「種はおよぐ」の取材を通じ、料理人、農家、漁師いろんな方々とお話をしてきました。
地産地消への想いはあるけれど、みんなそれぞれの抱えている課題から、実現できない現状があります。

それなら一度、立場の違うみなさんで集まり、意見交換しながら、解決策を見いだせないかと、料理人、農家、漁師それぞれ3名ずつ集まっていただき座談会を開催しました。
「一番の問題はこれ!」「これって本当に環境にいいの?」
本音が飛び出したクロストーク。前編後編2回にわけてお届けします。

前編 ~みえてきた、農家と飲食店のすれ違いとマッチングの可能性 ~

■会場:fusible
■SPEAKAR
農家チーム
【芦田農園 芦田賢太郎さん】
神戸市西区神出町を中心に白菜、キャベツ、コーン、いちごなどを栽培。露地7.8haハウス約15a。楽農生活センターのハウスの管理や神出町にある「FiveCountryCafe」の経営も行う。農家でもあり飲食店経営もするパワフル農家。

【石田篤さん】
(株)ビオ・マーケットにて有機JAS農産物専門の流通、卸を行う。
プライベートでは神戸市北区大沢町にて妻と一緒に「さとのくらしfarm」の屋号で農園を営み、野菜ボックススタイルで地域の方に届ける活動を行っている。卸業、農家、両方の立場を知る貴重な存在。

【もりたんぼ 森田守さん】
神戸市西区押部谷町にて、農業知り合いが全くいない中、農業スタート。就農12年目。現在2haの畑でニンジン、パクチー、季節野菜を栽培。今回は過去に飲食店に出荷していた経験談をもって参戦。

料理人チーム
【fusible 室之園俊雄さん】
神戸出身。元町にて完全予約制のフランス料理店を経営。生産者さんと一緒に何かしたいという情熱を秘めた料理人。

【Za’snatch 清水淳史さん】
神戸市中央区琴ノ緒町にてイタリアンのシェフを務める。

【天天 テンテン 豊田康之さん】
オーナーから引き継いで、王子公園にて中華料理店を経営。半年前より野菜づくりを始め、自分のつくった野菜や神戸産のものを使った中華料理のお店を計画中。

漁師チーム
【山田水産 山田幸治さん】
漁師歴28年。須磨でのり養殖、しらす、いかなご、タコを漁獲。仲間と神戸産の魚のブランド化や流通について模索中。

【東垂水共同水産 西村和基さん】
垂水漁港で親の代からの漁師。しらす、のり、いかなごや底引き網では主に鯛、カワハギ等を漁獲。

【兵庫漁業協同組合 糸谷謙一さん】
兵庫区で祖父の代から漁業家系。船引き網でしらす、のり、いかなごを漁獲。環境保護、資源管理の活動も行っている。

司会進行
【MuFF 今津修平さん】
一級建築士 「fusible」「Za’snatch」の2店舗の設計も担当。

【つるまき農園 鶴巻耕介さん】
「種はおよぐ」コーディネーター。北区淡河町にてサツマイモ農園や農村定住のコーディネートなどいろいろ営み中。

【DOR 岩本順平さん】
「種はおよぐ」プロデューサー、カメラマン。都市と農村をつなぐウェブマガジン 「KOBE URBAN FARMING」にて農家、漁師、飲食店さんを多数取材。


鶴巻さん:みなさん、こんにちは。「種はおよぐ」というサイトでは、「食」と「里」に関わる人々に取材をしています。
今回のテーマのきっかけは、知り合いを神戸に連れてきて「神戸野菜、神戸の魚が食べられる店を」と思った時に、意外に思いつかないような気がして。
それは、いろんな問題から、実現が難しいからだと思います。今日は異なった立場の皆さんから、それぞれ知恵やアイデアなどをあげてもらい神戸の店で神戸のものが食べられる環境づくりがみえてきたらと思います。

~ 地産地消の最大のミゾは『野菜の値段<配送料』にあり ~

森田さん:農家の森田です。うちは飲食店とも取引をしているのですが、数年前に送料が一気にあがったんですよ。
野菜って基本、単価が低いし、飲食店さんがつかう野菜の量は多くないから、例えば野菜1000円に送料が1500円とかになってしまい、けっきょく続かなくなって。

今津さん:あ~それは厳しい。

森田さん:代替え策として、集配所を決めて取りに来てもらったんですけど、結局ダメでした。取りに来るのにもガソリン、人件費がかかりますから。
ぼくが思うに、一番大きい問題、ミゾは配送料です。燃料の高騰は今後も続くから。

今津さん:芦田さんはどうですか?

