つながるレストランとは、
神戸の農家さん、漁師さん、養鶏や畜産、酪農家さんなど、「種はおよぐ」のこれまでの取材やイベントでつながった生産者さんの食材を、「種はおよぐ」メンバーや神戸のシェフが調理し、生産者の方々ともに神戸の里、山、海の食材が生まれる場所を会場にして一日限りのレストランを行うという企画です。
最終回である第4回のつながるレストランは、「未来編」として、これまで種はおよぐの取材で登場いただいたみなさんにお声かけをして、1月21日(土)に北区大沢(おおぞう)町にある一十土で行われました。

トークセッション①持続可能な調達とは

今回の会場となった一十土は、2023年1月まで神戸地域おこし隊を務めた吉田さん(https://tanewaoyogu.com/969)が改装された一棟貸しの民泊施設です。床を全面土間にした開放感のある空間に、農家や漁師をはじめ、食に関わりのあるみなさまにお集まりいただきました。

今日の会場の一十土

これまでの3回とは異なり、最初にみなさんの取組みを聞きながらトークセッションをしました。今回のテーマは、昨年の夏に近畿農政局さんにお話を伺った「みどりの食料システム戦略」(https://tanewaoyogu.com/1649)の中に登場する、持続可能な調達や流通についてです。

(みどりの食料システム戦略より)

海外に依存してきた資材やエネルギーの調達、そしてムリ・ムダのない流通について、どんなことから始めていけるでしょうか。まず、資材の調達という観点でお話をお聞きしたのが、北区淡河町で活動する淡河バンブープロジェクト(https://tanewaoyogu.com/291)の武野さんと安藤さんです。
「放置竹林を活用できないかということで活動を始めました。竹は生命力が強く、例えば竹林と畑が隣接するような場所ですと、適切に手入れをしないとあっという間に竹林に飲み込まれてしまいます。そうやって耕作放棄地になっていくと、イノシシなどの住処となり、近隣の畑への獣害が広がります。なんとかこの竹を活用できないかと思い、メンバーで学びながら、食用としてメンマに加工したり、竹細工をつくったりしています。」

竹は、粉砕機でパウダー状にすると、畑の改良材や肥料にもなりますと話すのは、有機農家の大皿さんや石野さん(https://tanewaoyogu.com/135)。また、堆肥になる牛糞に混ぜ込むことによって発酵促進にもつながるため、これまで海外から輸入していた木くずの代わりに、地元の竹を使えないかという取り組みも始まっているそうです。

次は、消費者に近い場所にいる、神戸ベイシェラトンホテルの西橋さん(https://tanewaoyogu.com/1679)に聞いてみます。レストランなどで、生産者の紹介をすることに加え、生産者がどうやって資材を調達しているかを消費者に伝えることは、サービスの価値を高めることにつながるのでしょうか。
「野菜を売っているところでは、生産者の方の名前を入れています。どこの誰々さんだけではなくて、この人はどういうことにこだわっているのか、何を使って栽培しているのかというのは消費者の方には強いメッセージになりますし、そこまで知りたい方が多いような気がしています。」

神戸酒心館の安福さん(https://tanewaoyogu.com/654)も、日本酒の原料となる酒米の調達について、危機感と取組みを教えてくれます。
「私たちはお米を原材料としているので、これからも山田錦(※酒米の品種)を大量に、安定的に、継続的に調達できないとお酒がつくれません。そのため、今の温暖化などの問題は非常に高リスクです。できるだけ環境に負荷をかけないお酒づくりを目指していて、この大沢町地域のみなさん、神戸市、JA兵庫六甲、コニカミノルタ、そして私達で研究会をつくりました。コニカミノルタさんからはドローンを活用し、俯瞰的にお米の生育状況を把握して効率化を目指したり、肥料であれば、神戸市さんの下水処理場から抽出された再生リン(こうべハーベスト)や、北区の弓削牧場さん(https://tanewaoyogu.com/117)のバイオマス発電から出てくる有機消化液を使ったりといった、循環型の調達にも取り組んでいます。コロナの期間は日本酒の業界としては本当に厳しく大変でしたが、こうしたプロジェクトが少し前に進めたという意味ではよかったかなと思ってます。」

