは、いったいどのような制度なのか。現在その制度に携わる方々にお話を伺った。

取材…緊張します。

多々良さん(ウェブデザイナー):よろしくお願いします。では、自己紹介からお願いしてもよいでしょうか?

野中さん:農政計画課の野中善子といいます。今年から神戸市経済観光局の農政計画課に来ているのですが、それまでは西農業振興センターという西区の職場に長くいました。

多々良さん:長くというのはどれくらいでしょうか?

野中さん:9年から10年くらいです。集落営農であったり地域の団体のお仕事をしていて、今回のような農政計画の仕事は久しぶりです。

多々良さん:なぜ農業職に入ろうと思ったんですか?

野中さん:元々農学部出身なので、農業に関わる仕事に就きたいなというところの選択肢の中で選びました。

(野中さん)

多々良さん:では次に内山さんお願いします。

内山さん:農政計画課の内山翔平です。僕も農学部出身で、そこから農業職の道に進みました。 最初は農業委員会という土地の規制などを行う部署から入って、今年の春から農政計画課に来ました。今は農業の担い手などのところを担当しています。

(内山さん)

多々良さん:ありがとうございます。

茶谷さん:茶谷友貴です。僕も農業職で採用されまして、入庁して4年目になります。1年目は農政計画課で新規就農者のサポートなどをしていました。その後神戸農政公社に出向していて、今3年目になります。

岩本さん(カメラマン):えっと…、記事は柔らかめになった方がいいですよね?(笑)

内山さん:やわらかめでお願いします。

一同:(笑)

岩本さん:じゃあ好きな野菜を聞いておきます(笑)

内山さん:好きな野菜ですか…、オクラが好きですね。

岩本さん:神戸産の?

内山さん:神戸産のオクラが好きです(笑)

岩本さん:野中さんは?

野中さん:神戸産のいちごとスイートコーンが美味しいですね。

茶谷さん:野菜全般好きなんですけど、特に夏野菜が好きで、ベランダとかで作ったりしてて。ナスとかきゅうりが好きです。 …緊張するのでハンカチ持ってますけどいいですか。

岩本さん:緊張感がすごい(笑)

(茶谷さん。)

そもそも、農家ってどうやったらなれるの?

多々良さん:そもそも、農家という職業に関わりがない人からすると、農家になるには資格とかいるのかなって。実はあまりよく分かっていないんですが、どうやったら農家になれるんですか?

内山さん:ちょっとかたい話になりますが、農地を借りるには農業委員会というところで許可をもらいます。農地法という法律に基づいた手続きを経て、土地を借りなければならないんです。ただその条件がとても厳しくて。神戸市の場合、本格的に就農するには、1年間以上、約1200時間以上の研修を受けて、そこで初めて農地を借りられます。今年度から農地を借りる際の下限面積というものは撤廃されましたが、各自治体によって、農地を借りるには一定の面積以上でないと借りられない、というルールもあります。

多々良さん:1年以上で1200時間…!長いですね。

内山さん:そうなんです。こうなると、農業に興味がある方でも、仕事をしながら研修を受けるのは相当難しい。そこで生まれたのが、仕事を続けながらでも研修を受けられる、『神戸ネクストファーマー制度』で、令和3年に作られました。

多々良さん:なんでこんなに条件が厳しいんですか?

内山さん:農地を借りてもそれを荒らしてしまうと、周囲の農家さんに迷惑がかかります。神戸市ではしっかり就農のノウハウを学んでいただくためにもこれだけの研修を受けてもらっています。就農できるかの見極めでもあるんですよね。

江﨑さん(ライター):一度農地が借りられるようになったら、就農資格は継続できるんですか?

内山さん:そうですね。例えば神戸市で研修を受けた方が他の自治体で農地を借りたい場合、神戸市での実績を農業委員会に確認してもらいます。それが証明できたら他の地域でも農地を借りられます。

神戸ネクストファーマー制度とは。

多々良さん:農家になるためのハードルが高い、ということで、神戸ネクストファーマー制度ができたと。最短どれくらいの期間で資格が取れるんでしょうか?