芦田さん:うちは自社で配送まわっているけれど、やはり量による。白菜2トン積んで市場へ行くのはわかるけど、2ケース(30キロ)で西区から三ノ宮まで来るのは大変。
例えば、三ノ宮中の飲食店が白菜の注文をまとめ、こちらも他の農家にも声かけて、一度に大量に持ってくるってことはできる。でもそうしたら、飲食店みんな同じものをつかうことになるし、店の特色も出しにくくなるから飲食店側にそこまでするメリットがあるんかなという気もしています。

豊田さん:中華料理なら小松菜などは大量につかいますけどね。

石田さん:野菜ってほんと単価が安いから、お二人みたいにひとつの野菜をある程度の規模感でつくっていると、今お聞きしたような問題がある。

今津さん:石田さんは野菜の卸をされてるから、そのあたり詳しいですよね。

石田さん:僕はプライベートで今、北区で4反(たん 約396平方メートル)という、農家としては成立しないような小規模で畑もやっています。
そこで年間60品目の野菜をこまごま育てて、まだ商売にはなっていませんが、野菜ボックスとして「内容お任せ」でお客さんに届けている。そういう小規模農家さんたちはまだマッチングの可能性があるんじゃないでしょうか。
例えば、週1回6品から10品を消費者に届けるぐらいの規模を×100件ぐらいまでいったら商売として成立するような気がするんです。その100件いくまでに、レストランも何件かまわるとかならいけると思うんです。
小規模農家さんだと逆に卸とかスーパーでは数がそろえられず合わないので、マッチングの可能性がみえてくるような気がします。

今津さん:なるほど、規模によって変わってくるんですね。

石田さん:農家さんの規模や生産規模によって合うマーケットが違ってきますよね。規模感と使用感のミスマッチがみえていないから出る問題。もしそうであれば、ここがヒントになってくるかもしれないですね。

~ 安定購買のしくみづくりと責任の所在が重要 ~

森田さん:以前、レストランを数件かかえている大規模飲食グループから、僕の個人で卸をやっている友人に提案があったんです。友人の卸をしている場所を、集配場所として借りて、飲食店と西区の農家をつなぐ集配システムをつくりたいと。
その飲食店グループが他の飲食店の注文も集めて、量もとれるし、レストランが持ち回りで集配も行く。一週間前に農家が欲しいものをネットにアップし、レストランもその通りだいたい発注するというシステムもつくった。

今津さん:いいですね!

森田さん:でもダメになったんです。ふたを開けてみたら、注文がない。
飲食店さんは一週間先のお客さんの流れがよめないから、発注できないと言うんです。
農家は1週間前にとれる作物をアップして、その予定で準備しているのに、注文してくれないと作物は傷んでしまう。

今津さん:でも、作物はお客さんの流れに合わせて、実るわけではない。

森田さん:はい。そういうことが続くと、今度は責任は誰かということになる。誰が責任をとるのかということになり、けっきょく1レストラン×1農家の取引がベストということになり、今はそれで落ち着いています。
農家と飲食店の間が直接やり取りをする時は、誰が責任をもつのか、これも重要ですね。
僕ら農家は取引数が少なくても別に良いんです。定期的にとってもらえれば。

~ 発注する側の意識の変化と卸(おろし)という役割 ~

石田さん:僕はふだん卸業をやっていて、スーパー、八百屋、小売りといろんなところと取引するからわかるんですが、発注から納品までに一番時間のスパンが短いのは飲食店なんです。
前夜に在庫をみてファックスして注文。翌朝には届いているというそんなサイクル。そこを機能させているのが卸なんです。
卸は毎日市場へ行って野菜をロットで購入する。だから、ある程度、数や種類が違っても対応できるし、対応するのが卸の仕事。卸を介さずに直接やるのは本当に難しいと思う。
卸を入れないということは、そこの感覚を変えないといけない。じゃないと飲食店と農家とのすれ違いは起こってきますよね。卸なく、ダイレクトにするにはお互い覚悟がいると思います。

今津さん:ちょっと意地悪な質問してもいいですか?
今回のテーマが地産地消ですが、そもそも生産者としては、神戸で消費されるメリットってあるんですか?実はどこで食べられてもいいとか。

芦田さん:白菜などはわかりませんが、夏場のとうもろこしなどはありますね。とうもろこしは、収穫したてが一番おいしいので、できるだけ、採ってすぐに食べてほしい。だから我々は朝の1時から畑に入って収穫作業をしています。

一同:朝の1時っ!!

芦田さん:美味しく食べてほしい、そこが一番ですね。

前編終了
(なんと、このあと最大の問題、配送料について解決策がみつかる!?後編へつづく)