一方で、環境に配慮した商品が消費者行動を変えるかと言えば、そこはまだまだつながっていないのも現状だそうです。有機農家の大皿さんからも、
「有機農業の世界では、世界と日本の温度差や乖離があります。世界は環境を自分たちで守っていきたいという目線で有機農業を推進していますが、日本ではどうしても身体にいいとか美味しいとか他に視点がいってしまう。世界からはかなり遅れている。それが最近ではSDGsやみどりの食料システム戦略によって、ようやく環境ですよねと。今の生活を続けたら地球が3個要りますと。そこに日本人もちゃんと理解ができて、私たちが買っているものが環境を守ってるんだって変化していくと、消費行動も変わるのでは。」
という問題提起がありました。

漁業はどうでしょうか。東垂水地区で漁師をしている西村さんと若林さん(https://tanewaoyogu.com/2116)に聞いてみます。
「最近、こういう場に足を運ぶことが増えてきて、前の世代ではなかったことなんじゃないかと。漁師って、港から出て魚獲ってその港に帰ってきたら、もうそれだけで生活できていたんです。けれど最近は、自分たちでどう売っていくかとか、食べてもらうかということも考えていかないといけません。それで、僕は漁師が生産者と呼ばれることに違和感があり、僕たち漁師は自然が生産したものを獲ってるだけなんです。なので、残していく漁業にしないといけない。漁業でもTAC管理などが始まっています。昔は週6日間漁に出られていたのが、今は魚が減っていて週4日間しか出れないんです。農業における土や肥料が大事なのと同じで、海にもそういうことが必要なのではないかと感じています。山から海に栄養をもらって、そしてまた山に返すという循環といいますか。獲り過ぎない、資源を残していく業種としてあるためには、消費者の方々にはつらいかもしれないですが、商品価値を上げて適切な量を少し高く買っていただいて、その代わりに資源を守って生活できるようにしていかなければと思っています。」

(若林さんが今朝釣りあげた鯛。料理人の森本さんと。)

トークセッション②持続可能な流通とは

調達の話から、少しずつ流通の話にも移っていきます。西村さんの話を受けて、漁業と関わりの深いカメラマンの岩本さんからこんな話題が。
「最近、神戸産の野菜はよく見るようになってきましたが、神戸産と書かれた魚ってほとんどないんですよね。よくて兵庫県産という表記になる。今までだと市場に卸して遠くに運ばれていっていたものが、神戸の中で、神戸で獲れたものという認識で少しずつ食べてもらえるといいなという活動をしていきたいんですよね。また、生産者の割合がどんどん減っていく中、生産者が変わることで何かが変わる比率って下がっていて、やっぱり流通とか、消費者の意識のことの方が大事なんじゃないかって。」
消費者や流通の視点で、普段は中央区の元町でNEIGHBOR FOODという食料品店を営む安藤さんから、日々の実践と葛藤のお話がありました。
「一般の方の意識が中々変わらないっていうのは感じます。私たちのお店では、毎日お弁当をつくっていて、お弁当箱を持ち込んでくれたら割引しますよっていうのをやっているのですが、ほぼ毎日お店に来てくれるような方でも中々応じてもらえなくて。でも、実はこうした行為は、私たちのゴミを減らすことにつながっているっていうことをめっちゃ説明したら(笑)、弁当箱を持ってきてくださるようになって。自分のお弁当箱に詰めてもらうとすごく美味しいですねと言ってくれて。この1歩がすごく遠いんです。量り売りなどは、少しずつ利用いただく方が増えているので、兆しは見えているのではないでしょうか。生産者だけでなく、消費者や私たち、みんなでやらないと。SNSで発信するとか、コツコツとですね。」