内山さん:年間を通じたカリキュラムになっているのですが、主に週末を中心に研修を実施し、約100時間程度になります。その研修を受けた人は、1000㎡未満の小規模農地を正式に借りることができます。その後2年間適切に管理していることが認められれば、借りられる農地の面積の上限が撤廃され、一般的な1200時間の研修を受けた方と同じく新規就農が出来る制度です。

多々良さん:農家って増えて欲しいんですか?

内山さん:そうですね、やはり担い手不足が神戸市の農業の課題でもあります。お決まりのフレーズかもしれませんが、高齢化や人口減少も進み、今まで大活躍していた農家さんも農業を継続できなくなっています。なので若い世代の方がたくさん入ってきていただけるのは非常に嬉しいしそれを目指していますね。神戸ネクストファーマー制度は、半農半Xのような、本業があって農業もやりたい方が農地を借りることができるような取り組みになっています。一方で、それとは別に農地の集約化もしています。小規模農家さんが増えるとどうしても農業の効率は悪くなるので、農地を集め、効率よく生産できる方も後押ししています。

多々良さん:ネクストファーマー制度は、神戸だけの制度なんですか?

内山さん:今のところ、神戸だけですね。

多々良さん:研修先はどこになるのでしょうか。

内山さん:研修先としては、現在8箇所(2023年8月末時点)あります。神戸農政公社は果樹関係の研修期間もやっています。有機農業や自然農法など、農法も各機関によって異なります。

茶谷さん:北区だったら、マイクロファーマーズスクールという研修機関があって、制度誕生直後に認定を受けた研修機関の1つです。認定研修機関になりたいとご相談いただくこともあって、毎年2、3箇所ずつ増えていっています。

岩本さん:研修機関になってみたら何かいいことが?

茶谷さん:地域で耕作放棄地が増えているようなところであれば、神戸ネクストファーマー制度を通じて担い手になってもらえたり、地域の活性化にもつながったりする可能性があります。

多々良さん:どの農家の元でも、研修時間は証明されるものではないのですか?

内山さん:ネクストファーマー制度に限っては神戸市の認定を受けた研修機関のみ、 研修の証明を与えられる立場になれます。

岩本さん:仕事を辞めずに農家になれる選択肢をつくったということですね。ネクストファーマー制度は、農家や地域、もしくは就農希望者、どっちからのアクションなんですか?

内山さん:ニーズがあったから…ですかね。ネクストファーマーって、もちろん趣味の範囲で終わったり、小規模農家で終わる方もいます。農業で食べていくためには土地も増やしていかなければならないですし。神戸市としては100%本格就農を求めているわけではないです。できれば本格就農に繋げたいところもありますが、それよりも、耕作放棄地を少しでも借りやすくして、管理してもらえたらいいなと。半農半Xという形で農村に関わってもらうことで、農村の維持管理にも繋がったらいいなという目的が強いですね。

岩本さん:つまり、ネクストファーマー制度は、農村の維持という意味合いが強くて、農業の活性化は農業の集約化で目指すと。

内山さん:そうですね、都市部からどんどん農村に関わってもらいたいという思いで設立されました。

(耕作放棄地の様子。)

多々良さん:耕作放棄地があると何が問題なんですか?

内山さん:場所にもよりますが、圃場整備といって、農地を効率よく使うために国費を投じて区画を整えていくんです。ですが耕作放棄地になると、適切に活用できてないということになってしまいますし、荒れてしまうと周辺にも迷惑がかかってしまいます。

茶谷さん:よくあるのがゴミを不法投棄されたり、アライグマや猪などの住処になってしまったりというところです。

野中さん:現場を見ていると、耕作放棄地とまではいかなくても、雑草も増えて放置されている土地は増えてきているなという肌感覚はあります。アライグマ被害についての問い合わせなども増えています。 あとは耕作放棄地になっているところは、相続者の方が亡くなられていたり、持ち主が不明な土地もあるので、簡単に解決できる問題でないのが難しいところです。

多々良さん:実際にネクストファーマー制度を使って実績を出されている方はいらっしゃいますか?

茶谷さん:現在48名がネクストファーマー制度の資格者名簿に登録されていて、うち30名は実際に農地を借りて耕作されています(2023年8月末時点)。

内山さん:これからも増えていくと思います。

多々良さん:ちゃんと活用されているんですね!

野菜だけじゃない、果物も本格的に学べるこうべ果樹の就農学校。

多々良さん:野菜だけでなく、果樹栽培を学べる研修機関もあるんですよね?

茶谷さん:はい。神戸農政公社は、北区のフルーツ・フラワーパークの管理運営をしています。毎年果物狩りを開催しており、その栽培技術を神戸市の施策に活かせないかということで、果樹の就農学校を昨年から始めました。最初はみっちり1200時間研修をするカリキュラムを設けていたんですが、今すぐ仕事は辞められないけど果樹栽培をやってみたいという声がとても多かったので、ネクストファーマー制度に則ったカリキュラムも作り、研修を始めました。今ちょうど1期生が卒業するところで、農地を探している段階ですね。

多々良さん:今やっている高齢の果樹農家さんを引き継ぐのではなく、新しく農地を探しているんですか?

茶谷さん:理想は引退される方のところへ引き継ぐ形で入ることなんですが、タイミングが合わないときは新しく苗木を植えるところからスタートします。ただ、苗木を植えても2~3年は収穫できず収入には繋がらないので、1200時間の研修では、その間に栽培する野菜の指導なども行っています。

岩本さん:引き継げるようにバイトもできるんですか?

茶谷さん:果樹農家さんの紹介などもやってます。果樹団地というエリアがあるんですが、研修の一環として剪定や収穫のお手伝いなどをしてつながり作りをしています。

岩本さん:団地!?

茶谷さん:山2つ分くらいの果樹園があります。神戸は県内でも有数の果物の産地なんです。

(果樹の就農学校の様子。)

多々良さん:果樹は人気があるんですか?

茶谷さん:そうですね。数年前から果樹で就農したいという人の声をよく聞いていたのですが、神戸市では当時なかなか研修場所がなくて、市外や県外に行かれた方も多かったんです。それはもったいないし、ぜひ神戸市でも研修機関を作れないかなと思っていました。今はシャインマスカットとかだいぶ人気ですね。桃も人気があります。

岩本さん:ちなみに、一番好きなぶどうはなんですか。

茶谷さん:…デラウェアです。

一同:(笑)

江﨑さん:果樹をしたいと思う方ってどんな方が多いんですか?

茶谷さん:飲食店をされていた方とか、パティシエさんなど。ずっと取引していてそこから果物に興味をもったとか。果物って栽培技術によって味がもろに出てくる。○○さんのぶどうが欲しいって言われたい、という方もいらっしゃいますね。

多様化する農業のこれから。

岩本さん:ネクストファーマー制度はどんな人に来て欲しいですか?

茶谷さん:集落の人と協力しながらできる方。自分の農地だけを管理するのではなく、そこに水を引くための溜池掃除や畦道の管理など、そのようなことを地域の方々と協力しながら実践してくれる人にきていただきたいです。

内山さん:地域のルールなどもありますし、その理解をしたうえで一緒になってやってくれる人に来ていただきたいですね。

多々良さん:一緒にやってくれることが大切、ですね。

野中さん:自然の中で自分だけの空間を探して田舎へ行きたい、みたいなイメージを持たれる方は割と多いかもしれないんですが、農業は共同活動であるということを理解していただけたらなと思います。

江﨑さん:ネクストファーマーになりたい、と決断するときの一歩って、何が違うんでしょうか。

茶谷さん:ネクストファーマーの一歩手前の段階って、家庭菜園とか市民農園だと思うんですけど、そことの違いは、作ったものを販売するかどうか、かなと思います。これからネクストファーマーになりますっていう方とお話していると、ちゃんと売れるようなものを作っていきたいという声をよく聞きます。

多々良さん:これからの将来像みたいなものはありますか?

内山さん:将来は、やはり本格就農に繋げていけたら一番いいなと思っています。ネクストファーマー制度から農業の世界に入り、それがきっかけで本格的に規模拡大していくような方が現れると嬉しいです。そして就農だけじゃなくて移住にも繋がったらいいですね。

茶谷さん:これから農業をやってみたい方にとっては、ネクストファーマー制度はとても良い選択肢だと思います。新聞や広報誌に掲載されたときはたくさん問い合わせがありました。他の市町村からの注目度も高いそうで、新しい仕組みづくりのいい事例になるように私たちもがんばっていきたいです。

文:江﨑瑞希
写真:岩本順平 
一部写真:神戸市・神戸農政公