すかさず吉田さんから投げかけが。日本だと、そういう行為を「意識高い系の人がやること。」と揶揄されがちですが、こういった意識の変容や言われ方をしないアイデアはあるのでしょうか。海外ではクールだよねってなることが、日本ではなぜこう捉われがちなのでしょうか。
ここで話を聞いてみたのが、20代で新規就農と西区の農村エリアでカフェを開いた、C-farmのクリスさん(https://tanewaoyogu.com/1437)。20代の目線は、どこに。
「私のお店のお客さんの90%は女性です。年齢層も30代~40代後半の方くらいのイメージです。子どもが少し大きくなって、落ち着いていいものが食べたいと来られた方に聞くと、やっぱり子どもにはいいものを食べてほしいと言われます。意識高い系って思わせないためには、そういう想いのあるお母さんたちに自然と食べてもらい、畑とお店を行き来する私のような存在から直接話を聞いてもらって、子どもたちにも伝えていくっていう流れをつくっていく方が間違いないのかなと思います。たぶんお客さんも、最初はそういうことに興味ない人も多いんじゃないかと。シンプルに、新しいお店があるから来たって感じなんですけど、メニューの話の中で、西区でこんな野菜や果物をつくっているんです、実はいちご農家がこの周りにいるんですとお話すると、世界が1つ広がるといいますか。その積み重ねかもしれないです。」

最後は教育の話にも。安福さんが語りかけます。
「去年の夏に、小学生向けにSDGsのワークショップっていうのをやったんですね。今の子どもたちは、学校でSDGsなどを学ぶことによって、我々とは違う価値観を持っていくかもしれません。地産地消を推進していきましょうとか、未来に対して投資をしていく感覚が大切ですね。」
大皿さんも続きます。
「オーガニックに携わる流通の人と話してて、有機農産物を買い支えてくれている中心の方々は、これまでお子さんが生まれるタイミングとか、子どもさんたちが独立して夫婦2人になり、たくさん食べれないけどいいものを食べたいって人たちだったんですよね。ただ、最近は20代の人が選ぶっていう流れが増えてきていて、流通の人たちはこの人たちをオーガニックネイティブって呼んでいます。これ何かというと、学校教育で環境のこととかSDGsを学んでる世代が、自分が買うのはこういうものだって自ら選択しているんです。やはり、教育の力で日本が世界レベルに近づいていくんじゃないかな。人は周りに合わそうとするじゃないですか。だから世代も変わっていき、そっちがメインになって、「意識低い系はダサいやん。」って言われるようになったらええよね(笑)。」

こうした世界が広がっていくためには、コストの問題も大切です。地産地消だからコストが下がるわけではなく、これまでは、そのコストを払える個々人が担っていたからこそ意識が高いと言われている側面もあったのかもしれません。賃金が上がらないという社会情勢の中で、どうやってこうした取組みを進めていくか。種はおよぐでもそのヒントや種になるものを発信し続けていきたいと思います。みなさま貴重なお話ありがとうございました。

話題は尽きない、食事の時間

トークセッションが終わり、食事の時間です。これまでつながるレストランで食事を提供いただいた對中さん、森本さん、そして仲間のみなさんが、素敵な料理をつくってくれました。

今日のメインはカレーです。鯛のアラで出汁をとったココナッツカレーと、豆とチキンのダールカレーです。お米は酒米です。

その他に、神戸の野菜のサラダ、酒かすでつくったグラタンなども並びました。

吉田さんが初めて育てた酒米、大皿さんや石野さんの有機野菜、若林さんが刺し網漁で釣り上げた鯛、酒心館さんの酒かす、弓削牧場さんのチーズなどが使われました。みなさんの意見交換が進みながらの食事となりました。

これで、4回に渡る「つながるレストラン」が終わりました。このプロジェクトに共感いただいたみなさまのおかげで、どの会もたくさんの学びとつながり、そして美味しい空間が生まれました。食と里と海をつなぐ、種はおよぐ。小さい活動ではありますが、これからもつながるきっかけを生み出すチームでありたいと思います。ご協力いただいたみなさま本当にありがとうございました。